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///イベントレポート/// 社会課題解決に必要な企業内イノベーションの実践と人材育成とは? 【QWS FES 2021】

2021年10月31日。2021年衆議院選挙とハロウィンで賑わう渋谷にて、「問い」と向き合うイベント「QWS FES 2021」が開催されました。会場となった「SHIBUYA QWS」は、多様な価値観と知性を持った人たちが「問い」を持ち寄り、スクランブルさせる場として誕生し、今年で2周年を迎えます。

そんな記念すべきイベントに、わたしたちmorning after cutting my hair,Incが持ち込んだ「問い」はこちら。

社会課題解決に必要な企業内イノベーションの実践と人材育成とは?

新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、、社会課題がより表面化された現在。SDGsやサステナビリティに取り組むことは、もはや企業の義務のような風潮を感じています。しかし、社会課題が持つ“正解がない”という性質上、ベストな付き合い方ができている組織や個人はまだまだ少ないのではないでしょうか。

「真摯に取り組みたい気持ちがあっても、社内で理解を得られない」
「個人的に関心が高くても、なかなか仕事と結び付けられない」

SDGsやサステナビリティという言葉がもてはやされていくなかで、自分や社内の人たちの心がどこか置き去りにされてしまっている。社会課題に取り組みたいと願う会社や個人の方とお話を重ねていくなかで、わたしたちはそんな課題を強く感じてきました。

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(左から)morning after cutting my hair,Incの中西 須瑞化、石井食品㈱ 代表取締役社長 石井 智康さん、㈱ローンディール 代表取締役社長 原田 未来さん

今回はそんな「問い」を投げかけるお相手として、わたしたちとも長くお付き合いをさせていただいている石井食品㈱ 代表取締役社長 石井 智康さんと、㈱ローンディール 代表取締役社長 原田 未来さんをご招待。モデレーターは弊社morning after cutting my hair,Incの中西 須瑞化でお届けします。

コロナ禍で顕著になる社会課題と求められる企業の人材

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まずは、弊社の中西から社会課題への意識変化のお話からスタート。

これまでどこか遠い世界の話に感じていた社会課題ですが、貧困やエッセンシャルワーカーへの配慮など、コロナ禍をきっかけに身近な問題として向き合うこととなった方も多かったのではないでしょうか。

生活者単位でもサステナビリティへの意識が向上しているというデータが数多く見受けられます。地球環境や社会問題はけして他人事ではない。今まで気づかなかった課題が浮き彫りになったことがコロナ禍で生じた副作用と言えます。

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それと同時に、テレワークの導入率が上がってくることで、社員のエンゲージメントが下がってきているという声も出てきています。テレワークによって、総務担当者の79.1%の方が「これからの会社の方向性や取り組んでいきたいビジョンを社員に伝えることが難しくなった」と回答。

生活者の関心に企業として応えていくことはもちろん重要です。しかしそれと同時に、社員のエンゲージを高め、社員自身からも愛される企業になっていくためには、2つの視点が大切であると考えます。

社会課題を起点に「新しい価値を創造できる組織」
自らの意思で考え行動する「自律・共生人材」

自社の強みや資産を生かしながら、社会課題につながる事業を生み出していける組織の存在。そして、社会課題に対して受け身になるのではなく、主体的に取り組める人材を育成していく力。

これら2つが合わさったとき、社会課題に関わりたい個人のパッションと、その会社や組織が持つユニークな力が発揮できるのではないか。今回は、この2点それぞれの強みを持つ石井食品、ローンディールの事例を紹介しつつ、クロストークをすることで何かヒントが生まれるのではないか。そんな想いから、morning after cutting my hair,Incが長くお世話になっているお二人をお呼びしました。

事業例①石井食品㈱ :社会課題解決につながる事業創出

石井食品㈱ は老舗でありながら、今まで積み上げてきた資産や強みを生かし、時代に合わせてアップデートをし続けてきた食品メーカー。石井 智康さんが代表となった第四期では、「地域活性と農家活性に全振り!」と公言し、さまざまな商品を生み出しています。

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石井食品と聞くと、ミートボールやハンバーグを想像する方が多いかと思いますが、もともとは戦後の食糧難の時代に、「食べるものがない人たちにもおいしいものを届ける」という想いで、佃煮をつくって届けるというビジネスからスタートしている会社です。90年代に入ってからは「おいしいは引き算」をテーマに、無添加で食品づくりにひたすらこだわります。

石井さんが代表になった現在は、社会課題に合わせたビジネスへの転換期。今まで行ってきた事業に誇りを持ちつつ、より社会課題解決と密接な事業展開を生み出している最中です。

石井さん:これまでは「日本一安心安全な食品会社」という目標のもと、無添加であることに全力を尽くしてきたました。今は私が代表となり、ビジョンを変えまして「日本一生産者と地域に貢献する食品会社」を目標に掲げて、この目標に全振り!という意思決定をしています。

その事例を2つ紹介してくださいました。

1.「地域食材×無添加調理」をテーマとした食品づくり

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その地域ならではの食材や伝統的なつくり方を生かしながら、現地の農家さんと商品をつくっていくプロジェクトです。現在では、30箇所ほどの地域と連携して、季節限定、地域限定商品を生み出しています。

石井さん:僕らは取引している農家さんと密にコミュニケーションをとっています。そのなかで、農家さんが一番しんどいとおっしゃるのが、自分たちが一生懸命つくった食材を誰が食べているのかわからないこと。

農家さんが携わるのは、問屋やメーカーに預けるところまで。自分がつくった食材がどういったスーパーに置かれ、どんな加工がされているのかもわからない状態です。プライスコントロールもできないので儲けることも難しいし、やりがいも見いだせない。そうなってくると、お子さんに引き継いでもらいたいという気持ちがあっても、積極的に勧められないのが親心ですよね。

これらの課題は、手軽な値段で全国で同じものが買えるという効率を求めたシステムのなかで起きた一つの弊害だと言います。手軽さゆえに、生活者にとっても食材の旬やそれぞれの地域特有の個性がわからないままになってしまっている。

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石井さん:最近つくった商品として栗ご飯があるんですけど、その土地の素材やつくり方によってかなり味が異なってくることがわかりました。栗ご飯だけで7種類もできてしまうというのは、僕たちにとしても驚きの結果です(笑)。「私はこの栗が好き!」とファンになってもらえたら、その地域のことが一気に身近になると思うんですよね。

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その地域の特色や生産者ご本人の想いを届けながら、石井食品と農家さん二人三脚で販売、PRを行っていきます。そうすることで、「栗ご飯ならなんでもいい」から「ここの栗ご飯がいい!」というシフトチェンジが起こっていく。農家さん自身が自分がつくる食材に自信を持ち次の担い手を探していけるような、持続可能性を後押しする取り組みでもあるのです。


2.「災害支援×無添加調理」をテーマとした非常食

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2つ目の事例は、非常食づくり。東日本大震災を機に弊社とともにおこな行ったプロジェクトです。もともと非常食の開発と販売を行っていた石井食品ですが、被災された方々が本当に求めているものをつくれているのか、確信を持てずにいたと言います。ビジネスに疑問を感じていた石井食品は、そこで、当時「一般社団法人防災ガール」として活動していたわたしたちと共に、熊本の被災地に足を運びました。

そこで見られたのは、実は被災地では非常食がほとんど食べられていないという現状。実際に被災された方々にとっては「非常食」というネーミング自体も、あまり目にしたいものではなかったそうです。

石井さん:被災時の食事に関して、率直な意見をたくさんいただくことができました。支援物資は、どうしても長持ちするカップ麺や菓子パンが多く、そういったものばかり食べているとお腹の調子が悪くなってしまったり、一食のカロリーが高く太ってしまったり。そもそもすぐに食べてもらいたくて送るものの賞味期限が5年もある必要があるのかっていうのも疑問だったんです。

現地のリアルな声から生まれたのが野菜入りの玄米がゆ『potayu』非常時であっても、普段の生活の延長線のような、温かな食事を届けたいという想いがポップなネーミングとデザインに現れています。女性も食べ切れるようにカロリーは控えめ。深刻な野菜不足も補えます。

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石井さん:この商品は被災地の支援にはもちろん、コロナ禍において病院や介護施設にもお届けしていました。すごく喜んでもらえたことをよく覚えています。

地域と密接な事業を行っていると、たくさんのご縁に恵まれるんです。昨年の熊本豪雨の際には、被災があった地域と栗ご飯を一緒につくった地域が隣りだったこともあって、栗ご飯も寄付させていただいています。他にもお寺のネットワークを使って支援物資を届けたり。僕らが想像していた以上に、いろいろなところで支援を行えているのは、さまざまなご縁や協力があってこそです。

老舗であるからこその知恵を生かしながら、食品づくりだけに留まらない軽やかさ。「何か一緒にできそうなことがあれば、いつでも声をかけてほしい」という石井さんの想いと共に、これからもさまざまな企業や人を巻き込みながら、その輪を広げていくことでしょう。


事業例②㈱ローンディール:社会課題解決領域における人材育成

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「ミートボールっていう食品の話を聞いた後に、僕がしゃべるのはすごい新鮮です(笑)。食品とは全然関係ない話をこれからさせていただきます」というひと言から始まった㈱ローンディール 代表取締役社長 原田 未来さんのトーク。

ローンディールは、大企業の社員が社会課題領域の事業を行うベンチャーへ「レンタル移籍」をすることで得られる経験や価値を企業や組織に提供する会社です。「レンタル移籍」の事業を始めるきっかけとなったのは、原田さんが感じた「隣の芝は青いのか?」という疑問から。

原田さん:社会人になってから13年間同じ会社に勤めていたんですね。長く同じ場所にいると、だんだんと仕事もこなせるようになってくるし、会社への愛情も増していく。その一方で、このままで本当に成長できてるんだろうか?という不安も生まれ始める時期かと思います。

この揺らぎの中で取れる選択肢は転職しかない。しかし、僕は転職をしてみて「前の会社のほうがよかった」と思ったことがあります。「失ってから気づく」という、よくあるやつです(笑)。

そんな原体験をもとに、転職せずとも新しい環境に飛び込むことができる「レンタル移籍」をスタートさせます。大企業に勤める社員がベンチャーに移籍し、実際に社会課題領域で事業を起こしてみる。座学で学ぶプログラムではなく、実際に手や足を動かすことでマインドセットを高めていく取り組みです。

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コロナ禍で浮き彫りになった社員エンゲージの低下という問題。社会課題領域に関わりたくても、大きな組織の中ではその機会を得られない社員にとって、この「レンタル移籍」がビックチャンスとなります。

原田さん:大きな組織でイノベーションを起こすためには、主体的にアクションを起こせる自律した人材が不可欠です。ベンチャーはいい意味でいろいろ欠けているんですよ。事例のないことをやっている限り、正解もないし、リソースも足りてないし、資金も足りてない。大企業にいた時とは、かかるプレッシャーが全然違うんです。わからないなりに、自分の頭で考えて正解を見つけていくしかないんです。

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具体的なスキルを身につけるというよりも、ベンチャーならではのマインドセットを身につけていくことが「レンタル移籍」が生み出す価値そのもの。ローンディールでは、大企業に戻ったあとの再現性を担保するために、移籍する前のマッチングから移籍中のメンタリングまで徹底してサポートします。

原田さん:移籍中は「今、何をどう取り組もうとしているのか」「今、どんなことを感じているのか」を対話していきます。今経験していることにどういう意味があるのか、考えて言葉にすることに意味がある。言葉にすることで初めて再現性が出てくるんです。

もちろん全く違った環境で仕事をするのは大変ですよ。でも、一番大変なのは、大企業に戻ったあと。大きな組織の中で、いかにベンチャーマインドを持ったまま還元していけるのか。戻ってからが勝負なんです。

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ローンディールが目指すのは、日本にフィットしたやり方で人材を循環させていくこと。「どんどん転職してスキルアップしていきましょう!」という欧米型のやり方に習うのではなく、遣唐使のように、外から学んだことを内側に持って帰ってきて、その人の成長に周りも刺激を受けていく。人材の流れを組織内に留めるのではなく、社会全体で循環させることがイノベーションの肝になるとお話ししてくださいました。

Q1. ソーシャルインパクトと既存事業の最適なバランスとは? 社会で共感を得ながら実現していく方法とは?

それぞれの事業について紹介していただいた後、三社によて繰り広げられたクロストーク。全体として「社会課題とビジネスは両立可能なのか」可能であるなら「その想いをどう伝え共感してもらうのか」という問いに注目が集まりました。

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もともと理念先行型なスタンスを取ってきたという石井食品。儲かるかどうかというよりも、ソーシャルインパクトの大きなものに取り組んで、その中で形になりそうなものをビジネスにしていくやり方です。そもそも社会課題を起点にしたビジネスを展開しているため、ソーシャルインパクトと既存事業の“バランスを取る”という感覚ではないようです。

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石井さん:課題が大きければ大きいほど、困っている人も多いはずです。たとえまだ見えていなくても潜在的にはいるはずなんです。その困っている人たちの課題を解決しながら、かつそこにお金が発生する仕組みをつくる。その課題が大きいほどビジネスになると僕は思っています。
原田さん:おっしゃる通りだと思います。補助金や助成金をもらって少し手を出すだけでは、根本的な課題解決になってないんですよね。ビジネスとして成り立たせるところまで含めて設計すると、そこに矛盾は生まれないはずなんです。
石井さん:大企業の歴史を紐解くと見えてくるのですが、そもそもソーシャル領域からスタートした会社はすごく多いんですよ。戦後っていう社会課題しかなかった時代で、ルールを自分たちでつくりながらいろんなことに手を出して大きくなっていったんです。だから、何か新しいことを打ち出すというよりは、原点回帰。「そもそも何でこの会社は存在するんだっけ?」という起点に立ち返ることが求められていると思いますね。
原田さん:そこでmorning after cutting my hairがやっているようなPRが大切になってくると思います。昔はメガネやカーディガンは障害者のためのものでした。でも今はおしゃれアイテムになっている。会社の歴史や想いに関しても、大切なことはしっかり伝えつつ、今の時代にあった文脈で届ける編集力は必要かなと思っています。

Q2. 「自律型人材」は組織に引き留められる?

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人材の循環を目指しているローンディール。しかし、優秀な自律型人材こそ、組織が引き止めてしまうのではないか、という問いです。「ベンチャーに行ったらもう帰ってこないのではないか」と心配される人事の方が多いなか、実際に蓋を開けてみると、レンタル移籍をした約140人の中で1年以内に会社を辞めた人は4人という結果に。平均的な離職率よりも少ない数字だったと言います。

原田さん:心配される人事の方には「あなたの会社でしか活躍できない人と、どこでも活躍できる人、どちらがいいですか?」とよくお話ししています。当然、後者ですよね。大事なのは、帰ってきた社員が学んだことを発揮できるように、いかに企業側が環境を整えてあげられるか。その体制づくりも人事の方とよく話すようにしています。
石井さん:石井食品でも「おかえりなさい採用」というのをやっています。一度出ていった人であっても、他の社員からの推薦があればいきなり役員面接を受けられる制度です。

たとえ一度辞めた人でも、別の会社での経験を生かしてもらいながら、また一緒に働きたいと思っています。石井食品に戻らなくても、別のつながり方で新しいビジネスが始まったりするのも面白いですよね。会社に留めることに固執しないほうが、結果いい作用が生まれることもあるんです。

Q3. 社内人材が社会課題を「自分ごと化」して取り組むには?

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社会課題というと、大きく漠然としたものに見えてしまいがち。しかし、実際に中身を見てみると、社会課題は一人ひとりの感情や生活、暮らしの中に存在しています。そこまで深く眼差して理解すること。社会課題を「自分ごと化」するにおいて、弊社が強く意識していきたことです。

石井さん:「自分ごと化」には、ふたつの段階あると思っていて。まずは現場に赴くこと。誰がどんな悩みをどんな表情で語っているのか、実感することで見え方が全然変わってきます。2つ目は、自分たち以外に誰も解決してくれる人がいないことを知ること。「これをやれるのは自分しかいない」と実感することで、関心が使命に変わっていきます。使命だという実感が持てたら、もう諦めずに突き進むのみなのかなと。

また、三社が共通して大切にしていることは、社員のWillに耳を傾けること。自分ごと化して取り組んでもらうためには、社員一人ひとりのWillを問い続ける必要があると言います。

原田さん:ベンチャーへ移籍する前にも、10時間くらいWillを深掘りする研修を行っています。同じ企業で働いていると、いつの間にか会社の目標と自分の目標が一緒になってしまっていることが多いんです。会社が求めることは一度脇に置いておいて、自分のWillに立ち返ることを促しています。


社会課題の現場に赴く機会を与えること、そして、そこで感じたことや今の気持ちを社員に問い続けること。そうした機会の提供や長期的なコミュニケーションは、会社や組織であるからこそ実現できることです。

会社は自分のWillを削ってくるものではなく、社会と自分の接点を見出す機会を与えてくれ、応援してくれる場所。そんな存在になれたとき、個人のパッションと会社や組織が持つユニークな資産がかけ合わされ、最大限の力が発揮される瞬間かもしれません。

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「社会課題解決に必要な企業内イノベーションの実践と人材育成とは?」というひとつの「問い」からスタートした今回のトークセッション。

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morning after cutting my hair,Inc.では、そんな「自律・共生型人材」を育成するプログラムを行っています。「SHIBUYA QWS」でのワークショップも実施する予定です。随時情報を発信していきますので、ご興味のある方はぜひ弊社のSNSnoteをフォローしてみてくださいね!


Consulting for Social challenges with Love. based in TOKYO & SHIGA, JAPAN. ///// 世の中にある「課題」に挑む人たちの想いを伝え、感動と共感の力で、『人の心が動き続ける社会』をつくる。