見出し画像

ネパーリに招かれて

チベット・インド旅行記
#31,ポカラ①


僕が見ている世界は、はたして本当なのだろうか。
目まぐるしく移り変わる旅の日々は、いつかどこかに辿り着くものなのだろうか。
〜チベット・インド旅行記の日記帳より〜

【ポカラ】ネパールの首都カトマンドゥから西に200㎞、標高800mに位置する緑豊かな街。
大きな湖を囲むように立ち並んだ街並みは、都会の喧騒を離れ落ち着くには絶好のロケーションで、避暑地として、長期滞在のスポットとしてツーリスト達に大人気の街だ。

ヒマラヤへ向かうトレッキングの基地としても有名。

 


まどろみのような3週間のカトマンドゥ生活を終え、ツーリスト達を満載に積んだバスへと乗り込んだ。
徐々に田舎道へと変わっていく景色を眺めながら、タメルエリアで買ったピザパンをかじる。

またアテのない旅の始まりだ。


ポカラの街へは思いの外早く着いた。
街路樹や雑木林がしげる緑多き街で、青々と広がる湖にせり出すように建てられたペンション風のロッジやレストランが、湖岸にオシャレに並んでいる。

雰囲気で言うと日本の那須軽井沢に似ていなくもない。

昼過ぎ、湖のそばのゲストハウスにチェックインを済ませ(1泊100ルピー、約160円)、荷物を置き、軽装のまままたバスに乗り込む。


カトマンドゥで知り合ったネパーリのデュランの紹介で、山奥の親戚家族に会いに行くのだ。

ツーリストバスから、地元民の乗る小さなマイクロバスに乗り換え、山道を2時間ほど登る。

そこから更にミニバンで1時間。


段々畑が連なり、小川が流れ、ネパールのローカルな赤土の家がぽつんぽつんと立ち並ぶ。山と山に挟まれた渓谷の集落だ。

バスを降りるとデュランの親戚のおじさんが待っていてくれた。
丘を越え、小さな土づくりの家に案内される。


おじさんの家には電気もガスも無く、家の真ん中に小さな囲炉裏がポツンとあるだけ。土の上に敷かれた布の上に直座りする土間スタイルだ。
そんな小さな家におじさんの兄弟姉妹含め8人が暮らしている。


おじさんはさっそく薪で火を起こし、今朝採れたてだというミルクと、出来立てのダルバードを振る舞ってくれた。


ミルクはちょっぴり固形のものが浮いていたが濃厚で美味しく、ダルバードはレストランでもちょっと食べられないぐらいの絶品だ。
パパイヤが一緒に煮込まれた甘口のスープカレーと、パサパサとしたネパール米がほどよく絡み合い、思わずおかわりを頼んでしまうぐらいのハーモニーを奏でている。



おじさんは食事の後、一緒にバッファローを見に行こうと誘ってくれた。
家から歩いて1時間、丘向こうの畑には、アヒルやヤギやバッファローが放し飼いで飼われている。


雄大なヒマラヤの尾根に囲まれて静かに暮らす人々の日常。


そうしておじさんと2人、特に何をするでもなく夕暮れを過ごした。

山の斜面に夕陽が当たり、遠くのヒマラヤの雪面が赤く染まる。
段々畑に長い影が落ち、夜が近づいていく様をいつまでもじっと眺めていた。




日が暮れると、山間の集落は途端に冷え込む。
家族一同、暖をとりに囲炉裏に集まった。
昔は日本にもこういった家族の風景があったのだろうか。


チーヤ(チャイの事をネパールではチーヤと呼ぶ)を沸かし、思い思いにくつろぐ家族。

今晩は私の歓迎祝いという事で、飼っているアヒルを特別に絞めてくれる事になった。


アヒルの首を切り、羽をむしり、臓器を取り出し、ぶつ切りにしてカレーのスープに放り込む。
そして、ゆっくりと時間をかけて煮込む間、炭火でローティー(ドーナツ状のパン)を焼いて食べた。


炭の匂いがしっかりと染み付いたローティーは、きっとネパーリにとっての故郷の味なのだろう。
アツアツのローティーにがぶりとかぶりつくと、何故だろう、不思議と日本の故郷が懐かしくなって、目頭が熱くなってしまった。


日本を離れてから6ヶ月。
気がつけば旅の中で私の心は弱っていたのだろう。
胸の奥底に隠れていた感情が、囲炉裏で揺れる炎のゆらめきに照らされて炙り出されていく。

 


僕は恋しい。
恋しい。
故郷が恋しい。

通り過ぎてきた全ての出会いや別れが恋しい。
もう2度と帰って来ない過去が恋しい。
恋しい。

 
 


行くアテの無い旅の途中、立ち寄った1晩の宿は、束の間の静けさと安らぎに満ちていた。
 
 


 
⇨ポカラ②へと続く

 

【チベット・インド旅行記】#32,ポカラ編②はこちら!

【チベット・インド旅行記】#30,カトマンドゥ編②はこちら!

 


絵本作家まえだゆうきの大人気絵本、好評発売中!!



【チベット・インド旅行記Kindle電子書籍でも発売中!】 

大冒険の行方を、新書スタイルでイッキ読み!!
応援宜しくお願い致します!

この記事が参加している募集

皆様のサポートお待ちしております。頂いたサポートは「世界の子供たちへ絵本を届け」「旅の紀行文をnoteで発表し」皆様に良質の文章を還元する為使わさせて頂きます 絵本のレビューありがとうございます⭐️ https://www.amazon.co.jp/~/e/B082YC42XL