凄腕の証明 〜女パチプロの手記〜①終
パチプロは、プロだという事を店に悟られてはいけない。
プロとバレたら出禁になってしまうからである。
パチプロは違法でも犯罪でもない。
しかし全国のパチンコ店には普通「プロお断り」というハウスルールがある。
店に「もう来るな」と言われれば逆らうことは出来ないのだ。
皆さんは、店で見掛けた事があるかもしれない。
まるでB級Vシネマに出て来そうな、山崎努のような渋くて味のある客を。
「毎日来てるし、きっとあの人パチプロじゃないかな!」
残念。十中八九、そういうオッサンはただのパチンカスだ。
本当のパチプロは……。
店員に横柄な態度などとらない。
絶対に台パンなどしない。
マナーが良く、身なりは清潔で地味。
居るか居ないか判らない程の空気が望ましい。
途中交換が可能な店ならば出玉はこまめに流し、なるべく下には積まない。
とにかく、目立たないことが大前提なのだ。
出禁にされては台無しなので、ハンドル留め禁止など、細かいハウスルールも全て守る。
店に嫌われるような行動は一切しない。
要するに、極めて礼儀正しく静かに大人しく打つ模範的な客こそが、パチプロなのである。
しかし、時には派手に目立つことを敢えてすることもある。
自分の技術はどのレベルなのか。
この台のスペックの限界はどこなのか。
店はどこまで出しても許されるのか。
その境界線ギリギリを知ることは重要だ。
「旅打ち」は、それらを試すには絶好の機会である。
旅打ちとは、普段とは違う土地で打つことだ。
一回限りでもう二度と来ることのない店なので、プロとバレても構わない。
派手にぶっこ抜いて、ホームでは出来ない検証を纏めてするのだ。
ある日私は知らない土地の知らない店で、京楽のとある機種を打っていた。
当時の京楽の台はワンツー打法が有効であった。
大当り中にハンドルを少しひねり、アタッカーに通常より1玉多く入れる打法だ。
たった1玉といっても馬鹿に出来ない。
チリツモで1ヵ月約80万円も多く余分に儲かる計算となり、かなり強力だった。
普通は大当り中だけ。
しかし、私は更に高みを目指す。
時短中も、さらに通常時もやる。
ここまでやるプロはまずいない。
しかも私の打法はひねらないので見られても全くわからない。
ちなみに、この行為はパチスロの目押しと同じで、合法だ。
「お客様!」
ついに私は店長から声をかけられた。
「あの……程々にして頂けると有難いのですが……」
店長は困惑している。
それもそのはず。
ずっと後ろに立って私の打ち方を見ていたのに、どこも怪しくないからだ。
私はどう怒られるのか楽しみだった。
「実はですね、警報が鳴ってまして」
警報?
「150を超えて……」
……ほう!
なるほど!
つまり、ホルコンだ。
ホルコンが警報を鳴らしたのだ。
どんなに上手いプロでも、割数が110を超えることはない。
警報は140に設定されている。
普通なら有り得ない数字だ。
それが150を超えたと言うのだ!
事務所は大騒ぎに。
しかし打っているのは普通の女性。
ワンツー打法は確かにやっているようだが、監視していてもわからない。
だから困惑しているのだ。
「警報が鳴るなんて初めてで……」
この店は特にひねり打ちを禁止しているわけではない。
だから、もし客に騒がれると店も困るのだ。
……店長をいじめるつもりはない。
検証は終わった。
私はニッコリ笑って言った。
「帰ります」
店長は慌てて
「いえ!続けて下さい!……ただ、程々に、としか……」
と、汗だくだ。
しかし私は立ち上がり、出玉を流して退店した。
気分爽快だった。
ホルコンが認めてくれたのだ。
私を「凄腕」だと。
焦らせてごめんね店長。
さ、温泉でも入りに行くか!
おしまい
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