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モノ消費とコト消費の違いは「三次元か四次元か」

 ビジネス、特に消費財やコンテンツ販売の業界において「モノ消費からコト消費へ」という言葉が言われ始めてどれくらいが経つだろうか。すでにその言葉がある種のお題目となり、意味や定義が曖昧になっていたり、ときに本質からはずれたシチュエーションで使われている場面も少なからずあるように思われる。それゆえ、「コト消費」をコンセプトにした新しい施策の中にあっても、うまく行くものとそうでないものとの間の格差も最近ではかなり大きく広がっているのではないかというのが正直な実感だ。

明暗分かれる「コト消費」

 「コト消費」という言葉から連想されやすい業界と言えば、たとえば出かけた先での体験(名産品や伝統工芸品の制作体験や名所でのアクティビティなど)をメイン商品として提供する観光産業や、ステージの上でパフォーマーが行う表現をコンテンツとして送り出し、その会場に集客をして入場料収入ないしは物販収入を得る、「興業」としてのエンターテインメント産業が分かりやすいものと思われる。

 現在これらの産業は、もはや半年に及ぼうかというコロナウイルス禍によって壊滅的な打撃を受けており、特に観光産業などは、ところによっては昨年対比9割減というきわめてインパクトの大きな数字を記録、政府が不備の多いまま前倒ししたGOTOトラベルキャンペーンを、それでも推し進めなければならない、かなりの極限状態に追い込まれている。

 しかし一方で、興業の世界に目を向けてみると、新宿の小劇場での舞台上演でクラスターが発生し、その運営における感染対策の杜撰さが批判を浴びる事件があったものの、近況ではオンラインによる公演の有料配信のシステム整備が進み、公演によってはオフラインに勝るとも劣らない収益化を実現しているものも現れつつあるのが実状である。
 たとえば、サザンオールスターズが6月25日に行う予定だった結成記念日を祝した横浜アリーナ公演は、コロナウイルスの影響で中止に追い込まれたが、その当日に代替公演として横浜アリーナより配信した有料オンラインライブの観覧チケットは18万枚相当の販売を記録したという。横浜アリーナの会場キャパシティはステージセッティングによって異なるがおおむね12,000~15,000席で、このオンラインライブではその12~15倍の枚数のチケットを売り上げたことになる。仮にチケットの代金が予定通り公演が行われた場合の3分の1程度だったとしても(実際には元々の公演のチケット価格が9,500円だったところ、オンラインでは3,600円で販売したとのこと)、元々の売り上げ見込額の4倍以上の興行収入を得たことになり、会場でのグッズ物販収入の機会損失を十分補填しているものと考える。もちろんグッズの物販もファンクラブへのサービスなどで後日通信販売が行われることもあり得るので、リアルでの公演が中止になったからと言ってまるまるゼロになる訳ではないので、この部分でも収益が発生する。ビジネスとしては、間違いなく成功例であると言える。

「コト消費」施策の成否を分けるもの

 なぜ、このようなケースが起こりうるのか。「サザン」の例は規模的に別格の感はあるが、大なり小なりこのようなケースが興業界隈では少しずつではあるものの散見されるようになっている。私はその理由を「信用」とそれを築き上げるに至った「時間ないしは時間軸」の有無に求めることができると考えている。

 以前、「100日後に死ぬワニ」というコンテンツが炎上、あっという間にユーザーの手が引いていってしまったことがあった。このことについて、ユーザーとコンテンツの間の関係性を100日かけて醸成したことがこのコンテンツの「成功」であり、実際の真意はさておき、その経緯を丸ごとすっ飛ばすような形で各種施策が投入されたかのようにユーザー側からは「結果として見えてしまった」がゆえに、いわゆる炎上状態となってしまい、コンテンツの価値自体も毀損されてしまったという旨のnoteを投稿したのだが、

まさにそこにも記したとおり、今日におけるコンテンツ展開並びに販売にとって重要なのはユーザーの共感・信用を作り上げること、ひいては、その共感と信用によって紡ぎ出されるストーリーに価値を付与することであり、それを可能にするには、実際に収益を出すために販売するモノ(興業を含む体験などについても、オンライン含め基本的には「モノ(現物であったり、オンラインを実現するデバイスであったり)」を介して行われるとご理解いただきたい)に対して時間軸の概念を付与することが不可欠なのである。いわゆる「モノガタリ消費」と称されるものだが、物語を物語たらしめるのは、〈時間〉に他ならない。このことをもって、「コト消費」とは四次元であるということである。いわゆる単純な「モノ消費」とは、その価値の中に時間軸の概念を持たない三次元であると言ってもいい。

註:漫画・アニメなどいわゆる「二次元」と呼ばれるものも、何かの物に絵柄が印刷されたり、デバイスに画像や動画が映し出された時点で広義には三次元の物と考えてよい。もちろん、これに時間軸の概念を持った物語が価値として組み込まれれば、それは四次元の物であるということができる。

 「コト消費」を標榜してうまく行っているものとそうでないものの差を考えるとき、あるいはコト消費のコンテンツを新しく立ち上げる際、その価値の中に時間軸の概念があるかどうかを検討するのは、きわめて有効な手段であると私は考える。

時間経過の浅いコンテンツで「コト消費」の世界で勝つヒント

 なお、時間軸の概念を組み込んだコト消費コンテンツの構築、特にオンラインでの展開においてしばしば問題になるのが「仕組み上、すでに〈勝っている〉ものしか勝てないのではないか」ということだが、確かにその危険性はあって、前述のサザンオールスターズなどは、すでに40年以上の時間軸の積み重ねの上にあのオンラインライブがある、というのが価値の源泉であることは言うまでもない。ただ、これもまた先日noteに投稿しているのだが、新人声優アイドルユニットとして活動している「DIALOGUE+」の例のように、ゼロから始まって、かつ、積み重ねた時間も少ないながら一定の成功を収めている事例も存在している。

 このプロジェクトにおける成功の要因は、現在進行形の、演者ないしはプロジェクトの成長を「物語」としてログラインに据えてユーザーとリアルタイムで共有していること、またユーザーをある種の「共犯者」と定義して、時間軸の中に取り込んでいることがあげられる。
 また、このプロジェクトについては音楽プロデューサーでもあるUNISON SQUARE GARDEN田淵智也氏とパッケージリリース元のプロデューサーあるポニーキャニオン野島徹平氏によって、ユーザーも巻き込んでののオンラインMTGをzoomで行うなどの大胆な仕掛けも奏功しており(コンテンツとしての〈物語〉を紡ぐ時間の中に、一部とはいえユーザーをコミットさせる構図)、実際このMTGを経て、もともと発売される予定の無かったオンラインライブの映像パッケージの発売が決定をするなど、これまでにない展開も起こっている。まさにコト消費が実際のアウトプットとなるモノ消費を作り出した好例といえるだろう。

 このように、新規のコンテンツがコト消費の中で勝っていくためのヒントもまた「〈時間軸〉をどのようにとらえ、どのように扱うか」にあると言うことができるのではないだろうか。

最後に繰り返すが、
「コト消費」とは「四次元」である。

参考記事および参考文献


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