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企業のバリューアップ考①バリューアップは「サボりの知恵」から生まれる

これまでも書いていますが、M&Aは成約がゴールではありません。まさにスタートです。私はM&Aアドバイザーである前に事業家ですので、特にその思考が強いのですが、成約後を見据えて動かないと、特にM&A経験の少ない中小企業では、結果的にうまく行かないことになりがちです。

M&A後はどのフェースになるかと言うと、バリューアップ(PMI)です。事業承継や資金的に苦しい会社に手を差し伸べる救済型など、M&Aの目的は様々ありますが、買い手にとっては、その後より成長していける、あるいはマイナスから回復させることができるという見込みのもとで、企業を買い取るわけです。前社長や株主のためにボランティアするM&Aなどあり得ません。

売り手企業の社員のことを考えると、成約後に素早くそのフェーズに入っていくことが求められます。ある程度安定して自走経営できる会社であっても、買収されてオーナーと社長が入れ替わるというのは、社員にとってはビッグイベントです。しかし、その後に何も変化しないなら、社員にとっては「この会社を一体どうしたいのか」という疑心暗鬼しか生まれません。

新たに社長に就任する人は、成約の前、交渉の段階から、そこを見据えて動く必要があります。私は、アドバイザーとしてそこをとても重要視していて、このまま成約できそうな案件でも、成約後にバリューアップできそうにない先については、正直に伝えます。結果、そこで交渉を打ち切ったケースもあります。

もちろん、そのためには買い手企業のことを熟知しておく必要があるのですが、そのような関係性をつくることも必要だと思っています。

バリューアップの第一歩はコスト削減

企業のバリューアップとは、何もM&Aに限った話ではなく、企業を経営していると常に求められることです。それは売上・利益のアップなのか、商品群を増やす・絞り込むことによる効率化なのか、異業種への横展開なのか、あるいは自走可能状態にするなど社内体制の見直しなど、様々あると思います。

数字上で言うと、売上を増やすか、コストを減らすか。ここが軸です。その中で、最も着手しやすい部分はどこかと言うと、一般的にはコスト削減でしょう。コストを減らして利益を最大化してから、次の攻め手に移行するのが王道です。

では、そのコスト削減は何が軸になるかと言うと、言うまでもなくIT化です。私はIT系の企業を長く経営してきましたので、そこが全くと言っていいほどできていない中小企業の実態は、散々見てきました。Windows95でインターネットが普及しはじめて、どんな会社でも一人一台のPCがある状況になっても、IT化は遅々として進んでいません。

以前、あるVCの人が「昔は数種類のシミュレーションを作って検討していたものが、エクセルを使うようになって数百種類のシミュレーションを求められるようになり、PC導入前とかかる時間は変わっていない」とこぼしていました。これなどは無意味なIT化の典型で、机の上でどれだけ数字を弄っても、せいぜい50%くらいしかわかりません。投資判断でここまで要求するのは時間の無駄でしょう。

目を中小企業に転じます。

最近では、コロナ対策で世間が在宅勤務になった時、事務職でありながらそれができないところが多かったことで、IT化の現状が改めて世に知らされました。要は、クラウド上にデータがないので、場所を変えるとアクセスできないわけです。

「コロナをきっかけに働き方が変わる」などと言われても、せいぜいZoomなどのリモート会議が増えたくらいで、基本IT化は進んでいません。欧米でFAXを使う企業はほとんどない今も、日本の製造業などではFAXが未だに主力です。感染症が広がって、リモートワークをやりたくでも方法がわからない企業も多くあります。

もしかしたら、1人でできる仕事を2人でやってるかもしれません。1時間でできることを、3時間かけているかもしれません。これは大袈裟でなく、このレベルの非効率が平然とまかり通っているのが、中小企業の現状です。中にいる人たちは、それが非効率かどうかも気づいていません。

中小企業のIT化は社長次第

これまで、数多くの中小企業を見てきて断言できるのは、中小企業のIT化はトップマネジメント次第です。つまり、社長のリテラシーと必要性の認識度合い以上に、企業がIT化することはできません。今の職場が、とんでもなく昭和な非効率を強いられている会社だったとしたら、その原因は100%社長にあります(そんな職場の人がこのブログを目にするとは思えませんが)。

ITによって効率化するコツは、「まじめにサボる」ことです。ラクをしたいから、その仕組みに知恵を絞るのです。結果、3時間かかっていたものが1時間でできるようになり、空いた2時間で他のことに取り組むのが、まじめなサボりです。それを社長がまず取り組まないといけません。

私は米国の大学に留学した経験と、シリコンバレーで起業した経験もあるのですが、そこで出会った多くのビジネスマンたちは、本当によく働きます。しかし、その働き方は日本人とは全く違います。大きな違いをひと言で言うと、「まじめにサボる」癖があるかどうかです。彼らは、短時間で仕事を終わらせるために、常に知恵を絞っています。そのためにITを使っています。

その使い方は、数百種類のシミュレーションを作って、同じ仕事にこれまで以上の時間をかける日本の企業とは、根本的に違います。

最近、ある零細企業を買収した人が「小さな会社のDX(IT化)の余地は宇宙より広い」と言ってましたが、本当にその通りだと思います。どんな小さな会社でも、少なくも事務や営業には一人一台のパソコンはあるでしょう。しかし、それでどれだけ仕事がラクになっているか、少し考えてみてください。手書きよりもきれいに仕上がる程度のIT化だと、やるべきことは山ほどあります。

繰り返しますが、それはすべて社長次第です。

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