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ハイバリュエーションでも交渉が成立する理由|M&A BANK Vol.154

過去にはあのハイバリュエーション案件を

島袋
今回も、ブルームキャピタルの宮崎代表に来ていただいております。

公開情報しか話せないとおっしゃっていた流れで聞きにくいんですが、過去に手がけた実績を教えていただけますか?

宮崎
世の中に出ている案件では、株式会社リジョブを株式会社じげんに買ってもらったものが有名ですね。
当時、バリュエーションが高すぎじゃないかとおっしゃる方がいました。

島袋
20億でしたっけ?

宮崎
それぐらいですね。開示情報に書いてある金額としか僕は言えないので。(笑)

でも、公開情報を見る限り、リジョブというビジネスでその後すごくうまくいっているはずなんです。なので僕としては、やはりすごく価値のある仕事ができたと思っています。

ベンチャー企業は成長性があるが故に、評価をするプロの方からすればとてもリスクが高いんですよね。成長性があると言ってもその結果はすごくぶれる可能性があるわけですから、企業価値評価できないと言う人もいますし、いわゆる有名なDCF法もできない。
それに対して、僕たちは「そんなことはない」という立場をとっています。

すごく成長性が高くて、かつその成長性がある程度安定している場合、通常の評価はたとえばEBITDAで、営業利益の3倍から7倍になることが多いんです。1億だったら3億円~7億円だと。
でもこの「3倍から7倍」という指標は、結局通常の上場企業の平均から来ているんですよ。
だからさっきのじげんさんのように、すごくいい会社で成長性が高くて、事業内容的にリスクも少ない場合は、倍率はもっと上がってもいいと思うんです。

実はそれも合理的に計算できるんですが、その手法が世の中であまり浸透していないんですね。
なので、同様の事例を増やしたり、そういう金額の妥当性を示すために本を書いたんです。

島袋
なるほど。


高く売っても買い手の満足度が高い理由

宮崎
現に、うちがディールをしたときの買い手もほとんどが満足しているはずなんです。
売り手はアンケートを取っているので100%そうですし、買い手側も、外から見る限り高い確率で満足してもらっているはずです。

というのは、バリュエーションをする時はたいてい事業計画を作るんですよね。たとえば1年後から4年後まで作って、そこから割引いて評価をするのが基本的な手法です。

誤解を恐れずに言えば、計画として作るこの数字は本来、上にも50%下にも50%の振れ幅を加味して作るべきなんですね。本当はもうちょっといろいろとあるんですが。
ですから、厳密にはこれ(計画)より下にブレても相当リターンは出るはずなんです。

計画は下回る可能性が5割、上回る可能性が5割と最初に期待していたわけですから、もしそれより下に振れたとしても、「買って大損する」わけではありません。
なので、巷で高いと言われた案件でも、実際アンケートをしてみると相当満足されていることが多い。
それなら、その価格が正しかったということになりませんか?それが大事なんですよね。

島袋
売り手側について、ハイバリュエーションの売却を成約させるのがお得意というイメージですが、書い手からすると高く買うことになるわけですよね。
それでも満足されているのはなぜなんでしょうか?

宮崎
すごくシンプルな答えになりますが、買い手はそれぐらいの価値があると見極めて買われているからですね。
逆に、そこで「半額しか出せないと言われた人たちは機会損失をしているわけです。


会社は価値評価が最も難しい財

宮崎
ものごとの価値って、例えばこのお水のような消費財だったら100円と決めやすいんですが、会社って特殊な財なので難しいんですよね。
消費財の次に価値判定が難しいのは不動産や中古車、その次が絵画。価値の評価が一番難しいのは、僕は会社だと思います。特に非上場企業は難しい。
不動産なんかは部屋の大きさや築年数によって相場がありますが、会社はないんですよね。

それに、買い手によっても価値が変わります。A社が買う場合とB社が買う場合では、全然シナジーが違いますよね。

「シナジーは買い手に帰属するものだから売り手の価格に入れるな」という意見もありますが、買い手の希望が強ければそうはできません。そのシナジーは買わないと手に入れられないわけですから。
もう1つ、金融的な観点でポートフォリオのリスク分散という投資効果のようなものもありますが、ちょっと難しいので省きます。
とにかく、会社は買い手によって価値が変わるから評価が難しいんです。

あとは、不動産とか中古車だったら使うとか住むという便益・対価がありますが、会社の場合は結局、出てくるキャッシュフローが重要なんですよね。
投資家だったら会社を売ってゲインを得るキャッシュフロー、会社が会社を買う場合は会社が生み出すキャッシュフローこそが価値の対価なので、そこを見ないと価値を決められないんです。

そしてなにより、会社の場合は売り手が素人で、買い手がプロのケースがすごく多いんですね。
だから、会社の価値を見るのは非常に難しい。

島袋
会社の売買は他の消費財と違っていて非常に特殊で難しいってことですよね。
たまに「不動産を転がすのと会社を転がすのは一緒でしょ?」「手数料は安くてもいいじゃん」とおっしゃる方がいますが、会社によって全然違ってくるわけですよね。

宮崎
違いますね。

島袋
なるほどなあ

では、今回はここまでですね!
次回からはファンドならではの特殊な買収スキームについて伺いたいと思います。


出演者

■宮崎 淳平:株式会社ブルームキャピタル-代表取締役社長

ライブドアグループ、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社社楽にてM&Aアドバイザリー業に従事。その他にもプライベートエクイティ投資案件、資金調達案件、及びファンド組成・運営を多数経験。2012年にブルームキャピタルを創業。

【株式会社ブルームキャピタルとは】

「ベンチャー市場・TMT関連市場におけるM&A市場の完全市場化への貢献」を経営理念とする、M&Aアドバイザリーファーム。売り手側のみの立場に立ち、各売り手にカスタマイズされたM&Aアドバイスに特化するという、国内では例のないサービスを展開している。

■島袋直樹:IdeaLink株式会社-代表取締役

シリアルアントレプレナー。26歳でインターネット広告代理店を創業、年商20億円規模に成長させる。2016年に同社を分社化し、インターネットメディア運営を主体とするIdeaLink株式会社を創業。2017年12月、自社メディア5媒体を上場企業に事業譲渡。「事業は創って売る」をモットーとする。「会社は伸びてるときに売りなさい。」の著者。