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短編作品

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短歌から短編小説までの短めのお話をまとめました。
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#掌編小説

掌編小説|桜月夜に詠む歌は

掌編小説|桜月夜に詠む歌は

 しとしとと降り続く花時の雨が漸く止んだのは、おみつの恋が破れた日だった。
 否、想いは確かに通じ合っていたのだが、拒まれたのだ。添うことを。

「約束したやいか……」

 おみつも忠行も、元々神崎家の家臣団のひとつである千馬家の人間で、血の繋がらない幼馴染だ。
 どれだけ長く離れていても、二人の間には深い絆があった。

「ずっと……ずっと待ちよったに……」

 雲の切れ目から顔を出した月が、おみ

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詩|言の葉

詩|言の葉

水面には
紅い落ち葉舟と
たった一行の言の葉が
浮かんでいた

言の葉が輪郭を持たず
消えたのは
揺蕩う舟のせいだろう

高瀬川を眺め乍ら
一行の空白を肴に
一献傾ければ

寄り添うていた体温は
朱い頬を髪で隠し
漸く凪ぎた水面から
楓の葉を一つ 掬った

あとがき

雰囲気大正時代。
名もなき作家がしたためた日誌的な。
書いてて楽しかったです。笑

ショートショート|死神のカルマ

ショートショート|死神のカルマ

 世界はいつだって噛み合わない。
 先ほど何度目かの自殺に失敗した男が、今朝の朝刊の『XX902便墜落』の文字を見て嘆いていた。

 話によるとこの男、昨日この便に乗るはずだったのだとか。

「どうしてこの世は死にたがりばかりが生き残る運命なんだろうか」
「さぁなぁ……」

 新聞を広げ朝食を摂っていたオレは、新聞の題字のすぐ下にある〝今日の死亡者見込み数〟の欄に目を通しながら冷めた珈琲を飲み干し

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BL/短編小説|赤い片道切符

BL/短編小説|赤い片道切符

 夏が始まる。
 梅雨も明け、連日蒸し暑い日が続いていた。
 からりと晴れてくれればいいものの、湿った空気は朝から晩まで身体にまとわりつく。

 ある夜、どうにも寝苦しくて目を覚ました。
 今が一体何時なのか、時間の確認すらままならない暗闇の中、家族を起こさぬよう布団から這い出て台所で水を飲んでいると、玄関のすりガラスの向こうに男の人影があることに気付いた。

(……来たのか)

 男の顔など見な

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