Thomas Lyndon

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記事一覧

川柳

二年前につくった人生初(たぶん)の川柳です。お嗤いください<(_ _)>  盂蘭盆会 与一も 茄子の馬にのり  *字足らず

Thomas Lyndon
8日前
10

一月にみた不思議な夢(再掲)

 五日ほど前に見た夢である。今までにない形態の夢だった。  夕方か夜の暗いなか、電車で財布を置き忘れた。しかたなく銀行で預金を三万円ほどおろし、クリーム色の綿製…

Thomas Lyndon
11日前
7

麗子のことなど(1) -再掲-

某氏の「玲子」という女性にまつわる連詩に触発され、同名の女性を追憶した残滓である。  大学一年生の夏、文芸部に入部した。  一ヶ月前に新築の建物に移転したものの…

Thomas Lyndon
11日前
5

夏がくれば思い出す

 夏がくれば思い出す。夏休みの宿題の読書感想文  何を書けば善いのか未だに理解できない。  文芸評論ともまったく違い、後年、高校生読書感想文最優秀作品なんかを新聞…

Thomas Lyndon
13日前
12

初夏ものがたり

『人は暗いところでは天使に会わない』  山尾悠子「アンヌンツィアツィオーネ」より    山尾悠子著「初夏ものがたり」を読む。特に第一話「オリーブ・トーマス」が好み…

Thomas Lyndon
13日前
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盂蘭盆会二題(その2)ーはるか地蔵盆のまえに #詩のようなものになりたかったもの

オレが憎むのは 夜ふけに歌いだす蝉のゴスペル 蛍光灯のチック症に 蛾のフラダンス それに 汗で生乾きの肌着 奪衣婆が のぞまぬものばかり オレの生皮が重すぎて …

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1か月前
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盂蘭盆会二題(その1)ー真夏の訪れ #詩のようなもの

群盗は 山野を侵し 径を灼き尽くし 百日紅を咲かせた それは真夏の訪れの日 乙女の長髪をみだした熱風を はこび 彼女の汗ばんだ肌色を 想いおこさせる また 凍て…

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1か月前
11

こりゃあかんわ

 近頃SNSで弥助のことが盛んに話題となっている。  弥助とは、16世紀後半イエスズ会宣教師ヴァリニャーノが帯同して来日したアフリカ出身者で、織田信長に仕えること…

Thomas Lyndon
1か月前
6

玻璃の祭日 #詩のようなもの

つまるところ 玻璃のきらめきと 詰まるような真空でできていた 陰は濃くて たゆげに騒ぎ立ち 木の間隠れする国津神たちは むつ言をかわしあう これは アーニャおばさ…

Thomas Lyndon
1か月前
7

反 歌  ータタール人の砂漠を読みはじめてー #詩のようなもの

『そう、もう手遅れです。私たちはこんなふうになってしまって、もう決してもとにもどることができないのです、とでも言うように』  「タタール人の砂漠」より ”手遅…

Thomas Lyndon
1か月前
13

麗子のことなど (3)

 麗子と邂逅したこの日、仕事を終えて会社の通用門を出るとすでに午後十一時をまわっていた。プライベートのスマートホンをきぜわげに起動すると、麗子からのショートメッ…

Thomas Lyndon
2か月前
10

重くて黒いランドセル #詩のようなもの

重くて黒い ランドセル つまっているのは 連絡帳 ノートに 宇宙遊泳の手引書 式神を召喚するマニュアルと 焼きそばパンに Python逆引き辞典 もういっぱいで 入り…

Thomas Lyndon
2か月前
11

ー街にでてー #詩のようなもの

この四月五月は あめ降りばかり 二月三月は 雪と嵐ばかり だから 暴風雨の予報を 信じ 信じたふりして 雑踏にまぎれ込み 百貨店の花崗岩に 耳をよせ アンモナイトの…

Thomas Lyndon
2か月前
19

三島由紀夫の恩賜の時計について

 三島由紀夫は、1944(昭和19)年、学習院高等科を卒業するにあたり「恩賜の時計」を拝受した。「恩賜の時計」は、陸軍士官学校、陸軍大学校、海軍兵学校、海軍大学…

Thomas Lyndon
2か月前
30

三島由紀夫 恩賜の銀時計

三島由紀夫 学習院高等科卒業時

Thomas Lyndon
2か月前
8

美 少 女 #詩のようなもの

あさ黒いひたいを 汗ばませ 襟元に 時季おくれの枯れかけた つつじを 一花さし 息をととのえ 少女は首をあげ しらじら明けの海原へ 船出する ひとり舳先に たつ 負…

Thomas Lyndon
3か月前
8

川柳

二年前につくった人生初(たぶん)の川柳です。お嗤いください<(_ _)>  盂蘭盆会 与一も 茄子の馬にのり  *字足らず

一月にみた不思議な夢(再掲)

 五日ほど前に見た夢である。今までにない形態の夢だった。  夕方か夜の暗いなか、電車で財布を置き忘れた。しかたなく銀行で預金を三万円ほどおろし、クリーム色の綿製の袋に入れておいたのだが、これも座席に置き忘れてしまった。深緑色の、京阪電車普通車両の座席のような色の上に、クリーム色の袋が三角型の形でおかれている情景が目の底に残っている。  駅に紛失を届けようと最寄りの駅で下車するのだが、路線名が分からない、また降りた駅名もプラットホームに掲出されていない。行き先の駅名は書いてあ

麗子のことなど(1) -再掲-

某氏の「玲子」という女性にまつわる連詩に触発され、同名の女性を追憶した残滓である。  大学一年生の夏、文芸部に入部した。  一ヶ月前に新築の建物に移転したものの、部屋は建材見本のように真新しいはずだった壁はすでに汚れ、黒鉛筆と赤インクで落書きされていた。かつての部室から運んだものらしい木造の傷だらけの歪んだ長机、まともに座れそうにもない椅子が散らばっていた。ページが開かれたまま、あるいは表紙がちぎり取られた雑誌が、あちこちに崩れかけた堆積になっている。まるで遺跡発掘直後の散

夏がくれば思い出す

 夏がくれば思い出す。夏休みの宿題の読書感想文  何を書けば善いのか未だに理解できない。  文芸評論ともまったく違い、後年、高校生読書感想文最優秀作品なんかを新聞で読んでも、『それでどうなの? その読み方、理解しかないの?』としか思わなかった。    小学生高学年では課題図書の指定がなかったので、海外SF小説を題材にした。感想は『それなりに面白かった』程度の感想しかなくて、指定原稿枚数を充たすため、やたら粗筋だけを書いた記憶がある。  最悪だったのは、中学三年生かに図書指定

初夏ものがたり

『人は暗いところでは天使に会わない』  山尾悠子「アンヌンツィアツィオーネ」より    山尾悠子著「初夏ものがたり」を読む。特に第一話「オリーブ・トーマス」が好みである。イラストも題名にふさわしく素晴らしい。    これは彼女の初期作品で、みずみずしく爽やかな小作品である。と同時に、現在の作品につながる特徴が既に多くあらわれている。  近年の作品のような難解めいた文体ではなく、そのためか却って第一話から深読みしすぎていた。率直に愉しめばいいのだ、と第三話あたりから気づいた。

盂蘭盆会二題(その2)ーはるか地蔵盆のまえに #詩のようなものになりたかったもの

オレが憎むのは 夜ふけに歌いだす蝉のゴスペル 蛍光灯のチック症に 蛾のフラダンス それに 汗で生乾きの肌着 奪衣婆が のぞまぬものばかり オレの生皮が重すぎて 衣領樹が 折れはてた と怒る懸衣翁の愚痴をきいても うすら笑うだけ オレの罪業のは深すぎて お釈迦さまでも閻魔さまでも 深海探査艇でも 気がつくめえ 自分では 大天使ミカエルよりも清らかだと言いふらしてるが だれ一人きく耳もってねえ お地蔵さんに ベル薔薇(新品種です)を手向けても なんにもなりゃしねえって 

盂蘭盆会二題(その1)ー真夏の訪れ #詩のようなもの

群盗は 山野を侵し 径を灼き尽くし 百日紅を咲かせた それは真夏の訪れの日 乙女の長髪をみだした熱風を はこび 彼女の汗ばんだ肌色を 想いおこさせる また 凍てつく魂までも 奪いつくした すべてが熟れはてる 盂蘭盆会は まだとおい

こりゃあかんわ

 近頃SNSで弥助のことが盛んに話題となっている。  弥助とは、16世紀後半イエスズ会宣教師ヴァリニャーノが帯同して来日したアフリカ出身者で、織田信長に仕えることになった人物である(わざと曖昧な表現にしています)。  弥助の織田家中での身分をはじめとして、X(旧Twitter)上などで著名な歴史家を巻き込んだ騒がしい論争が発生した。X上の論争恒例のとおり、不毛な罵倒や誹謗中傷合戦に陥りかけている。  弥助に関する文献資料は数少なく、『信長公記』と宣教師によるイエスズ会への

玻璃の祭日 #詩のようなもの

つまるところ 玻璃のきらめきと 詰まるような真空でできていた 陰は濃くて たゆげに騒ぎ立ち 木の間隠れする国津神たちは むつ言をかわしあう これは アーニャおばさんの せんだく日のにおい ただ もの悲しいばかり 永い梅雨の 晴れ間の昼さがり 白いちぎれ雲から きららかな静謐が降りそそぐ 仮装したま夏 深海のホオジロザメが 流星群の定理にふれたようなもの 遠いむかし 涼しい窓ごしに みあげた北山に みつけた奇蹟の予兆

反 歌  ータタール人の砂漠を読みはじめてー #詩のようなもの

『そう、もう手遅れです。私たちはこんなふうになってしまって、もう決してもとにもどることができないのです、とでも言うように』  「タタール人の砂漠」より ”手遅れ” なものか! シェークスピア劇中の亡霊の たわごとだ! やがて やがて 北の砂漠 みどりもない 霧におおわれた おぼろげな彼方から 国ざかいの向こうから 未踏の地から 刀槍を魚群のウロコのように輝かし 馬や駱駝を 五色に飾り立て 旗指物を林立させた タタール人の戦士たちが 喇叭も高らかに 疾駆してくる …

麗子のことなど (3)

 麗子と邂逅したこの日、仕事を終えて会社の通用門を出るとすでに午後十一時をまわっていた。プライベートのスマートホンをきぜわげに起動すると、麗子からのショートメッセージが何件も届いている。  その大まかな内容は、”Signal”というメッセンジャー・アプリの利用をうながし、このアプリで連絡を取り合うという指示で始まり、返信の再三の催促だった。  わたしは、通用門脇の乏しい街灯の明かりのもとで、”Signal”アプリをダウンロード、インストールして、さっそく返信した。くだくだと

重くて黒いランドセル #詩のようなもの

重くて黒い ランドセル つまっているのは 連絡帳 ノートに 宇宙遊泳の手引書 式神を召喚するマニュアルと 焼きそばパンに Python逆引き辞典 もういっぱいで 入りそうにない あと 練習帳に筆ばこと チョコレート・クッキー NATO欧文通話表 それと おもちゃ はいればいいのに 月曜のあさ パステル色のクレヨンがまぶしい 今朝できたての 水たまり 黄色い雨くつで むちゃくちゃにかきまわし 郭公鳥の横断歩道に 雨がさを放りだす  電話から伸びる果てしないコードの

ー街にでてー #詩のようなもの

この四月五月は あめ降りばかり 二月三月は 雪と嵐ばかり だから 暴風雨の予報を 信じ 信じたふりして 雑踏にまぎれ込み 百貨店の花崗岩に 耳をよせ アンモナイトの 永い寂寥と小さな夢想を ききだそう  三葉虫に 太古の秘密を 打ち明けさせよう   よしなさい むだなこと   きこえるのは 酔いどれディオニソスの ばか笑いだけ   その花束を 家にかざりなさい   ライラックよ あなたに お似合い   きっと いいことがある 花売りむすめに化けた アッティカのデーメー

三島由紀夫の恩賜の時計について

 三島由紀夫は、1944(昭和19)年、学習院高等科を卒業するにあたり「恩賜の時計」を拝受した。「恩賜の時計」は、陸軍士官学校、陸軍大学校、海軍兵学校、海軍大学校、学習院等官立学校の最優秀卒業者1名乃至数名に記念品が天皇から下賜される制度あるいは慣行である(慣行と表現したのは、直接の根拠法令を知らないからである)。  彼の前半生における大きな誉れの一つであり、半自伝”的”小説「仮面の告白」のなかでも、学習院院長である海軍大将と車に同乗して宮中にお礼言上に行く場面が書かれてい

三島由紀夫 恩賜の銀時計

三島由紀夫 学習院高等科卒業時

美 少 女 #詩のようなもの

あさ黒いひたいを 汗ばませ 襟元に 時季おくれの枯れかけた つつじを 一花さし 息をととのえ 少女は首をあげ しらじら明けの海原へ 船出する ひとり舳先に たつ 負け軍を知らない ミネルヴァのように