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心理的安全性だけでは成果は出せないから、「北風」と「太陽」のバランスを取る。

心理的安全性だけではダメだ、という認識への進化


心理的安全性がチームの成果に及ぼす影響の大きさは、今さら説明する必要がないほどに世に浸透している。

研修ファシリテーターとして年間2,000人以上の参加者とお会いしているが、今や新卒社員ですらあたりまえのように「やっぱ、心理的安全性でしょ」と口にする。Google社の影響力に驚くばかりだ。

一方、世界中が心理的安全性をつくることに盲信していた時期は過ぎ、最近は「心理的安全性だけではダメだ」という声も聞こえるようになってきた。現場で何周もまわしてみて得られた、生きた言葉だろう。(「理想だが現場では使えない」という諦めの声も多いが)

同意である。

心理的安全性は「成果に最も大きな影響を及ぼす因子」として紹介されてはいるが、あくまでも一因子である。成果を左右する因子は多種多様である。

「高い基準」を持たせることが必要


心理的安全性研究の第一人者であるエイミー・C・エドモンドソン氏もそんなことは当然お見通しで、次のように明確に述べている。

リーダーにはどうしてもしなければならない仕事が二つある。一つは、心理安全性をつくって学習を促進し、回避可能な失敗を避けること。もう一つは、高い基準を設定して人々の意欲を促し、その基準に到達できるようにすることだ。

エイミー・C・エドモンドソソン
(恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす/英治出版)

チームの成果向上に不可欠なのは、「心理的安全性」か「高い基準(=責任)」のどちらかではなく、どちらも揃えていくことである。

「北風NG 太陽OK」ではなく「北風と太陽のバランス調節」


イソップ物語の「北風と太陽」は、ビジネスにおいて頻繁に使われるメタファーである。

これは、「心理的安全性」と「高い基準」の両方の必要性をイメージする上でも助けとなる。

通常は、「北風NG 太陽OK」「強制ではなく、太陽のように人に影響を与えなさい」という文脈で用いられることがほとんどだ。

しかし心理的安全性に当てはめて使う場合には、「北風」を悪いものと捉えず、定義を変え、うまく活用していくことが重要となる。

具体的にリーダーの行動に落とし込むとこのようになる。

北風としての行動(高い基準)

  • 最終目標を明確にする

  • 目的(目標を達成した際に得られるもの、達成しなかった際に失うもの)を示す

  • 最終目標を達成するため中間目標と、それを達成するための必要なスキルや知識を提供する

  • 許されない失敗を見逃さず、率直にフィードバックし、ときには叱る

太陽としての行動(心理的安全性)

  • 相手を、やわらかい感情を持った一人の人として尊重する

  • 相手の悩みに耳を傾け、共感する

  • 相手の意見に耳を傾け、それをできる限り活かす

  • 相手のモチベーションの源泉を見つけ、焚きつける

  • 相手の強みの資質を見つけ、それが活かされた状態を想像し、相手にもイメージさせる

  • 小さな成長や成功を見つけ、頻繁にほめる

  • 許される失敗を歓迎し、トライ&エラーを促す

かつて人事部としてこじれたパワハラ問題に何度となく介入してきたが、そこにはいつも「北風」が吹き荒れていて、疲弊したチームメンバーは吹き飛ばされないよう必死でこらえていた。

一方、問題は起きないけれど成果が上がらないチームも多く見てきた。そこには「太陽」のような穏やかなリーダーやメンバーは存在するものの、お互いへの建設的な厳しさがなかった。

安心できる環境で余すところなく力を発揮するには、「北風」と「太陽」の両方、そしてそのバランス調節が必要なのだ。

相手の状態によって、バランスを調整する


私は、「北風」と「太陽」には順番があると考えている。「太陽」が先で「北風」が後だ。

どんな正論も的確なフィードバックも、相手が胸襟を開かないままでは騒音にしかならない。先に「太陽としての行動」を示しつつ、徐々に「北風としての行動」を織り交ぜていくことが効果的だ。

いっぽう、その分量については、チームや個人の状態によってさじ加減を変化させる必要がある。

割り当てられた仕事に対して経験の少ない個人やチームには、「北風としての行動」を躊躇なく多めに施すことで、初期段階での脱落を防ぐことができる。しかもチームからは感謝される。

逆に、その仕事に対する経験が豊富で、定期的に成果を挙げている個人やチームには、「太陽としての行動」を多めに提供してエンパワーメントを進めることが有効になる。これもまた、リーダーであるあなたへのチームからの評価を高めてくれる。

相手の状態に合わせることが成功の秘訣だ。

注意:「北風」=「冷たい対応」ではない


最後に一つだけ、注意点を記したい。

「北風としての行動」も必要だとはいえ、その意味を勘違いすると大事故を起こしてしまうことになる。

「ツメタイ」「キツイ」「ヒドイ」言葉は徹底的に排除し、「率直さ」「明確さ」「タイムリーさ」「的確さ」に置き換える必要がある。

「北風としての行動」の目的は、あくまでも相手の成長のために誤解なくコミュニケーションを図る点にあるのだ。

まとめ


言い古された感のある「心理的安全性」ですが、職場における活用はまだまだ改善の余地があると実感する毎日です。

うまく活用できていない実感をお持ちであれば、ぜひ「北風と太陽のバランス」のメタファーをイメージしてご自身の行動に調整を加えてみてはいかがでしょうか。

きっと成果向上のきっかけを感じて頂けることと思います。


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