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公募文化はワナビにとって希望であり毒であるという話

■はじめに

 こんにちは、主にゲームを制作しているサークル「ほんわかふわふわ」代表、花倉みだれです。
 ゲーム制作……と言いつつも、私自身は自分で出来ることなら何でも手を出したいと思うタイプでもあったりします。

 例えばそう、小説とかですね。

 何を隠そう、中学時代から先ずっと、いわゆるワナビ的精神を持ち続けているのです。

インターネット上においては、「ワナビ」というカタカナは特に小説ラノベシナリオ等の作家志望者を示した呼称・蔑称として使われることが多い。 

ニコニコ大百科

 そんなワナビ的な精神の持ち主として、最近目につくようになったのがゲームの公募的な存在です。

 今回はワナビ的精神の持ち主のゲーム制作者として色々うずいた気持ちを吐き出す記事となる予定です。

■ゲームの公募ってなに

 ゲームの公募的なもの最近増えてきたよね~と言っても、言うてそれは自分自身がゲーム制作クラスタにいるからそう感じるだけかもしれないので、目についた分くらいパーッと上げていこうかなと思います。

 他も色々……テレビ出演とか出版社とか3桁超えの賞金とか、とっても景気いいですよね。

売れっ子作家になりたい!

 普段繰り返し(現状)儲けは気にしてないしダウンロード数も気にしない、1人1人からの反応をいただけるのが本当尊いですと言っている私でも、これはワナビ心をくすぐられますよね。
 ワンチャン個人ゲームクリエイターとして独り立ちできるチャンスなのでは……? と。
 この感じ、中学うまくいかなすぎて高校とその先の暗雲をワンチャン小説家になれればなんとか死なずに済むのでは? と夢見ることで誤魔化していたあの頃の気持ちと重なる部分があります。

 さすが出版社やテレビ! 気持ちを煽るのがうまい!

■夢見る初心者を蝕む罠

 こういう公募、基本的な傾向があります。
 「これまでの枠に囚われない新しいモノ」
 
だいたいこのニュアンスが入っています。

 例えば、私も1度は応募したことがある電撃大賞では

電撃小説大賞で目指すのは「次世代を担う新しい才能の発掘」です。ジャンルは不問で、電撃文庫、メディアワークス文庫の両レーベルから、世界に広がってくれるエンターテインメントとなりうる小説、才能を探しています。

近年の応募作を拝見すると、メディアワークス文庫向けの作品としては、青春小説、ラブストーリー、中華ファンタジー、ジャンルは多様で、先行するヒット作の研究やトレンド分析をしっかりされている作品が多い印象で頼もしく感じます。一方で、他作品とは違う個性や独創性の点が欠けてしまっていて残念に思うこともしばしばです。

電撃大賞

 とあります。
 それはさっき挙げたゲーム関係の公募もだいたい同じような傾向なんですよね。

 誰も見たこともないような「新しさ」や既成概念を揺るがすような「驚き」に、満ちたアイデアを期待してます。

神ゲー創造主エボリューション

 公募とは直接関係ないですが、いわゆる「インディー(ゲーム)」に求められる空気感もそういうところがあります。

斬新で尖ったタイトルが楽しめるインディーゲーム。一方で、リリースされるタイトルが多くて、何を遊んでいいか迷ってしまう方もいるかも。

ファミ通.com

 こういうのを見て、夢見る心はどう思うか? っていうと、

 実力はなくても俺の圧倒的個性と独創的なアイデアを見せつければ出し抜けるのでは??

 ってことなんですよね。
 逆に「ありきたりなものを作る」ことが怖くなったりもしてしまいます。
 1度も「完」とか「了」とか「終」とか書いたことなくたってそう思うものなんです。

 「いや、そういう人もいる」くらいに取っていただいていいですし、
 私だけならそれはそれでいいんですけど。
 そう思いません? 昔の私なら絶対そう思いましたよ。

 この、ワンチャンあるんじゃね? 感が罠なんですよね。

■悲しい現実

 すっごく切ない現実で、死ぬほど言われていることですが、
 いいアイデアがあったとして、
 それをしっかり形にできるのはある程度力のある人
なんですよね。

 先行者利益的なものも時流によって当然あるとは思いますが、
 それにしたって、最低ラインの実力は必要なわけです。

 例えば自分が25年くらい前に戻って東方とかひぐらしとかfateみたいなもの作ろうとしたって、多分成功はしないと思います。
 もうちょっと手前で例えばマイクラ的なもの作ろうとしても、多分無理でしょう。自力で作れないし、これやれば流行るからと出資を募ることも多分難しい……。そういうものです。

アイデアだけ持って時を遡っても多分……

 じゃあどうすりゃいいんだ、ってなると、
 そういう一攫千金的なマインドではなく,
 地に足つけて経験積むのが、王道なんですよね。

 私は成功者が出すハウツー本読んで現実逃避するのが趣味の1つなのですが、だいたいの人は(ゲームならミニゲーム、小説なら掌編とか)規模小さいものから作って慣れていきましょう、と言っています。そんなに悪意があっての言葉ではないでしょう。
 おそらく、適性的な話なら"「経験積もう」みたいな意識なく手が動いてしまう"くらいの勢いも必要なんでしょうね。

小説家になりたい人は、自作を最後の最後まで書き切る習慣をつける必要があります。
その習慣は、長編よりも、短編のほうがつけやすい。
なぜなら、書く文章量が少ないから

最速で小説初心者をプロ作家に育てる

その戦略とは、小規模で作るということです。本業がある場合、あくまでも本業の合間で作ることができる程度のものからスタートしよう。

「自社インディーゲーム “TriniyS” リリースまでの軌跡」受託業務もこなしつつ、自社作品の開発体制を築くまで【CEDEC+KYUSHU 2021】

 斬新なアイデアを形にしようとする中で圧倒的成長を遂げることも当然あると思いますし、それがダメということはないでしょうが、そこに視野がいきすぎて浮足だってしまうのも厳しいものがあるということですね。
 その際はあまりオリジナリティを気にしたってしょうがないということだとも思います。

 わかるんです。わかるんですけど……


 うるせ~~~~~~~!!!!!!!!!!!!
 知らね~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!

 ってなる人は少なくないんじゃないかと思います。
 主催が斬新さを求めてて、誰でも歓迎って言ってるんだから、
 俺の才能を見せつけるターンだろ? って思うのを誰が責められるんでしょうか。

 だって、今応募して選ばれたら1000万の上に大注目で今後に向かってコネと知名度得られるし脱サラ(ないし退学)だって視野に入るんですよ?
 それをチマチマと習作なんか作ってられるかって話じゃないですか?

 そもそも、そんな知名度もないヤツの習作習作しい掌編を誰が見てくれるんだ? みたいな話は、時代が進めば進むほど厳しいものが出てきますからね。コンテンツは蓄積されていくのです。あえてそういうものに目を通す人というのは年々減っていると思いますし、これからもきっとそうでしょう。(それへの反応がいかに尊いか、ということは逆説的にやはり明らかなのです。圧倒的感謝
 そんな不毛で夢のない下積み、楽しくないじゃないですか。

 俺は激ウマ芸術家になりたいわけじゃなくて、
 手軽にチヤホヤされてぇんだよ……!


 って本音だって(誰も自分からは言わないにしろ)
  ある人はあるでしょう。

 この「遠回りだけど明らかに正解」なルートと
 「非現実的だけど0ではない、夢あるけど大変厳しい」ルートが
 大規模な公募の存在で発生するのです。

 これが表題の「ワナビにとって公募は希望であり毒」という話です。

(※)講談社・集英社・NHK……とそれぞれ「過去作」の提出によって地力を測ろうとしている感じなのは興味深いことなのではと思ったりします。

■募集する側の気持ちもわかるのよという話

 なんでことあるごとに「新しさ」を求めるのか……。
 それはもう、シンプルに売る側の気持ちに立って考えれば頷けるものだと思います。

 ハードルを下げるようなニュアンスを含むのも、ガチの箸にも棒にもかからないようなのを引っ掛けるリスクを背負ってでも「ちょっと自信がない隠れた実力者」を引っ張ろうと思ったらそうなるでしょうし、
 「新しい」というのは売り出す時にとにかくありがたいものなのです。
 多少一線級からレベルが落ちても目を瞑ってももらえますしね。
 高い賞金や景品も、高いレベルの人を誘引するために必要なものです。

 そんなわけで、色々擦りましたが、何にも責めたい気持ちはないのです。

 逆に、応募要項で明確な足切りがない場合、いかに過去事例とか空気とか(例えば年齢制限こそないがこの数年ずっと25歳以下しか受賞してないとか、明らかにアクションゲームを求められていそうとか)から察するものがあっても、私は夢を見ながら飛び込むので覚悟して下読みの工数確保(一瞬)しておいてください、という話でもあります(笑)

■それでもゲームは比較的地に足をつけて動けるのではと思う話

 以前自分でも書いたのですが、ゲームは比較的地に足をつけて成長できるジャンルだと思います。

「何かを生みたいが生み出す能力がない」人間にとって、ゲーム制作が優れたフォーマットである

意識低い系クリエイター志望が"何か"を完成させたいならゲームがいいと思うという話

 ゲーム制作には「制約」があります。さらにそれを自覚しやすい。
 「自分にある手札の中で何かを生み出そう」という思考にすんなり入ることが(私は)できます。
 「手札」が増えることも一定程度までは自覚的でいられます。これそのものがゲームっぽい感覚で楽しいですよね。
 
 もちろん、そういう形で作るものはいわゆる「習作的で小規模なゲーム」となってしまい、明らかに「新しいもの」ではなく、一攫千金を狙うようなものにはなりづらいのですが……反応だって、結構頂ける類だと思います。

 例えば、私が初めてコミケに出た時の同人誌の売上は5部未満でしたが、
 直近リリースしたフリーゲームは9000ダウンロードレビューだって2桁いただけています。

 これが小説や漫画や演技だったら、こうはいかなかっただろうな~と思っています。暖かいですねぇ。本当に感謝です。

 結局のところ、ワナビマインド(主語大きいかも)で一番つらいのは、地道な成長ルートを選んだ時に孤独なことなわけです。
 だから、一攫千金を夢見て超斬新な大作を夢見るのです。
 逆に言えば、反応頂けるとちゃんと一歩一歩成長していけるものなのかな、と。

 その辺も含めて、ゲームは地に足つけてやっていけるアウトプットなのかな~と思うんですよね。

■それでも私は夢を見る

 とかなんとか偉そうに言いましたが、私もこういう公募企画見る度にうお~ってなって超斬新な企画を考えます。自分で実現できそうなラインで。
 実際過去数回応募しています(笑)
 
 また、公募企画関係なくちょっと浮足だった大作を構想したりも……しますよね!!!!

 そんな無理筋狙うより、ミニゲーム作って地力上げろおじさん、掌編作ってろオジサン、中二から数学やりなおせオジサンが脳内でうるさくわめきますが……


 うるせ~~~~!!!!!
 しらね~~~~~~!!!!!!

 だって、大金、知名度、コネクション……ワンチャンあれば、
 欲しいですもの!!!

 毒おいし~~~。夢ある~~~。うひょ~~~。

■おわりに

 「斬新さのあるもので超成功できる」
 という夢で、人がどれだけ毒されるか実演しながら書く……みたいな記事となっていたでしょうか。

 なっていたならよかったです。

 個人制作のゲームも、自分が作るようになってから色々触るようになりましたが、結局「斬新だなぁ」と思うゲームって、制作者の地力も九分九厘高かったです。
 自分と大差ない実装力・文章力っぽいけどとにかく面白くて斬新だ~~みたいなものってほとんどないんですよね。ガチの処女作で超名作! みたいなのも悲しいですけどあんまりないです。(0ではないと思うんですけど……)

 最近こういう夢を見させてくれる企画が多くて、ちょっと体に毒が溜まったので抜かせていただきました。
 でも本当に、夢を見させていただけるのはありがたいことですね。

夢と言えばアイドル!(とても自然なサブリミナル)

 「最低でも自分たちが満足」という初心のハードルを忘れず、ワンチャンスをつかむ夢を動力に、地に足つけて出来ることをやる、出来ることを増やす、そういう成長ができるよう駆動をしていく……その末に栄光を掴みたい……そんな、ハイブリッドな夢に昇華しつつ、日々を過ごさせていただきたいと思います。
 私の場合は、職にありつく(あぶれない)ための実績作りという部分も初心の1つなので、首元寒い時こそプライベートな時間でも頑張りたいものですね。


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