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#011 自分のことなら書ける

拝啓 取材がめんどくさい方へ


もしもあなたが大手出版社から
「ニューヨークを舞台にした小説を書いてくれませんか?」
そんな依頼をされたら、どうしますか?

わたしだったら「書けません」と即答そくとうします。
行ったこともない街のこと、書ける訳ありません。
わたしにとってのニューヨークは、
ビリー・ジョエルのこの曲「ストレンジャー」。

あるいは、
イエローキャブ、マフィア、ロバート・デ・ニーロ、
マンホールから蒸気が立ちのぼっている街。
まさにマーティン・スコセッシ監督の映画そのものです。

わたしにとってのニューヨークは、
情けないほど陳腐ちんぷなイメージしかなく、
少年時代にり込まれたまま、フルモデルチェンジしていません。
ニューヨークを舞台にした小説を本気で執筆するなら、
わたしの場合、少なくとも1年は住んで、毎日歩き回って、
あらゆる「見る・く・感じる」を経験し、
たくさんの思い違いや勘違かんちがいを更新しながら、
リアルNYをインストールしないと書けません。

「そこを何とか」と編集者の方に懇願こんがんされたら、
「だったら …… 」と仕方なく二次創作を提案すると思います。


映画『タクシードライバー』のなかに迷い込んだ主人公が、
トラヴィス(デ・ニーロ)の行動をことごとく邪魔するパロディ。
作品タイトルは『You talkin' to me?』かな。
たひとには分かるジョーク)


冗談はこれくらいにして、本題に入ります。
物語の舞台となる街に居住できなくても、
しばらく滞在して「見る・く・感じる」が可能なら、
わたしだったら滞在します。
その場所に居る(居た)という事実があると、
ロケーションの描写に不自然さがなくなるからです。
作品に深みが増すというプラス要素ではなく、
不自然さがなくなる(=マイナス要素がなくなる)という理由です。

居住も✖。滞在も✖。そんな場合は、日帰り取材をします。
創作活動に限らず、記事や広告制作においても、
現地取材に出向くということは、
予測ネタの確認ができて、思い違いの訂正もできて、
新たなネタも拾える。…… いことくしです。

執筆中、わたしは常に不安を抱えています。
「間違ってないかな~」「うそ臭くないかな~」「大丈夫かな~」
なので、わたしにとって取材は肝要かんようなのです。
作品におけるロケーションの描写が、
必ずしも写実しゃじつであるべきだとは思っていません。
「間違ってない」「うそ臭くない」「大丈夫」
わたしはそう思いたいので、その場所へ足を運びます。

ロケーションに限らず、主人公の職業、職場環境なども、
自分が納得いくまで調べます。…… ある意味コレも取材です。
間違ってないか? を検証することは、取材とセットの必要条件で、
間違っていれば「大丈夫」と思えるまで修正します。
時代小説ならば、時代考証にのぞみます。
SF小説ならば、先端科学の勉強をします。

正直、ぶっちゃけ、めんどくさいです。
下調べ~取材~検証~修正、すべてがめんどくさいです。
でも、それをしないと、わたしの場合、不安で仕方がないのです。
わたしの想像力なんて、たかが知れています。
完璧かんぺきな小説も書けません。
だからこそ、せめて納得ずくで書き終えたいのです。

…… でもやっぱり、めんどくさいですよね~。

そんなあなたへ朗報ろうほうです。
取材がめんどくさい方には、こんなやり方があります。

あなたの領域で書けばいい。

自分のこれまでの人生や経歴からいろいろ持ち出せばいいのです。
これまで自分が「見たこと・いたこと・感じたこと」をもとに、
物語の舞台、主人公のプロフィールなどを設定する。
生まれ育った街、通っていた学校、働いていた業界、
いま暮らしている街、現在の職業など、自分の履歴書の中身を活用すれば、
わざわざ現地取材に出向かなくてもいいのです。
もちろん、やるべきこと(下調べ・検証・修正)はありますが、
現地取材に行かずとも、
事実とのズレをあまり気にすることなく執筆できます。
自分のことを書く訳ですから、間違った内容にはなりませんし、
検証・修正は、自分のなかの記憶と正しく照合するだけです。

「めんどくさいならめればいい」はネガティブな言い方ですが、
決して後ろ向きな話をしている訳ではありません。
むしろポジティブな話をしています。

昨日から始まった新ドラマ『花咲舞が黙ってない』の舞台はメガバンク。
言わずと知れたあの大ヒットドラマ『半沢直樹』の舞台もメガバンク。
原作者の池井戸潤先生は元銀行員ですから、
ご自身の経歴を活かして執筆されたことが分かります。

また、あなたが読んだことのある小説には、
著者ご自身の経歴が活かされた作品が必ずあるはずです。
又吉直樹著『火花』、村上龍著『限りなく透明に近いブルー』 etc.
芥川賞受賞作品にも多数ありますし、
青春小説のジャンルは、明らかに著者の学生時代が反映されています。

あなたのこれまでの人生や経歴は、唯一無二のストーリーです。
ヒーロー・ヒロインじゃなくても、劇的な出来事がなくても、
あなたが主役の物語です。
その物語から持ち出されたいろいろな要素がもとになって、
ひとつの作品ができあがる。
オリジナルの小説が誕生する。
コレ、劇的な出来事のひとつになりませんか?

さぁ、鏡に向かって、
「You talkin' to me?(わたしに用?)」とたずねて、
鏡に映った自分に、ニヤリと笑ってこう答えましょう。
「Write about yourself.(あなたのことを書きなさい)」

…… うわっ! さぶっ!
…… でも、なんと見事な伏線回収。(自画自賛じがじさん!笑)


★ わたしにとっての「 THE・ニューヨーク 」★


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