Thomas Lyndon

Thomas Lyndon

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

MIMMIのサーガあるいは年代記

1/n              承 前 「全宇宙の高貴にして偉大なる支配者かつ全知全能の神に等しきMIMMI皇帝! 皇帝陛下にとこしえの栄えあれ!」  まずはこの物語を始める前に、宇宙一邪悪で狡猾、残忍と言われるMIMMI皇帝の姿について語らねばなるまい。ミンミ皇帝は壮年のたくましい男性として描かれ帝国内に流布されているが、真実は分からない。  クリンゴン星の荒野に潜む隠者は、本当は電脳の集合体でバーチャルな存在だが統治の便宜上、ホログラムであのような姿を創出して

    • 玻璃の祭日 #詩のようなもの

      つまるところ 玻璃のきらめきと 詰まるような真空でできていた 陰は濃くて たゆげに騒ぎ立ち 木の間隠れする国津神たちは むつ言をかわしあう これは アーニャおばさんの せんだく日のにおい ただ もの悲しいばかり 永い梅雨の 晴れ間の昼さがり 白いちぎれ雲から きららかな静謐が降りそそぐ 仮装したま夏 深海のホオジロザメが 流星群の定理にふれたようなもの 遠いむかし 涼しい窓ごしに みあげた北山に みつけた奇蹟の予兆

      • 反 歌  ータタール人の砂漠を読みはじめてー #詩のようなもの

        『そう、もう手遅れです。私たちはこんなふうになってしまって、もう決してもとにもどることができないのです、とでも言うように』  「タタール人の砂漠」より ”手遅れ” なものか! シェークスピア劇中の亡霊の たわごとだ! やがて やがて 北の砂漠 みどりもない 霧におおわれた おぼろげな彼方から 国ざかいの向こうから 未踏の地から 刀槍を魚群のウロコのように輝かし 馬や駱駝を 五色に飾り立て 旗指物を林立させた タタール人の戦士たちが 喇叭も高らかに 疾駆してくる …

        • 麗子のことなど (3)

           麗子と邂逅したこの日、仕事を終えて会社の通用門を出るとすでに午後十一時をまわっていた。プライベートのスマートホンをきぜわげに起動すると、麗子からのショートメッセージが何件も届いている。  その大まかな内容は、”Signal”というメッセンジャー・アプリの利用をうながし、このアプリで連絡を取り合うという指示で始まり、返信の再三の催促だった。  わたしは、通用門脇の乏しい街灯の明かりのもとで、”Signal”アプリをダウンロード、インストールして、さっそく返信した。くだくだと

        • 固定された記事

        MIMMIのサーガあるいは年代記

        マガジン

        • MIMMIのサーガあるいは年代記
          6本

        記事

          重くて黒いランドセル #詩のようなもの

          重くて黒い ランドセル つまっているのは 連絡帳 ノートに 宇宙遊泳の手引書 式神を召喚するマニュアルと 焼きそばパンに Python逆引き辞典 もういっぱいで 入りそうにない あと 練習帳に筆ばこと チョコレート・クッキー NATO欧文通話表 それと おもちゃ はいればいいのに 月曜のあさ パステル色のクレヨンがまぶしい 今朝できたての 水たまり 黄色い雨くつで むちゃくちゃにかきまわし 郭公鳥の横断歩道に 雨がさを放りだす  電話から伸びる果てしないコードの

          重くて黒いランドセル #詩のようなもの

          ー街にでてー #詩のようなもの

          この四月五月は あめ降りばかり 二月三月は 雪と嵐ばかり だから 暴風雨の予報を 信じ 信じたふりして 雑踏にまぎれ込み 百貨店の花崗岩に 耳をよせ アンモナイトの 永い寂寥と小さな夢想を ききだそう  三葉虫に 太古の秘密を 打ち明けさせよう   よしなさい むだなこと   きこえるのは 酔いどれディオニソスの ばか笑いだけ   その花束を 家にかざりなさい   ライラックよ あなたに お似合い   きっと いいことがある 花売りむすめに化けた アッティカのデーメー

          ー街にでてー #詩のようなもの

          三島由紀夫の恩賜の時計について

           三島由紀夫は、1944(昭和19)年、学習院高等科を卒業するにあたり「恩賜の時計」を拝受した。「恩賜の時計」は、陸軍士官学校、陸軍大学校、海軍兵学校、海軍大学校、学習院等官立学校の最優秀卒業者1名乃至数名に記念品が天皇から下賜される制度あるいは慣行である(慣行と表現したのは、直接の根拠法令を知らないからである)。  彼の前半生における大きな誉れの一つであり、半自伝”的”小説「仮面の告白」のなかでも、学習院院長である海軍大将と車に同乗して宮中にお礼言上に行く場面が書かれてい

          三島由紀夫の恩賜の時計について

          三島由紀夫 恩賜の銀時計

          三島由紀夫 学習院高等科卒業時

          三島由紀夫 恩賜の銀時計

          美 少 女 #詩のようなもの

          あさ黒いひたいを 汗ばませ 襟元に 時季おくれの枯れかけた つつじを 一花さし 息をととのえ 少女は首をあげ しらじら明けの海原へ 船出する ひとり舳先に たつ 負け軍を知らない ミネルヴァのように

          美 少 女 #詩のようなもの

          ……のようなもの |#詩のようなもの

          恋のようなもの 純愛のようなもの 悲恋のようなもの 彼女のようなもの 詩のようなもの 真実のようなものと 嘘のようなもの 純粋数学のようなものと 社会学のようなもの ようなもの ようなもの 幼いころ 若い母は 擬態について 絵本を開いておしえてくれた さらに幼いころ 若い祖母は 昆虫の迷彩について カマキリの頭を 引きちぎりながらおしえてくれた だけど だれ一人 定義については語ってくれず 定義のようなものも 知らなかった ふな酔いにたえる方法や馬をつなぐ方

          ……のようなもの |#詩のようなもの

          ーもうひとつの かた想いー #詩のようなもの

          シチリアで 川魚をすなどる 少年たちが 南風にさらわれ 海をわたったという とおいとおい東方の都からきた 黒髪の商人のおさは 耳元でささやく 楼蘭へ と 黄金の熱いあついタクラマカンを うねうねと渡り 緑にさわさわと風がそよぐ 楼蘭をたずねるように とおくとおくの 崑崙の山やまを巡る星たちを追い 槎を漕ぎつづけようとするように    渇いたそらに 雲鳥はなく    振り返っても 草木はみえるはずもない    ともに旅だった 同胞たちは もうまみえることもない たど

          ーもうひとつの かた想いー #詩のようなもの

          ーある詩人によせてー #詩のようなもの

          砂ぼこりをいただいた山査子も やぶがらしの生け垣も いけどもいけども見あたらなくて アンドロメダ星雲は 道脇のフェンダーミラーの輝きに取りこめられ 黄色い園児たちが 横断歩道を渡りながら けたたましくあざける 気の良いおかみさんは 小春日和のひなたから ひょっこり顔をのぞかせることもなく バッカスは 竪琴を投げ出して 邪悪な陰謀をえんえんと語り 良寛さんは 耄碌頭巾で茶髪あたまをかくし にんまりとほほえみつづけ いっぱいになったポケットから 小切手帳を探

          ーある詩人によせてー #詩のようなもの

          当選しちゃいました😁

          note10周年キャンペーン100ポイントがあたりました くじ運がとっても悪いわたしですが、このキャンペーンに当選しちゃいました。 ポイント数なんかよる、当たったことがとても嬉しいです。

          当選しちゃいました😁

          Microsoft社様Copilotで遊んでみました

           久しぶりに、意地悪い質問をなげかけて遊んでみた。  質問は、本日のニュースヘッドラインを飾った岡口裁判官の裁判官弾劾裁判についてである。各ニュースでは裁判長の名前は報道されているが、裁判員の名前が公表されていない。裁判員の名前を知りたくてCopilotに質問してみた。  回答は、NHKニュースをソースにして、弾劾にいたる経過等を説明するだけだった。  具体的な名前を求めると、公表されていない、との回答だった。  そこで、裁判官弾劾法(昭和二十二年法律第百三十七号)の規定に

          Microsoft社様Copilotで遊んでみました

          春 寒 の 水 仙

           祖父の家の夢である。  居間で祖父を囲んで、親族がなにごとか話し合っている。祖父は若々しい顔だった。わたしは彼らの傍らを通り過ぎ、次の間に移った。そこはそれまで全く知らない部屋で、あることを聞いたことがない。  埃があつく積もり、手が触れれば手を、上着の裾が触れれば裾を汚す室内だった。履いていたスリッパと靴下は埃まみれになっていたから、半ば諦めて歩を進めた。  窓硝子は、ほぼA2サイズの大きさの窓枠に護られて、下の把手でロックを外し押すと、窓が上へ四十五度ばかり動いて開く

          春 寒 の 水 仙

          MIMMIのサーガあるいは年代記 ―70―

          70/n          第 五 章       ー 紫水晶の朝(3) ー 「お嬢さま! ご無事でしたか。あとはこの天野にまかせてください」チグハグな装いをした天野が、小走りに寄ってきます。 「Fuuuuck! 来るな、裏切り者! 何をたくらんでる。奴らに売り渡すつもりだな」と、桃子が唸るような低い声で応じます。と同時に、前後を挟まれたので左右の逃げ道を素早く探ります。しかし、両方とも閉鎖した工場跡で、高い塀と閉じた門扉で覆われていて、逃げ道は塞がれていました。  彼

          MIMMIのサーガあるいは年代記 ―70―