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本当は作るのをやめようと思ってた。

ひょんなことから開催した《作ルンです会》。

作ルンです会は、色々な材料をお客さん自ら選んで組み合わせてデザインしたものをピアスやイヤリングとして形にするセミオーダー会のこと。
以前、写ルンです会という撮影交流会を開催したこともあって、その流れとノリと勢いで名前をつけた。

名前だけでなく開催自体も勢いだった。
でも、私にとっては今後の暮らしの一部を捨てるか捨てないかの大きな転機になったから、今回はそのことを残しておこうと思う。

突然の開催

ピラティスでお世話になっている石神華英さんに「アクセサリーのセミオーダー会をやりたいんですよね」と身体を整えながらなんとなく呟いた。華英さんのスタジオでは、自分が製作したアクセサリーも委託販売していたし、思ったことは何でも言える人だったから、本当にポロッと呟いたのだ。
すると、華英さんは目をキラキラさせながら「やろうよ!」とそして二言目に「いつやる?」と言いながらスマホのカレンダーアプリを開いた。それにつられて自分もアプリを開いた。

「直近で、6月18日が空いています」

気持ち的な余裕は視野に入れず、時間的な余裕だけでその日を示す。

「うちも空いてるから、ここでしなよ」

華英さんは相変わらずキラキラした目で、スタジオを開催地として提案してくれた。

「じゃあ、その日でよろしくお願いします」

何の準備も細かな企画も考えていない。
この日は5月30日。既に1か月を切っていた。

大丈夫かな、できるかな、という不安が過ぎらなかったわけではない。でも、これまで地域の中で活動する中で「迷ったらやる方を選ぶ」ことを判断基準にしていた私。

ほぼ勢いで頭を下げた。

時間も場所も決まったのなら、あとは企画を固めて当日の準備を目指す。
材料は腐りそうなほどあったから、買い足しは問題なし。
企画作成に時間を費やすことにした。
……と言っても、企画を華英さんに提出したのは翌日だった。

やろうかと二人で決めて家に帰った後、ドキドキとワクワクで心臓がドクドクの激しく脈打つままにその夜に企画を考えた。

自分のトキメク“好き”と向き合う時間、作れていますか?
目の前に広げられたモノを選ぶだけ。
でも、どうして自分はそれを選んでいるのか?
自分は何にトキメいているのか?
自分がトキメク物を見つけて形にしてみませんか?

企画に込めたメッセージ。
案外、自分と向き合う時間は後回しにしがちのように思う。
なんとなく、好き。だけど、本当に自分が好きなものが分からないこともある。
自分が手に取ろうと思ったのはなぜなのか。
そこから自分の好きと向き合えないか?
ママになると、より自分のことは後回しになる。
だから、せめてこの時間だけでも自分の好きと向き合える時間であってほしい。
そんな思いを込めて、開催することにした。

好きと向き合う時間

2022年6月18日。14時から16時の2時間の開催。
短いからとあまり大きくは宣伝しなかったけど、誰も来なかったらどうしようと少しビクビクしていた。

でも、そんな不安は直ぐになくなる。
一緒にラジオをやっている奈緒ちゃんが友達を連れて来てくれた。
目をキラキラさせながら、「楽しみにしてました!」という言葉を聞いて素直に嬉しくなった。

料金説明を手短に終わらせて、目の前に差し出した材料を自由に取って組み立てるよう促す。最初は遠慮したり、どうすればいいか分からなかったり。「こういうのは作れるか?」「これを使うとしたらどういうのが作れるか?」質問しながら、目の前の二人はせっせと頭の中のデザインを手許に伝わせた。

途中から華英さんと華英さんの三女も加わる。

三女が一番早くデザインを固め、直ぐに形にした。嬉しそうにイヤリングを耳につけている姿を見て、胸元でパチパチと弾ける心地がした。

あーでもない、こーでもない。

悩む中で零れた「私はセンスがないから」。
その言葉を聞いて咄嗟に「センスがあるかないかじゃなくて、自分の好きなものを組み合わせるだけでいい」と言った。
本当にそれだけでいいじゃないと思ったから。

作っているときは不安そうな顔が多かった。
でも、これでいくと決めて、自分が実際にパーツを繋げていったりレジンを流し込んで固めていったりしてピアスやイヤリングができると、「ああ、本当に作ってよかった」って思うくらい、みんな嬉しそうな顔をしてくれた。

スタジオだから大きな鏡が直ぐあって。
完成したものを渡すと直ぐに鏡に駆け寄ってつけてみる。
みんなで可愛いって言い合った。

その日は次の予定があって、あまり余韻に浸れなかったけどみんながInstagramで感想を伝えてくれた。
リールを作って載せてくれたり、ストーリーズにあげてくれたり。
みんなで余韻を共有できているようで嬉しかった。

みんなの感想は本当に全部嬉しかったけど、今でも華英さんの言葉が忘れられない。

「今、ちょうど自分の好きなものが分からなくて悩んでいたから、本当に参加してよかった。またやってほしい」

自分の企画で誰かの悩みがほんの少しでも救われたのなら、この企画は大成功なんじゃないかなと思う。

参加してくれたみんなが共感して楽しんでくれたからこそあっという間に終わった作ルンです会になった。

本当は捨てようと思っていた

企画に込めたメッセージは良さげなものになっているけど、本当に一番最初の動機はまた別にあった。
本当の動機は「アクセサリー製作を手放すためのお別れ会をしたい」だった。つまり、アクセサリーを作るために集めてきた材料も道具も捨てようと思っていたのだ。

高校一年生のときから今までずっと趣味として続けていて、年々経つにつれお小遣い程度ではあるが収入を得られるようにもなってきた。
10年弱寄り添ってきた趣味。それを手放そうと本当は思っていた。

理由は、自分が作り続けている意味が分からなくなったから。

最初は好きで、自分がいいと思うものを作るだけだった。作っているのをみてほしいから売ってくれと言ってくれる人が現れて、次第に人に売るためのデザインを考えながら作ることが増えた。
人が喜んでくれることは嬉しかったし、お金と交換できる価値を作れているのも自信になったけど、なにより買った後も、自分の気分を上げてくれるアクセサリーとして使ってくれていることが作るモチベーションになっていた。

でも、いつからか、アクセサリーを作ることが私の中でお小遣い稼ぎの手段になっていた。
今月はお金がほしいから、オーダーを受け付けようとか委託販売に力を入れようとか。
そういう動機でアクセサリーを作っている自分に辟易し始めたんだと思う。

ビジネスにすることは悪いことではないと思うし、今でもハンドメイドアクセサリー作家さんから買うピアスが大好きだ。
ただ、自分のスタイルが嫌だった。
それから、アクセサリーを作るたびに「本当に私がやりたいことは小説を書くことなのに、今これに時間を費やしてもいいんだろうか」と夢を蔑ろにしている気がして自分自身に引け目を感じていた。

だんだんそう考えている時間も嫌になってきて、アクセサリーを作ることが嫌になったわけではないけど、売る時ばかり道具を引っ張り出すくらいなら、思い切って手放した方がいいんじゃないかと思えてきた。

でも、材料も道具もスチールラック3段分使うほどの量があったから、このまま捨てるのはもったいないと思って、セミオーダー会をしようと考えた。

好きだからが理由でいい

捨てようと思って始めたセミオーダー会。
でも、やってみてやっぱり自分はアクセサリーを作ることが好きだし、嫌いという感情は全くないってことをちゃんと感じた。
それから、私は作って売るのが好きだったわけじゃなくて、最初は自分が好きだと思うものを作るのが好きだったんだと思い出した。

意味を見出してばかりの暮らし方を知らない間にしていた気がする。どうせやるならお金にしなければと生産性の観点から見た有意義な時間ばかりに囚われていたように思う。

それに違和感を感じているままでは、懐が豊かになったとしても心が豊かにならないのも納得できる。まず心が豊かになることをして、そのうえで懐も豊かになれば、なおよし。心が豊かになるのことが大前提でそれを無視して突き進んでいたからしんどくなっていた。

ああ、この時間が好きだなあ。
この時間の自分が好きだなあ。

やる理由、やり続ける理由はそれだけでいいじゃない。

捨てようとまとめていた道具はスッキリと棚に収まった。
また好きに作りたくなったら引っ張り出そう。
――と思っていたら、どこにも宣伝していないのにオーダーが入った。

好きな気持ちはいろんな形で伝染していくようだ。

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