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理系アイドル 抽象のブレイクダンス

「勉強もよくできたんです。」「地元では結構な進学校に通ってまして。」
風見慎吾 shueisha 1985, kindaieiga 1983 

県内どころか中国地方でナンバーワンの進学校に通っていた慎吾ちゃん。中高一貫男子校GI、それはつまり、理系であるということです。

「得意だったのは数学と物理。共通一次の数学はたぶん満点だった。」
風見慎吾 kindaieiga 1983

慎吾ちゃんは理系。そのことが彼のダンス多大な影響を与えていたと思うのです。

私たち昭和の視聴者は、それまでのアイドルが踊ってきたダンスとは全く違う踊りを慎吾ちゃんによって目の当たりにしました。何が違っていたのか。それはもちろんブレイクダンスの動きが私たちにとって新しかったからということもありますが、違いはもっと深いところにあるのです。

慎吾ちゃん以外理系のアイドルは存在しませんでした。当時のアイドルは皆十代デビュー。アイドル活動をしながら理系コース、つまり数Ⅲ、つまり微分積分をこなすことはまず不可能。ではなぜ、慎吾ちゃんは理系なのにアイドルだったのか。それは、元々アイドルになるつもりなんてなかったから。その上、十代でもなかったのです。顔が可愛かったばっかりにアイドルになってしまいましたが、レコードデビュー時には既に成人した大学生でした。

“歳ひとつサバ読んでたけどね” ロッテ  1984

理系の課題に向き合うには、文系の暗記科目と違い、数式を立て計算処理をするという能動性が要求されます。教えてもらうよりも解説を読むよりも、独りで考え独りで解きたい。自分でやりたい。理系脳を持つ人はそういう傾向にあります。

「なんでも自分でやりたいタイプで、ずいぶん失敗もしてきましたね。」
「やれることは自分でやりたいですね。LPのなかの全部ってわけにはいかないから、そのなかの1曲だけ作詩するとか、あと歌の一部のメロディーを作るとか。」
「ラジオ番組の構成や選曲も自分でやってるよ。」

「曲の構成、踊りの振り付けはもちろん、パンフレットや会場で売ってるTシャツやステッカーまで自分でやったよ。もちろんプロじゃないから最高とまではいえなくても、自分でとにかくやりたかった。」
風見慎吾 kodansha 1983, magazine h, shueisha 1985

能動性。教えてもらおうとしない。レッスンも受けてない。自分からやる。自分でやる。それはブレイクダンスの真髄。

「某大学の工学部に籍を置いています。得意科目は材料力学、線形代数」
風見慎吾 kodansha 1983

慎吾ちゃんが在籍していたのは、難関で多忙な工学部。工学の究極の目標、それは「ものづくり」。

「ダンスの振り付け、一生懸命考えるんですよ。たいへんだけど、好きなんですよね。」
「自分で何かを作る、というのが僕のポリシーだったので、そういうイミでもとても納得いく曲が出来上がったと思います。」
「移籍する前の事務所では台本作家を目指してたんだ。まちがってアイドルになっちゃったけど。」
「僕はやはり、演じる人よりも作る人になりたいな。」

風見慎吾 magazine h, oricon, shueisha 1985

専攻は機械工学。物理を駆使する学問です。物理、つまり力学。動きにどういう力が働いているのか。原理はどうなっているのか。そういった視点が、きっとブレイクダンスの技の習得に活きていたでしょう。

「これは見た目ほど難しくない。足を大きく開いてバランスを取るのがこつ。あとは首を床から離して惰性*で回るだけ。」 * 物理学用語、慣性 
風見慎吾   shueisha 1985

shueisha 1985

物理のベースになるのは数学。数学の真髄は論理的緻密さと抽象化。慎吾ちゃんのアクロバットの際立って美しい姿勢、合理的で几帳面な技の動き。それは緻密さの追求から来ているのかも。

そして抽象化。歌詞を具体的に表現する「振り」で表すのではなく、歌詞の内容を抽象化した動きを紡ぐダンス。「take a chance」を抽象化した踊り。

まずは徹底的に現実を観察し、実践の活動を通して世の中の具体をつかみ、それを頭の中で抽象化して思考の世界に持ち込む。そこで過去の知識や経験をつなぎ合わせてさらに新しい知を生み出したのちに、それを再び実行可能なレベルにまで具体化する。これが人間の知とその実践の根本的なメカニズムということになると考えられます。  細谷功 『具体と抽象』  dZERO  2014

挑むという概念を自分はどう踊るか それがブレイクダンス

「『涙のテイク ア チャンス』にはガキのころからの思い出、いっぱい
つまってる」
  風見慎吾 shueisha  1985

挑むという概念をキミはどう踊るか それがブレイクダンス

「エジソンと忍者を融合した革命的なもののように見えた。」
TAKAHIRO/上野隆博  TIME AND TIDE J-WAVE 81.3 FM 2017/10/21


2023/3/3