何かを成す為には私はあまりにも非力で、日々は単調で、タイ行きの壁は高く高くそびえている
タイ旅!
#11, 日本③
【前回までのあらすじ】まえだゆうきはタイに絵本を売りに行くと決めたのじゃ。
ファイナンシャルプランナーの高木さんは、スラッとした出立ちと爽やかなマスクが好印象の青年だ。
軽くかき上げた髪とインテリジェンス漂うメガネ、清潔感あるスーツ姿からは、保険外交員のプロとしての説得力が漂っている。
今でこそフリーのプランナーとして営業活動をしている高木さんだが、
もともとはピアノの弾き語りシンガーソングライターをやっていて、音楽事務所で長くスタッフも勤めていた事もある。
私は絵本作家を始める前、ミュージシャンを目指して音楽事務所に所属していた事があって。
高木さんとはその時に知り合い、義理で保険に加入して以来、音楽を辞めた後もたまに会っては活動について話し合ったりしていたのだ。
タイ旅!が始まる1年前。
ここは東西線行徳駅前のサイゼリア。
セロリのピクルスとマルガリータピザをつつきながら、今日は絵本活動のミーティングだ。
「前田さん、大切な事は前田さんの活動を皆に応援してもらう事ですよ。
クラウドファンディング(寄付を募る事を目的としたオンラインのプラットフォーム)で一発逆転狙う人も多いけど、結局ほとんどの人は資金が集まらずにフェードアウト。
寄付を募る時点で、どれぐらいの見込み客が既についているかが全てですからね」
「うーん、見込み客ねー。
でも、自分なんて特定のファンがついているわけじゃないし、
ファンを作るためにあちこちに顔出すほど時間も金もないからなぁ」
「前田さんの場合は、絵本を書いているわけだし、オンライン上で前田さんの強みを活かした方がいいですよ。
漫画書いたり、イラスト載せたり、とにかくタイ行きを宣伝して、応援してくれる人を見つけるんです」
高木さんいわく、タイに旅立ってからが勝負なのではなく、
日本で準備している時から勝負は始まっているのだそうだ。
さすが、ファイナンシャルプランナーのいう事は一味違う。
「とにかく。保険っていうのは、その人その人に合った条件の設定が大事なんです。
僕としてはもっと前田さんに保険に入ってもらった方が得なんですけどね。
でも前田さんの人生はいわゆる一般的な生き方じゃない訳だから、掛け捨ての保険は全部削って、いざ、タイで困った時に使えるようの積み立て型だけ残しておきましょう」
高木さんは頭が良くて弁が立つから、最終的に保険の営業にも、うまく話を持って行かれた気がするが。
でも確かに思う。
私はどんな人生をこれから歩んでいきたいのだろう。
どんな人生をプランニングしていきたいのだろう。
「タイに絵本を売りに行く」という事は、今までとは違う生き方を自ら選択するという事だ。
大袈裟かもしれないけれども、きっとタイに行ったらもう、元の普通の生活には戻れない。(普通の生活って何だ?)
サイゼリアからの帰り道。
駅前で行き交う人の流れをぼんやり眺めながら、不確かな未来に思いを馳せた。
そしてクラウドファンディング。
一体タイに絵本を売り込みに行くのに、どれだけのお金がかかるのだろうか。
往復の飛行機代に滞在中の宿代、ご飯代。
タイに行くからにはバイトも辞めないといけないから、帰ってからの生活費1ヶ月分も確保しておきたい。
例えば50万円。
今の私の給料は週5日働いて手取りで13万円。
家賃を引いて、食費を引いて、水光熱を引いて、保険代、活動代、お小遣いを引いたら手元に残るのは月々1万円がやっと。
1年で12万円の貯金を頑張ってしたとして、あと4年弱。
40歳になるまでこの生活を我慢するか。
絵本活動を一旦中断して、金ためるためにバイト掛け持ちするか。
どうすれば良いのか分からない。
何かを成す為には私はあまりにも非力で、日々は単調で、タイ行きの壁は高く高くそびえている。
漫画、描いてみるか。
行徳駅の安アパートに戻る道の途中、ひとりごちてみた。
→日本編④に続く
【タイ旅!】#12,日本④はこちら!
【タイ旅!】#10,日本②はこちら!
絵本作家まえだゆうきがタイで絵本を出版するまでの、100%リアルなドキュメンタリー紀行文。
タイ旅!
毎週日曜日、連載中!
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【第8回絵本出版賞受賞作品】
お楽しみに!!
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