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「空想都市」を通して向き合う、答えのない社会課題【NTTドコモ】

互いに信頼し合える間柄であるからこそ、営利関係を超え、未来の可能性を共創できる。そう信じるわたしたちは、「恋に落ちるくらい好きになった相手と仕事をする」ことを大切にしてきました。

共に未来を創っていくパートナーでもある団体や企業の方々を紹介する本企画、『わたしたちが恋に落ちた、あの人』。社会課題解決の現場で挑戦されている皆さんの想いや葛藤、そして弊社とどんなコラボレーションが生まれたのか、対談を通じてお届けしていきます。

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今回取り上げるのは、NTTコミュニケーションズ株式会社(旧NTTドコモ・東北復興新生支援室)における「空想都市中村市都市改善推進課」の社内研修活用です。今回の対談では、出会いのきっかけやワークショップ開催までの経緯、これからの展望を伺います。

お越しいただいたのは、株式会社NTTコミュニケーションズの内藤宣仁さんと、当研修プロデュース担当のLife as Caravanの中山慎太郎さん。研修内で実施したワークショップの全体ディレクション・シナリオライティングなどを担当したmorning after cutting my hairの中西須瑞化が対談相手をつとめます。

/// LOVERS ///株式会社NTTコミュニケーションズ(旧NTTドコモ・東北復興新生支援室)
携帯電話のネットワーク復旧を最優先に、震災直後から被災地に入り活動を続けてきたドコモは、2011年12月、「東北復興新生支援室 “笑顔の架け橋Rainbowプロジェクト”」を立ち上げ、東北の笑顔のために、人とひと・社会をつなぐ活動を行ってきました。「現場思考」の活動方針のもと、現地に何度も足を運び、地域の人と一緒に悩み考え、様々な課題の解決に取り組むことで、人とひとがつながり、笑顔が生まれてきました。震災から年月が経ち、復興のフェーズが変わるとともに私たちの活動も変化してきています。私たちはこれからも変わらず、地域の人と共に歩み、東北の笑顔につながる新しい価値の創造に取り組んでいきます。そして、この取り組みを「みらいのふるさとづくり(復興からはじまる地方創生)」として、日本全国の価値創造につなげていきます。現在、拠点をNTTコミュニケーションズに移し、引き続き活動を継続しています。
(WEB: https://rainbow.nttdocomo.co.jp/

※本記事内ではご一緒した当時のお話を振り返っていただいているため、企業名等を当時の「NTTドコモ・東北復興新生支援室」で統一しております。

「現場」の声が聴けない。コロナ禍で生まれた課題感からコラボレーションが実現

——NTTドコモ(以下、ドコモ)東北復興新生支援室(以下、復興支援室)(現:NTTコミュニケーションズ)の活動内容について教えてください。morningとのコラボレーションが生まれた当時、どのような課題を抱えていたのでしょうか。

内藤宣仁さん(以下、敬称略):私たち復興支援室は、2011年の東日本大震災発生後に発足した東北復興のための専属組織です。現場の声を聴き、地域に根付く「現場思考」をモットーに、さまざまな地域の課題を解消するべくICTの活用推進を軸とした活動を行ってきました。震災から10年近く経った今では地方創生にも活動内容を広げ、復興のフェーズに寄り添った支援を続けています。

そんな復興支援室では、2015年から「東北被災地から学ぶ!現場志向の課題解決力養成研修(現在は「自治体職員と共に考える福島県楢葉町のみらい合同研修」に変更))」と題した社員育成研修プログラムの開催に注力してきました。研修の目的は、現場が抱える課題を構造的に解決していける人材を育成し、研修で出たアイディアを自治体で実践していくことです。以前は南三陸、現在は福島県楢葉町(ならはまち)に活動の場を移しています。NTTコミュニケーションズに拠点を移した今も継続して研修は実施しております。

中山慎太郎さん(以下、敬称略):震災発生当初から被災された地域に入り活動を続けてきた復興支援室が重視してきたのは、「実際に足を運び、現場の声を聴く」こと。ドコモのように規模の大きい組織では普段、現場の声を聴く機会がないままサービスを作っている人も少なくありません。だからこそ本研修では、現場でのフィールドワークの時間を大切にしてきました。

ところがコロナ禍になり、現場に行くこと自体が難しくなってしまって。試行錯誤の末2020年にはオンラインで研修を開催したものの、参加者同士のチームワークに大きな課題を感じたんです。みんなで直接顔を合わせ現地に行く過程で生まれていた一体感や熱量が少なくなり、うまくチームビルディングができていない感覚がありました。

研修プロデュース担当 Life as caravan 中山慎太郎さん

——コロナ禍で生まれた課題意識が、morningの「空想都市中村市都市改善推進課」を採用いただくきっかけになったのですね。「空想都市中村市(なごむるし)都市改善推進課」とはどのような研修なのか、改めてお聞かせいただけますか。

中西須瑞化:「空想都市中村市都市改善推進課」は、極限まで現実に近い空想都市「中村市(なごむるし)」を舞台に社会課題について熟議していく力を養う、完全オンライン完結の研修コンテンツです。空想地図作家であり、株式会社地理人研究所代表でもある“地理人”こと今和泉隆行さんが作った架空の都市「中村市」の精緻な地図をもとに自問・内省し、他者と対話し熟議することで、多様な価値観や課題の本質を知れる内容になっています。これまでmorningが培ってきた、答えのない社会課題に取り組むためのエッセンスを詰め込んで作りました。

社会課題は遠く離れたどこかではなく、ごく身近な日常生活のなかに潜むもの。そういった意味でも、街を注視しながら議論を深めていくのってすごく良いんです。架空でありながら、非常にリアルな社会課題を議論できるコンテンツだと思っています。

morning after cutting my hairの研修プログラム「空想都市中村市都市改善推進課」

内藤さんとは、一般社団法人防災ガールの活動中にお仕事を何度かご一緒させていただいていたご縁がありました。当時からドコモの皆さんが長い時間を掛けて被災された方々と良い関係性を築いていることにものすごく感動したのを覚えていて。この研修プログラムが完成したタイミングで内藤さんにご連絡したところ、「詳しく話を聞きたい」と言っていただいたんです。

誰も傷つけない「空想都市」だから生まれる、自由な議論と対話

——「空想都市中村市都市改善推進課」を社内研修に採用したのはなぜでしょうか。

宣仁:最初にmorningのワークショップについて説明いただいた時、弊社の研修にマッチしているなという感触がありました。僕たちの研修は、課題に対してチームでのブレストを通してアイディアを出し、実際に自治体の施策として導入いただけるよう提案するのがゴール。ただそれまで、課題の発掘や施策のアイディア出しに非常に時間がかかってしまっていたんです。それがmorningのワークショップを研修の一部に組み込むことで、課題を構造化して思考するトレーニングになると感じました。

慎太郎:僕がいいなと思ったのは、架空の都市だからこそ研修に臨む際の心理的なハードルを外せるということです。この研修では楢葉町役場の方々もチームの一員として参加いただくのですが、楢葉町の歴史や背景などの前提知識については、ドコモ社員と役場職員で大きな差があります。そんな状況の中でいきなり楢葉町の課題について議論を始めると、お互いに忖度や遠慮が起きやすく、チームビルディングに課題を感じていました。
架空の「中村市」であれば、参加者の間で前提知識に差もないし、アイディアを出す上で誰かを傷つける可能性を考慮しなくていい。そういった意味で、自由に議論し良いアイディアが生まれやすくなると考えました。僕たちが懸念していたチームビルディングにも良い効果があると思いましたね。

——morningの「空想都市中村市都市改善推進課」を、どのように既存の研修の中に入れていきましたか。

宣仁:ドコモの研修は4ヶ月ほどのコンテンツです。キックオフのあと、現地訪問や中間発表会を経て、楢葉町の皆さんに向けた最終発表会があります。morningのワークショップはキックオフのタイミングで採用させていただき、ここでの経験を踏まえて楢葉町を舞台に議論を進めていきました。

株式会社NTTコミュニケーションズ 内藤宣仁さん

須瑞化:私たちとしても、企業研修の一環として正式に導入していただくのは初めてだったので、ドコモや楢葉町の皆さんがどのような課題を感じているのか丁寧にヒアリングするところから始めました。
ヒアリングで出てきた課題は大きく二つで、一つはオンラインでのチームビルディングについて、もう一つは答えのない社会課題をどう見つけ、どのように対話を重ねていくか。ヒアリングを重ねる中で、改めて弊社のコンテンツが役立ちそうだという確信を得られましたね。その上で、ワークショップの構成やシナリオを練っていきました。

“課題”より“魅力”を探し、「復興」の次のフェーズへ

——ドコモの皆さんや楢葉町の方々のご意見を踏まえて、コンテンツをブラッシュアップさせていったのですね。ワークショップの内容についてこだわったポイントはどのようなところでしょうか。

須瑞化:弊社のコンテンツでは、あえて細かいルール設定をしていません。分かりやすい答えがない社会課題だからこそ、参加者同士の対話が盛んになることが重要で、たくさんの疑問や迷いが生まれることにも価値があると考えているからです。また世界観没入型のコンテンツにしているので、楽しみながら、現場に行けなくてもリアルな人の声を疑似体験してもらえるんじゃないかと思っています。

morning after cutting my hair 中西須瑞化

その上で、楢葉町の皆さんからのご意見やご要望を踏まえてさらにシナリオを調整していきました。当時楢葉町の皆さんがおっしゃっていたのは、震災発生から時間が経ち次のフェーズに移ろうとしているからこそ、「“被災した地域”」としてではなく、純粋に「楢葉町の魅力を伝えていきたい」ということ。そういったご意見を踏まえて、「街の課題」ではなく「魅力」を探し地域活性につなげていくような議論が生まれるよう、比較的ポップで自然体な内容に変えていきました。

慎太郎:今須瑞化さんがお話しされたように、震災の被害から回復し、「復興から次のステージ」へ進んでいる地域はたしかにある。ただ、物理的に目に見えるような惨状がなくなったとしても、まだ被害を受けている方もいらっしゃるし、大切な誰かを失った悲しみや喪失感は時間が経っても消えないじゃないですか。
インフラ面での復興が進んでいく中で、決して風化させてはいけない震災の教訓をどのように次の時代に伝えていくか。それは今後の課題だと思っています。そういった意味でも、「中村市」は架空の街だからこそ、自分たちがフォーカスしたい要素を自在に入れ込むことができたのも良かったですね。

宣仁:他にも楢葉町の皆さんからは、自治体としてこれまでたくさん議論を重ねてきた中で、どうしてもマンネリ感が生まれてしまっているという声も聞いていて。現状を突き破るような斬新なアイディアが生まれてほしいというご相談をいただいていたので、morningのワークショップ採用には街の皆さんからも大きな期待が込められていると感じていました。

——ワークショップ当日、参加者の皆さんはどのような様子でしたか。他にも手応えを感じた場面があれば伺いたいです。

慎太郎:例年、最初から楢葉町の課題について考えようとすると戸惑ってしまう人が多いのですが、morningのワークショップでは自由に発言が生まれ、「とりあえずやってみよう」という雰囲気になっていたのがとても良かったです。
参加者からも、「いきなり現場で実践するのはハードルが高いけれど、架空の街で体験できたのでそのあとの研修にも取り掛かりやすかった」というコメントをもらいましたね。約4ヶ月の研修の前段としてmorningのワークショップを導入したことで、思考のトレーニングができたのはとても良かったと感じています。

オンラインでの研修当日の様子

宣仁:今回の研修で出た提案をもとに、実際に自治体で導入を検討している施策もあります。楢葉町の皆さんからも「一つの完成形を見たね」とお褒めの言葉をいただきましたし、参加者だけでなく我々事務局としても大きな満足感がありましたね。

須瑞化:このワークショップは、参加者によって出てくる意見やアイディアが変わってくることを想定しています。着眼点も違えば、議論の深さやアイディアの数も、開催するごとに違ってくるのが特徴です。ドコモの皆さんは、課題の構造化にとても丁寧に取り組んでいただいて、初めて体験する特殊なワークであっても、自分ごととして理解して思考を深め、積極的に意見を出そうとする姿勢が素晴らしく、社風を表しているのだなと感じました。

答えのない社会課題に向き合う「入口」に

——改めて、今回の取り組みを振り返って感じたことを教えてください。

須瑞化:実際に参加者や運営の皆さんの反応を見て、私たちmorningが伝えたいエッセンスがきちんと伝わっているのだと分かり嬉しかったですね。

今はSDGsなどの世間の潮流もあり、社会課題に取り組もうとする人は増えているタイミングだと考えています。morningのワークショップはライトな作りにしているからこそ、「社会課題に関わる入口」として活用していただくといいんじゃないかと思っていて。空想都市のワークを行うことで、社会課題へ向き合う際の心構えや深度が変わってくれるといいなと思います。

慎太郎:今回morningとのコラボレーションをしたことで、社会課題に対する視点も多様になっていくし、さらに可能性が広がるんだなと改めて実感しました。何より私自身がすごく勉強させていただきましたね。

宣仁:私たちは復興支援のプロではないけれど、それでもここまでがむしゃらに走り続けてきた組織です。なので今回morningの皆さんからフラットにアドバイスや意見をいただけたのがすごくありがたくて。プロジェクトが終わっても、いつも私たちのこと気にかけて色々と情報提供していただけるので、こういったつながりはこれからも大切にしていきたいです。

東北復興新生支援室での研修プログラム運営を続けてきたお二人

——最後に、今後の展望をお聞かせください。

宣仁:先ほどもお伝えしたように、研修で出た提案が実際の事業や施策に発展するケースも多くあります。街の方々からも、「新たな気づきや視点がもらえる」と言っていただきますし、実際に課題解決にもつながっている。そういった意味で、私たちは「研修」というより新しい「自治体営業」に近いと思っていて。この研修をパッケージ化して、全国の他の自治体で展開していけたら嬉しいですね。

慎太郎:僕は研修で出したアイディアや意見が、実際に自治体でどのように役立っているのか、参加者が定期的に研修について振り返る場があったらいいなと考えています。過去に参加してくれたメンバーも現在多方面で活躍してくださっているので、同窓会のようなものを開催できたら良い循環が生まれていくのではないかと思っています。
そのためにも、もっともっとこの研修を発展させていきたいですし、morningの皆さんには今後も末長くお力を貸していただけたら心強いですね。

オンライン対談の様子 (画面左上:中西、右上:宣仁さん、下:慎太郎さん)

ご出演
株式会社NTTコミュニケーションズ(旧NTTドコモ・東北復興新生支援室)
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(取材・執筆:安心院彩、編集:中西須瑞化)

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SDGsへの向き合い方

Consulting for Social challenges with Love. based in TOKYO & SHIGA, JAPAN. ///// 世の中にある「課題」に挑む人たちの想いを伝え、感動と共感の力で、『人の心が動き続ける社会』をつくる。