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青を求め、カメラを買おうと決めた日のこと【チベットの思い出】

今使用している一眼レフカメラは6年ほどの付き合いになる。入門機だし、いくらか古い型なので画素がちょっと荒い。一眼の中では小さい方とはいえそれでも嵩張るし、持ち歩くのが面倒になることがある。

主に旅先でカメラを使う私にとっては不便と思うことが多い。

次のボーナスでミラーレスに変えようかな、逆にフィルムカメラも味があって楽しいかも。なんて考えていたところ、ある日夢を見た。

夢の中で私はチベットに向かっていた。

チベットには、20歳の頃一度訪れたことがある。友人が、突然行ってみたいというのでとりあえずついて行ってみた。可哀想なことに、私の記憶がない旅先ランキング上位に入る場所だ。

何となく、チベットの写真を見返す。写真を見返したのもこれが初めて。コンデジで撮られたそれらはガサガサの画質と謎のブレ写真ばかり。

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(↑頑張ってまともな写真を探した)

その中ではたと、ひとつの風景写真に目が止まり、記憶が蘇る。

そうだ、チベットは私が一眼レフを買おうと決意した、あの青がある場所ではないか!

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チベットは標高が高い。そのため着いてすぐに、高山病らしい症状になってしまい、なかなか回復しなかった。

ホテルはあまり綺麗ではなく、シャワーを浴び始めて5分くらいしたらお湯が出なくなった時の友人の叫び声が頭の中でフラッシュバックする。

疲れた胃を労るべく、あっさりした食を求めて街を歩いても、中華料理かネパール料理(=カレー)しかなく、胃もたれの毎日。

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今ならそれもこれも楽しめる自信があるが、まだ旅慣れていなかった頃の私たちには、少しハードな日々だった。

疲れた体で向かったポタラ宮殿は外観しか記憶がないが、この記憶は高校時代に何度も見た世界史の資料集の記憶かも。

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そんな旅の中、ある時私たち一行は山に行った。立派に英語のガイドさんまでつけて。

あの山がどこだったのか、なんであそこに行こうと決めたのか、全く思い出せなくてもはや旅費とガイド代がもったいなさすぎる。

1日中、山道を車で走っていた。

道はひどくガタガタだし、蛇行が多く、もうリアルビッグサンダーマウンテンだ。ただでさえ体調が良くない上に激しい山道による車酔いが襲いかかり、全員グロッキーだった。

苦労の末に登った山の景色に特段感動した記憶はない。曇っていたせいでもやっとした空気とカラフルな旗が至る所に飾られている景色だけが思い出される。

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下り道もぐったりとしたまま、代わり映えのしない曇り空の下を引き続き走り続けていると、突然視界が開けた。

驚き窓の外を見やると、眼下に広がっていたのは山々に囲まれた、青く広い湖。

まるで海のように悠々とその青は存在した。

ふと心が沸き立つのを感じる。急いで運転手に湖で止まって欲しいと伝え、水辺に降り立つ。

わずかに雲間からのぞく太陽を浴びてキラキラ輝く水面。どこからか吹くそよ風が心地よい。

外気を肺いっぱいに吸い込んで、視界の端から端まで広がる青い湖に向き合った。

それは私がそれまで見てきた中で、一番美しい青だと感じるものだった。

これを収めようと、早速カメラで写真を撮る。

しかし、何度シャッターを切っても、液晶画面に写った青は目の前に座す青にはるか及ばない色だった。

ふと隣で写真を撮る友人に目を向ける。彼女の手には一眼カメラ。液晶画面には光り輝く青が見事に写されていた。

その時私は、コンデジと一眼カメラにはこうも大きな差があるのかと思い知った。今まで、自分が持っているコンデジは旅先の思い出を残すには十分な存在だと思っていた。しかし、美しい景色を収めるには、足りないものがあったのだ。

私は後悔した。この素晴らしい青を写真に残すことができなかったことを。

欲しい、一眼カメラを手に入れたい。

これから先、世界に溢れる素晴らしい色をひとつも逃さず、写真に残したいとこの時初めて感じた。

それまでに行った国々の写真も、見返すと何故こんな写真を……と思うものがたくさんある。きっとその時何かを感じてシャッターを切ったはずなのに、それが全く思い起こされない写真たち。

もちろん目で見て心に残すことが一番なのは言うまでもない。しかし全てを記憶することは難しく、いつかは薄れてしまう。

これからは、旅先で目にした美しい景色たちを美しいままに、手元に残していこうとその時決めたのだった。

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そうして帰国後、すぐに電気屋に行った……

わけではなく、学生にはなかなかパッと買える代物ではなかったので、お小遣いを貯め、それでも親に少しお金を借りて、1年後に念願の一眼レフカメラを手にしたのだった。

それが今持っているカメラ。

それ以降、このカメラで沢山の色を撮ってきた。帰ってからも何度も見返しては、その旅先の素晴らしさを思い出す。

チベットに行くまで特段湖などを好んで旅をしてきたわけではなかったので、あれよりも美しい青はそれ以降幾度も見た。

でもあの時、心を大きく動かした青は、確実に人生のひとつの転機と言えるだろう特別なものである。名も知らないチベットの青き湖に感謝の意を表したい。

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などといいつつ。まあ、最近までこのことはすっかり忘れていたのだが……。

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なぜカメラを持つのか、なぜ写真を撮るのか、初心を思い出した私は、手放しかけている今のカメラに再び愛おしさを感じた。

でも、この子はこれからの旅において、最良の相棒ではなくなってしまっているのも事実だ。

少し寂しさを感じるが、チベットで感じたあの気持ちに寄り添ってくれる新しいカメラを探そうと思う。

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