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暗闇の光 ~お題2つでショートショート その7~ 『サウナ』『レンジ』


 ――ここはどこだ?

 暗くて何も見えないし、寒くて体が震える。

 そもそも、僕はなんでここに居るんだ?
 そうだ……。気づけば僕はここにいた。
 目が覚めたらこの暗闇の中だったんだ。
「それにしても寒いな……」

 僕がそう呟いた次の瞬間、暗闇の奥から誰かの声がした。
「おい、お前、新入りか?」

 ――声? 誰の声だ? 

 その声は少し震えている。
 寒くて上手く口が動かせていないのかもしれない。
 僕はその声の主に話しかける。

「すみません! 誰かいるんですか?」
「あぁ、お前、新入りだな?」

 声の主は僕にそう訊いてくる。
 僕はどこに居るのかも分からないその声の主に訊き返す。

「新入りって、一体なんのことですか? というか、あなたは誰ですか?」
「俺か? 残念だが、それは分からないんだ」
「分からない?」
「あぁ、たぶん記憶喪失ってやつだ。俺は自分が何者で、何故こんな寒くて暗い部屋に居るのかも分からない。…………だが、それは新入り、お前もだろ?」
「僕も? 僕が記憶喪失だっていうんですか?」
「違うのか?」
 
 僕は何を言っているんだと心の中で呟きながら言う。

「違いますよ。僕は……」
 
 そこで口が止まった。
 分からなかったのだ。この部屋に来るまでの記憶がない。
 僕は必死に頭の中から記憶を引っ張りだそうとするが、何も思い出せない。
 
 ――あれ? 僕は……誰だ?

 その時だった。急に地面が激しく揺れた。

「また来たか……」

 先程の声の主はそう呟く。
 
――なんだ? 何が起こっているんだ?

 僕が混乱していると、天井がスライドするように少し開いた。
 暗闇の世界に一筋の細い光が差し込んできた。
 ――と、同時に、部屋の明かりも点灯した。
 やっと辺りの様子が明らかになる。
 
「……何だよ……これ……」

 声の主を確認する前に僕の目に飛び込んで来たのは、沢山の凍って動けなくなった者達だった。

 次の瞬間、光の差し込む天井の隙間から何か巨大な影が伸びてきた。
 僕はハッと見上げる。

 それは――大きな手だった。

 その者達のうち一つをつかみ取ると、大きな手は外へと連れ去る。

 再び地面が激しく揺れる。
 天井がスライドするように再び閉まっていった。
 部屋に注いでいた光の筋は限りなく細くなり、そして消えた。
 同時に部屋の明かりも消え、周囲は真っ暗になった。

 暗闇の中、僕が呆然と立ち尽くす。
 先程の声の主だろうか? 再び僕に話しかけてきた。

「……見て分かるように、ここにいる奴らは凍って動けなくなってしまった。この寒さに耐えられなかったんだ」

 その声は先程よりも震えており、とても弱々しいものとなっていた。
 声の主は震えた声で言う。

「俺も……そろそろ凍ってしまいそうだ。口も思うように……動かなくなってきた。新入り……お前と話せるのもこれで最後かもしれない。じゃあ……な……」
「諦めちゃダメです! 返事をしてください!」

 しかし、返事はない。

「お願いします! 一人にしないでください! 返事をしてください!」

 やはり返事はない。

 ――一人になってしまった。
 自分が何者かも分からず、ここが何処かも分からない。
 僕は一体どうすれば良いんだ……。

   *     *    *

 ――あれからどれくらいの時間が経っただろうか?
 寒さでもう体はどこも動かない。
 体の感覚も既に無くなっていた。
 おそらく僕もほぼ凍ってしまっているのだろう。

 その時、地面が揺れ、部屋の上の方から光が差した。
 大きな手が、またそこから伸びてきた。
 その手は僕を掴んで部屋の外へと連れ出す。

 僕はその手に掴まれながら考える。
 少し暖かくなったな。
 部屋の外へ出たからだろうか。
 それにしても、どこへ連れていかれるんだ……。

 動かない体でそんなことを考えていると、僕はまた別の部屋に入れられた。
 しかし、先程のように寒いところではなく、むしろそこは、すぐそばに太陽があるかの如く暖かかった。

 ――なんだ? だんだん体が融けてゆく……。
 暖かい……僕はサウナにでも入ったのか?

 ――いや……違う。
 熱い。体が燃えるように熱い。
 焼けるように熱い。
 ――このままでは……。

 僕は叫ぶ。

 「熱い! ここから出してくれ! このままじゃ死んでしまう!」
 
 しかし、その願いは叶わず、そのまま僕は力尽きた。

 ――チン♪

 結局、彼が『レンジ』から外に出られたのはその音がなってからであった。

<了>

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