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くま。
2023年11月23日 07:14
しとしとと降り続く花時の雨が漸く止んだのは、おみつの恋が破れた日だった。 否、想いは確かに通じ合っていたのだが、拒まれたのだ。添うことを。「約束したやいか……」 おみつも忠行も、元々神崎家の家臣団のひとつである千馬家の人間で、血の繋がらない幼馴染だ。 どれだけ長く離れていても、二人の間には深い絆があった。「ずっと……ずっと待ちよったに……」 雲の切れ目から顔を出した月が、おみ
2023年11月21日 08:00
水面には紅い落ち葉舟とたった一行の言の葉が浮かんでいた言の葉が輪郭を持たず消えたのは揺蕩う舟のせいだろう高瀬川を眺め乍ら一行の空白を肴に一献傾ければ寄り添うていた体温は朱い頬を髪で隠し漸く凪ぎた水面から楓の葉を一つ 掬ったあとがき雰囲気大正時代。名もなき作家がしたためた日誌的な。書いてて楽しかったです。笑
2023年11月21日 07:04
世界はいつだって噛み合わない。 先ほど何度目かの自殺に失敗した男が、今朝の朝刊の『XX902便墜落』の文字を見て嘆いていた。 話によるとこの男、昨日この便に乗るはずだったのだとか。「どうしてこの世は死にたがりばかりが生き残る運命なんだろうか」「さぁなぁ……」 新聞を広げ朝食を摂っていたオレは、新聞の題字のすぐ下にある〝今日の死亡者見込み数〟の欄に目を通しながら冷めた珈琲を飲み干し
2023年11月18日 15:09
夏が始まる。 梅雨も明け、連日蒸し暑い日が続いていた。 からりと晴れてくれればいいものの、湿った空気は朝から晩まで身体にまとわりつく。 ある夜、どうにも寝苦しくて目を覚ました。 今が一体何時なのか、時間の確認すらままならない暗闇の中、家族を起こさぬよう布団から這い出て台所で水を飲んでいると、玄関のすりガラスの向こうに男の人影があることに気付いた。(……来たのか) 男の顔など見な