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人類史上初の人口減社会を迎える日本と生産性のお話 [経済政策をわかりやすく:01]

 ニュース等でも話題に上がりますが、これから日本は、人類史上はじめて迎える人口減社会へと先陣を切ってゆきます。どのくらいへるのかというと、2050年には全人口が1億人を切り、2100年までには、人口が100年前の水準に戻ると推計されています。

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「人口減少の見通しとその影響」平成27年版 厚生労働白書

 厚生労働省から毎年発表される合計特殊出生率は、19年度は1.36と12年ぶりの低水準ということで話題となりましたが、少子化問題を解決すれば人口減社会は回避できるのかというとそれはありません。
 なぜならば、今年の出生率が人口動態に影響をあたえるのは、今年生まれた子ども達が、これから彼らの平均寿命をまっとうする間、つまり今年から平均寿命である80~90年後の未来までだからです。そう考えると、現在の人口減は、合計特殊出生率が2.0を割ってしまった1970年代からのトレンドとして既に確定している未来であり、つまりどう転んでも不可避だという事が分かります。

 そして、日本のこの人口減には、高齢化率の上昇という要素も加わっています。それは何を意味しているかというと、労働力人口(15歳以上で労働する「能力と意思を持つ」人の数)の減少です。

人口減の状態でどう社会システムを整えるかが課題

 現在の日本の社会インフラを含む社会システムの多くは、人口増による労働力人口率の維持を前提として作られており、しばしば話題になる年金システムの崩壊(賦課方式の限界)などは、人口増期待の社会設計に対して人口減少社会がどう対応するのか、という課題の代表例です。

 もちろん社会システム自体を効率化していくことも重要ですが、そのスピード以上に、この減りゆく労働力人口で社会システムを支えることが必要です。現在、日本のGDP(国内総生産、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値)は世界で第3位なのですが、これは1億人以上という人口によって下支えされています。労働力人口が減りゆく中では、このGDPをある程度維持して(本来なら成長させて)いくことが社会システムの維持に繋がることが容易に推察できます。

 ちなみに、GDPは経済成長を前提とした視点ですが、成長一辺倒でない側面から変革しようという視点もあり、それがSDGs(持続可能な開発目標)などの切り口で、世界各国で議論され取り組まれています。

 さて、GDPの維持のお話に戻りますが、減りゆく労働力人口でこれを達成していくにはどうしたらよいのでしょうか。それが、「働き方改革」や「最低賃金増」などの施策と同列で語られることの多い、「生産性の向上」です。

 労働生産性は、産み出す付加価値を投入した労働力(≓労働投入量≓[就業者数×労働時間])で割って算出されます。極論をいうと、労働力人口が半分になっても、労働生産性が2倍になれば、最終的に産み出す付加価値の量は変わりません。また、労働力人口を維持できなくても、労働生産性を向上できれば、GDPを変わらず維持できる、ということになります。

 ところで、そんな労働生産性ですが、昨今、国際比較で語られる日本の労働生産性や給与のランキングにおける日本の存在感の低下はなかなか耳の痛い話です。日本生産性本部の『労働生産性の国際比較2019』によると、OECD加盟国36カ国内での日本の一人あたりの労働生産性は21位、主要7ヶ国では最下位と低迷しています。

 世界の中でもっとも存在感を示していたバブル期でも最高14位ですので、元来日本は生産性を上げることが苦手で、人口増による人口ボーナスで経済が潤ってきた国と考えても良いのかも知れません。

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「労働生産性の国際比較2019」日本生産性本部

 また、日本では給与も上がっていません。OECDの算出した値を元に全労連が算出した『実質賃金指数の推移の国際比較(1997年=100)』を確認すると、日本人の賃金上昇率は低いどころか、マイナス成長となってしまっています。

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「実質賃金の国際比較」全労連


 これは当然と言えば当然で、一人あたりの労働生産性は産み出す付加価値ですから、高い付加価値を生み出す人材=投資(給与)価値が高い人材、そうでないのであれば見合った賃金に、という事となるためです。この問題は、近年、鶏が先か卵が先かという視点で、最低賃金を継続的に上げてゆく事で企業の生労働産性を上げる事が出来る、という論もあります。賃金が上げることで高スキル人材を雇用することが出来、その結果、生産性が向上する、というロジックです。いずれにしても、人口減少社会を向き合ってゆかねばならない日本人にとって、大きな課題と言えるのではないかと思います。

 では、企業の生産性を向上させるにはどうしたらよいのでしょうか。管理的な視点から考えると、業務効率化を行うことで生産性を上げる、というのが真っ先に思いつきます。労働生産性は「付加価値÷労働投入量」ですので、この場合は投入する分母の労働力の部分を小さくする切り口(=投入量を何かでアシスト)となります。「ITを使って業務効率化」などが、これにあたります。そして、もう一方の切り口が、分子を大きくしてゆきましょう(=能力アップ)、ということになる訳です。分子の部分を最大化するためには、同じ労働投入量からより多くの成果をだす必要があり、こちらは人材の高スキル化(同じ時間で生み出せる価値を増やすことが可能となる)や、老朽化した設備に投資をして稼働効率を上げる事で可能となります。副次的には、業務効率化によって産み出された時間を別の生産性に寄与する業務に投入することによる分母の増大という効果もあります。


※この記事は私が以前に「コクヨ 経営ノウハウの泉 powerd by 総務の森」に寄稿した記事のアレンジ版です。(掲載元さま↓の許諾範囲内でのアレンジをしております。)

※TOP画像:Photo by Jezael Melgoza

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