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■読み応えのある短編集

「文学」と「作家」への道(24)
「詩人の独り言」改

◇高知東生「土竜(もぐら)」(光文社、2023年1月刊)

久々に、「書評」を書く。詩、小説、ノンフィクションその他。毎月10-15冊の本をほぼすべて図書館で借りて読んでいるが、これまで感想を書きたいというものに巡り合わなかった。
しかし、この本は書きたい、と思わせるものだった――。

俳優、高知東生たかちのぼるの自伝的短編小説集である。
新聞か何かの書評で読み、気になって図書館で予約していたものがようやく回って来たのだが、読みやすく面白いので、一気に読めた。

内容

俠客の父と、ネグレクトの果てに自死した母。17歳で天涯孤独となった彼は、喧嘩と女に明け暮れ、全財産6万円を握りしめ上京する。そして、薬物に溺れ、どん底に堕ち…。絶望と再生の物語。『小説宝石』掲載を単行本化。

図書館データ

おもしろく、よく書けていた。本当に高知が書いたのか? いい編集者のリードで、語り下ろしたものをまとめたのでは…という印象を持った。
しかし、実際に彼が感じた、見たものを周辺の人物が浮き立つように書いている。それは当人にしかできないことだ、と感じた。


この小説の出版までの経緯は「編集者が明かす、執筆の裏側」として、詳しく書かれているので参考にしてもらいたい。

小説=フィクションなので、すべてが高知の過ぎし来し方そのものではないにしても、何十年も前の出来事を見事に小説にしている。
何十、何百編も小説を書いている作家でもこの域に達せないのはいくらでもいると思う。

彼の感情が素直に出ている部分が多い。自分の過去の過ち、格好悪い話もうまく書いている。
本当に書けない話は書いてはいないだろうが、読み手の期待を裏切らないのだ。

これは天性の筆力だろうか。

彼のような体験をしても、小説にできる人なんてほとんどいないのだけれど、これを第一歩として、次作が登場することに期待したい。

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