くま。

2023年11月からnoteを始めてみました。 普段は絵を書いたり、小説を書いたり、写…

くま。

2023年11月からnoteを始めてみました。 普段は絵を書いたり、小説を書いたり、写真を撮ったりしています。 よろしくお願いします。

マガジン

  • 完結|夏日影に消ゆる君

    海の見える町に引っ越してきた阪本詩音(しおん)は、家主が教えてくれた秘密の場所で不思議な男に出会う。男は毎日同じ時間、同じ場所で海を眺めていた。 男は初めて会った詩音を愛おしそうに見つめている。 ある日、詩音は家主の孫・湊(みなと)から夏休みの自由研究を見てほしいと頼まれ、引き受けることになった。しかし、湊と自由研究のテーマを決めていく中、あることに気付いてしまい……。

  • 連載中|A Ghost of Flare.

    安いという理由だけで事故物件への入居を決めた霊感ゼロの青年・斎篁(とき たかむら)は、奇跡の見逃し率で平和な日々を送っていた。篁の入居を機に、かつてこの家で首吊り自殺を図った男の幽霊は永遠の自殺ループから抜け出すこととなり……。 霊感ゼロの篁と幽霊のダブル視点でお送りする、エンタメ短編小説。

  • 短編作品

    短歌から短編小説までの短めのお話をまとめました。

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ショートショート|変わり葬儀屋

 一切の広告活動も行わず、これほどの集客を取るのだから、口コミとは恐ろしいものである。  小さな雑居ビルの三階にある、小さな事務所入口には、朝の七時だというのにすでに五人もの人が並んでいた。皆、マスク姿に帽子に眼鏡、慎重な者は手袋まではめている。よほど身元が割れることを恐れているのだろう。  並んでいる人間は、どれだけ待たされようが文句を言うものは一人もいない。ただ自分の番が来るのを静かに待っているのだ。  事務所の扉が開き、黒のスーツ姿の男が一番前に並んでいた男に声をかけた

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      みんなのフォトギャラリー用(7枚)

      • 22歳のとき人生で初めて絵画を買った。 仔ライオンの夢の中を描いたその絵はたくさんの動物がいて、とても可愛くて優しくて、でもその夢の中には人間と飛行機が描かれている。 共存か、それとも自然破壊なのか……というテーマの絵。 今でも大好きな絵。 親にはしこたま怒られました。笑

        • 小説|夏日影に消ゆる君 #13

             十三、  灰色の空に打ち付ける白波、というのが冬の海の印象だが、太平洋は今日も快晴。青い空と海が広がっている。夏の空と違うのはやはり空模様だろうか。空の高いところにはすじ雲が薄い線を描いており、太陽も南側の低い位置で優しい光を放っていた。  木枯らしが冬枯れの庭を通り過ぎる。  庭掃除をしていた詩音は肌を刺すような冷たい風に肩をすくめた。  緩んだマフラーを結びなおして、それから空を見上げ、はあ、と息を吐いた。  白い息が冬の冷たい空気の中に溶けていく。  身体

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        ショートショート|変わり葬儀屋

        • みんなのフォトギャラリー用(7枚)

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        • 22歳のとき人生で初めて絵画を買った。 仔ライオンの夢の中を描いたその絵はたくさんの動物がいて、とても可愛くて優しくて、でもその夢の中には人間と飛行機が描かれている。 共存か、それとも自然破壊なのか……というテーマの絵。 今でも大好きな絵。 親にはしこたま怒られました。笑

        • 小説|夏日影に消ゆる君 #13

        マガジン

        • 完結|夏日影に消ゆる君
          13本
        • 連載中|A Ghost of Flare.
          3本
        • 短編作品
          7本

        記事

          小説|夏日影に消ゆる君 #12

             十二、  雨の日みたいに暗い気持ちを炭酸で流し込んだ。  あのあと三階の特別展示室には何事もなかったかのように人々が戻り、夏休みの活気を取り戻した。  休憩スペースのソファーに深く凭れながらまたひと口、喉を通る炭酸の刺激がようやく自分の体を現実に戻してくれる。  床につけた足の感覚や手に持った缶ジュースの冷たさ、背もたれにこもった熱。それらに意識を向け、今ここにいるという感覚をひとつひとつ確かめる。  眠りから覚めたように意識がはっきりとしてきた頃、そういえば、

          小説|夏日影に消ゆる君 #12

          小説|夏日影に消ゆる君 #11

             十一、  湊少年を助手席に乗せ資料館へと向かう。  ため息を吐きそうになるのを何度も堪え、その都度咳払いでごまかしていたら、湊から風邪を疑われたのが先刻のこと。「どうせ冷房つけっぱなしで寝てたんでしょ!」とからかわれ、飴を渡された。  口の中でカランと音を立てるグレープ味の飴玉が、いくらか暗い気分を紛らわせてくれている。 「昨日は詩音くんのおかげでだいぶ課題が進んだ気がする」  湊は嬉しそうにネタ帳を眺めているが、正直何も覚えていなかった。  それでも湊からは

          小説|夏日影に消ゆる君 #11

          小説|夏日影に消ゆる君 #10

             十、 「雨の音は集中力を高める効果がある。絶対」  湊少年が言った。  台風の中で突然自由研究のテーマが降ってきたそうだ。 「町遺産を作って観光客を呼ぼう?」 「そっちじゃない!」  ノートに散りばめられた文字の中からタイトルらしいものを読み上げたつもりだったが、どうやら違ったようだ。 「こっち! 自由研究(改)の方! あっでもタイトルはまだ未定。テーマと研究のきっかけのとこ見て」 「きっかけ? おぉ、これか。元々取り組んでいた課題で思わぬ発見があった?

          小説|夏日影に消ゆる君 #10

          小説|夏日影に消ゆる君 #9

               九、  台風一過。  東雲の空には欠けた月とほんの少しの星が残っている。  立秋もまだ過ぎていないというのに、雲のない夜明けの空には秋の孤独のようなうら寂しさがあった。  裏山から見下ろす暗い海に少しずつ空の色が映り始めると、夜の終わりを見届けいくらか軽くなった詩音の心にも彩度が戻り始めた。しかし、凪いだ水面のごとく静かな空の寂寥の翳が、その淡い色彩の中で物悲しく滲んでいる。  琉生に会えずにいた二日間、詩音の心の中にもずっと雨が降り続いていた。最後に会った日

          小説|夏日影に消ゆる君 #9

          小説|夏日影に消ゆる君 #8

               八、   三機の飛行機が西へ向かって飛んでいく。  雲ひとつない大空を誇らしげに飛んでいく。  近所の子供たちが飛行機を追いかけながら手を振ると、一機の飛行機がそれに応えるようにゆらゆらと羽根を上下に振った。  子供たちは大喜びで飛行機が空の彼方に消えて見えなくなるまで手を振っている。  風が、ふわりと香った。  雨風が雨戸を叩く音で目を覚ました。  昨夜遅く東海地方に上陸した台風はゆっくりと北上し、現在関東地方で猛威を奮っている。  雨戸を閉め切った暗い部屋で

          小説|夏日影に消ゆる君 #8

          小説|夏日影に消ゆる君 #7

               七、 「決まったかえ?」 「決まんねぇ」 「宇宙なんかどうじゃ」 「それは去年やった」 「ほいたら恐竜」 「それは一昨年やった」 「カブトムシなんかどうじゃ」 「虫は嫌い」 「おおの……」  キッチンで昼食の野菜炒めを作りながら湊の自由研究テーマに頭を悩ませていた詩音は、少年の呻き声に気を取られて濃くなってしまった味付けを整えていた。 「コンクールの応募部門は全部でいくつあるがよ?」 「四つ。国語と理科と社会と生活」  湊が毎年参加している

          小説|夏日影に消ゆる君 #7

          小説|夏日影に消ゆる君 #6

               六、  開いたままのノートパソコンとタブレットの画面は、とうにスリープモードに切り替わっていた。  居間で仕事をしていた詩音は、キーボードに両手を置いたままぼんやりと画面を見つめている。  今朝の抜け落ちた記憶について、思い出そうとすればするほど、掬い上げた水のように次々とこぼれ落ち、それどころかはっきりと覚えているはずの前後の記憶すら輪郭がぼやけ始めてしまう。  琉生は確かにいた。会話もした。けれど。 (どういても思い出せんちや……)  額に手を置き深い溜

          小説|夏日影に消ゆる君 #6

          小説|夏日影に消ゆる君 #5

               五、  朝曇りに途切れて鳴くのは蝉の声。ではなく、目覚ましアラームだ。  もうかれこれ五回ほどスマートフォンのスヌーズ機能と戦っていながら、詩音は未だ身体を起き上がらせることができないでいる。  気圧の変化に弱い方ではないのだが、ここのところバタバタしていたせいで疲れが出ているのかも知れない。  今日は特に予定もない。徐々に沈んでゆく意識に抗うことができない。 (いかん、起きんと…)  昨晩、琉生と町で偶然出会うなんてことはないだろうと考えた詩音は、やはり彼

          小説|夏日影に消ゆる君 #5

          小説|夏日影に消ゆる君 #4

               四、  草刈りを終え、湊と連絡先を交換した詩音は、家には帰らず、そのまま家主に教えてもらった品揃えの良いホームセンターと、安くて新鮮な野菜が買えるというスーパーに買い出しに出かけた。接近する台風に備えるためだ。  外はまだ明るいものの日没間近ということもあり人はまばらで、地元の人らしい何人かがいるだけだ。  詩音は近くの駐車場に車を停め、ビーチに降りてみることにした。  波打ち際からそう遠くない距離の砂浜に座り、寄せては返すさざなみのキラキラと光る泡粒を眺めて

          小説|夏日影に消ゆる君 #4

          小説|夏日影に消ゆる君 #3

               三、  家に帰ってきた詩音は二時間ほど仮眠を取って家主の家に向かった。  元々来週のどこかでと予定していた草刈りが昨日、小笠原諸島沖での台風八号の発生により急遽変更となったのだ。 「悪いねぇ、引っ越しの疲れもまだ取れてないだろうに」  家主は小さな物置小屋から草刈り鎌を二丁取り出し詩音に手渡すと、もう一度小屋に戻りガチャガチャと音を立ててまた何かを探し始めた。 「後で小さな助っ人が来てくれます」 「小さな助っ人?」 「私の孫です。小学五年生の坊主が手伝い

          小説|夏日影に消ゆる君 #3

          小説|夏日影に消ゆる君 #2

               二、  不思議な夢を見た。  帰らない誰かを待ち続けている、切なく悲しい夢。  この場所は──。  早朝、胸をぎゅっと締め付けられるような感覚で目を覚ました詩音は、暫くぼーっと天井を見つめたまま、たった今まで見ていた夢の内容を思い出していた。  夢の中の場所は恐らく昨日家主が教えてくれたあの場所。実際の風景よりも寂れて──いや、今よりずっと昔の風景と言った方が正しいだろうか。遠くに見える港町は今よりも小さく、二隻の舟が浮かんでいるだけであった。  夢の中の景

          小説|夏日影に消ゆる君 #2

          小説|夏日影に消ゆる君 #1

               一、  チリーンチリーン。  軒に吊るされた南部風鈴が、夏の風を受けて澄んだ音色を響かせていた。 「おやおや、前の住人が置いていかれたかな? 邪魔なら外して処分してやってくださいな」  縁側に面した障子をすべて開け放つと、心地の良い南風が家の中を吹き抜ける。 「夏にぴったりのえい音色やないですか。このまま置いちょきます」 「そうですか。それより阪本くん、随分と荷物が少ないんだねぇ」  居間に運ばれたダンボールはたったの五箱。ワンルームからの引っ越しとはい

          小説|夏日影に消ゆる君 #1