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中国の子供生活調査レポート【3】教育事情 ~幼稚園から始まる受験戦争~

今年も師走に入り、年明けの受験本番に向けて受験生は臨戦モードになっている頃でしょうか。日本では「お受験」という言葉があるように、受験年齢はどんどん低年齢化しています。では、お隣中国の受験事情はどうなっているのでしょうか。
前回の「仕事、家事・育児に奮闘する子育てママの悩み」に続き、今回は子供たち自身の勉強や習い事について実態をお伝えしていきます。中でも「受験」が中国の子供の生活に、大きな影響を及ぼしていることが、調査でも明らかになりました。中国の受験事情を踏まえ、実態を見ていきましょう。


今年の受験者数は過去最高!かつての「科挙」と現代の「高考」

中国が一人っ子政策を廃止し、今や3人の出産まで緩和したのは下げ止まらない少子化が原因ですが、それでも子供が増えないのは経済的な理由、特に高騰する教育費の負担です。根本には長い歴史の中で受け継がれてきた独自の「受験文化」があります。
中国は伝統的に教養と人徳のある文人が尊敬され、官僚の地位が高いことが特徴です。かつて「科挙」という過酷な官僚登用試験制度があって、6世紀からなんと約1300年もの間続きました。もしそれに受かれば、身分や家柄には関係なく国家の支配階級になれたのです。そんな言わば人生の一発逆転型の試験は、現代にも存在していて「高考(ガオカオ)」と呼ばれます。これは、全国の高校生が一斉受験する日本でいうなら大学入学共通テストですが、受験生たちの究極の目標は国が認めた権威がある「国家重点大学」に入ること。そうすれば、政府機関や国有企業や一流企業に就職できる可能性が手に入るので、現代の「科挙」と言っても過言ではないでしょう。

中国教育部の発表によると、2021年の受験者数は過去最高のなんと1,078万人(対前年7万人増)!
その数、日本の大学入学共通テスト(旧・大学入試センター試験)受験者数の約20倍です。

教育熱が過熱するのはなぜ?

では、どうしてここまで受験者が増えているのでしょうか。その要因を4つに整理してみました。

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受験熱が高まる4つの要因

・中産階級拡大:
経済が成長して家計が豊かになり、教育に振り向ける余裕が生まれてきました。子供がしっかり勉強して将来成功すれば、教育にかけた以上の収入が得られるようになるので、教育費はお得な投資です。なので、家計から捻出する教育費の割合は年々増える一方、銀行ローンを組んでいるケースも。

・一人っ子政策:
2015年に一人っ子政策は廃止されましたが、今も子供たちは一人っ子がほとんど。自分自身も一人っ子として大事に育てられた両親にしてみれば、わが子の将来のために教育投資を惜しみません。さらに父方、母方双方の祖父母もこれに加わるので、6人からたった一人の子供に将来への期待と投資が一極集中します。

・広がる所得格差:
経済発展にともなって、産業も商業や軽工業から重工業、さらにはハイテクにと高度化して、より能力の高い人材が要求されるようになってきました。大学卒の資格はもはや最低条件で、より高度な知識や技能があるかどうかが収入には大きく影響します。

・低い大学進学率:
まずは「大学に入る事」自体が大変。高校進学率は6割未満でその内半分以下しか大学に入学できません。さらに、就職に圧倒的に有利になる「国家重点大学」を目指すとなると、2,738校ある大学の中でその数はほんの112校、全体の4%という文字通り「狭き門」です。※出所:data.stats.gov.cn

重点大学に入るためには、重点高校に入らなければなりません。重点小学校、重点中学校、そして重点高校から重点大学へ──という構造です。まずは「重点小学校への入学を目指そう。そうとなれば対策は早ければ早いほどいい!」 ということで、子どもに早期教育を受けさせることになります。また、「重点小学校」に通える学区が決まっているので、そのために引っ越しするというのもよくある話です。

中国の受験戦争は幼稚園からはじまる

では、親や祖父母の期待を一身に背負った子供はどのように日々の生活を送っているのでしょうか。

会話ができるくらいにまで成長すると、早々に幼児教育の教室に通い始めます。教室での習い事はたくさん!
マクロミルの自主調査結果では、幼稚園児でも平均2個以上掛け持ちで習い事をしています。習い事をしていない家庭はわずかに0.5%だけ。幼稚園児の約4割が3つ以上、小学校高学年では約3割が4つ以上も習い事をしています。子供の方から習いたいというよりは、「わが子の可能性は無限大。だから選択肢も多いほどいいし、勉強以外に特技があると受験にも有利」という親側の考えのようです。

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習い事の数(学齢別)

調査方法:インターネット調査 
調査地域:上海
回答者数:幼稚園児/小学生の子供を持つ母親1200名
調査時期:2021年3月 


では、どんな習いごとをしているのでしょうか。
英語は幼稚園から。なんと半数が英語塾に通います。勉強以外でも幅広く、特に運動や音楽系が3割前後で上位に来ます。学齢別にみると、幼稚園では二胡や琵琶、ピアノなどの音楽や、美術などが高め。小学校になると勉強系が増え、高学年になると「数学」「国語」の学習者が急増しているのが分かります。これはまさに、「高考」に向けて勉強し始めるからです。男女の比較では、女子はダンスや美術が高く、男子は運動が高いという差があります。習い事のランキングでは、家庭の年収による違いがありませんでした。学校以外の教育支出は、今回の調査結果では平均で月間900元(約16,000円)程度でしたが、上海はじめ都市部の中間層以上では学費まで含めると日本円で年間数百万円も支出する家庭は珍しくありません。私立の小中学校の高額な学費を問題視し、政府は私立の小中学校の新設を制限するとともに公立への転換を促し始めました。

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習い事の内容(学齢別)

調査方法:インターネット調査 
調査地域:上海
回答者数:幼稚園児/小学生の子供を持つ母親1200名
調査時期:2021年3月  

幼稚園児、小学生の生活スケジュールはどうなっている?

子どもたちは、幼稚園に上がれば平日は幼稚園に通い、週末も習い事のスケジュールでパンパン状態。親や祖父母たちは、子どもの送迎に奔走することになるわけです。家族中が大変ですね。

では、膨大な宿題をこなしつつ複数の習い事を掛け持ちしている子供たちの平日のタイムテーブルを覗いてみましょう。マクロミルの上海拠点で働く現地社員に協力を得てお子さんの事実を集めてみました。

驚くのは毎日の宿題の時間。幼稚園児で1時間半、小学生は2時間半も宿題に追われています。小学校の教科書は日本の教科書より分厚く文字も小さいうえに授業のスピードも速い、だから膨大な宿題が出るのです。しかも、日本のようなプリントではなくSNSのWeChatでどんどん流れて来るのでチェックするだけでも大変。
子育てママの「アメとムチ」で机に向かわされている子供たちの姿が目に浮かびますね。

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ハードな平日を過ごしたから、週末休日はゆっくり一休み。それに、この年代は思う存分遊びたい盛りですよね。でも、そうするわけにはいかないようです。土日のタイムテーブルを見てみても、教室通いと勉強の予定がしっかり。休日も、習い事や勉強に追われているのです。

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この苛烈な競争状況を緩和するために、今年、「宿題負担の軽減」と「学習塾の削減」の政策が施行されました。大いに結構!という声も上がる中で、受験文化そのものが変わらなければ結局は一緒では、という冷静な意見もあります。果たしてどうなっていくのでしょうか。

今回は、中国の子供の生活のうち、受験文化が強く影響を与えている学びや習い事について見てきました。
子供は遊びで成長する。現代の中国の子どもたちは、どんな風に遊んでいるのか。次回をお楽しみに!

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・・・【付録】皆様の調査や研究のご参考情報としてご活用ください・・・

”2021年中国では国慶節前から景況感が改善、消費意向が上向きに”
アジアの生活者意識や消費マインドを週次で聴取し即時性高く公開!中国、韓国、インドネシア、タイ、ベトナム、台湾のデータを提供しています。
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