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MIMMIのサーガあるいは年代記

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               承 前

「全宇宙の高貴にして偉大なる支配者かつ全知全能の神に等しきMIMMI皇帝! 皇帝陛下にとこしえの栄えあれ!」


 まずはこの物語を始める前に、宇宙一邪悪で狡猾、残忍と言われるMIMMI皇帝の姿について語らねばなるまい。ミンミ皇帝は壮年のたくましい男性として描かれ帝国内に流布されているが、真実は分からない。
 クリンゴン星の荒野に潜む隠者は、本当は電脳の集合体でバーチャルな存在だが統治の便宜上、ホログラムであのような姿を創出しているのだと語った。またンンヴェイリアス星の露店市場にいる青果商人は、うら若い女性であるが皇帝としての威厳が必要だからあの絵姿を広めているのだと主張した。地球星の河内に住むランニングシャツ姿の鼻毛をのばした酔っ払いのおっちゃんは、あの子は昔はええ子やったのにあんなになってしもうて、と涙ながらに嘆いた。
 ほかにも様々に取り沙汰する人は多かったが、語る内容はまちまちだった。

  MIMMI皇帝は、この広大な銀河帝国に皇帝として君臨するはるか以前は、「職業:天かす」だったという。だが詳しいことは誰にもわからない。
なぜなら、『いわゆる天かすの本質とその利用法並びにその効用』についての一考察』というくだらない論文を学内誌に書いた西淀川摂津工科大学(NIT)教授は、膝蹴りとアゴにパンチをくらった後チェーンソーでバラバラにされた姿で、神奈川沖に浮かんだからである。

 ある高官は、これはMIMMI皇帝直々の指示で見せしめであると独り言を言ったという(もちろん彼も博多湾に浮かんだ)。彼はまた、こうも口走ったらしい。「皇帝陛下が中指を立てて四文字単語(英語)を口にすると、恐怖のルシファーが死に神とともに背後に忍び寄ってくる」

 だが、これらの声も20年前からすべて消えてしまった。というのは、この皇帝について語った帝国内の人々はことごとく消滅したからである。
 死亡したり、行方不明になって「おとうちゃん、どこいったん?」と泣き叫んで走り回る近所のオバチャンはまったく見当たらなかった。
 なぜなら、本人はもちろん家族、友人、知人や友人の飼い犬とともに、消滅したからである。

 文字どおり一切が消滅したのである。これ以降、誰一人MIMMI皇帝について語ろうとしなくなった。それは、富と数万人規模の奴隷を抱え、各惑星を代理統治する横暴な帝国高官といえども同じだった。彼らもまた、皇帝の姿や素性について一言でも口にすれば、家族、部下、奴隷などとともに”消滅”するのだった。もちろん存在したこと自体や人々の記憶からも消滅した。

 MIMMI皇帝の恐怖の支配を支えるのは、実在の”坂”の地名を冠した46人ないし48人で構成する側近と親衛隊の一群である。例えば、雲母きらら坂、法円坂、赤坂、松坂などが側近として帝国官吏を監視している。産寧坂さんねんざか、大坂、女坂、オランダ坂、いろは坂、暗闇坂くらやみざかは親衛隊として皇帝の身辺警護と、巨大な軍隊の反乱防止と監視にあたった。ある意味、残虐で邪悪な皇帝本人よりもこの”坂”系を人々は怖れた。

 しかし、このような恐怖と死臭ただよう統治下にあっても、真実は細々と口伝えられる。蛇の道はアナコンダとのことわざのとおり、ほかならぬ”坂”グループの一群で密かに言い交わされている伝説もあると言われている。

 このサガは、このよう乏しい皇帝の情報にもかかわらず、彼(あるいは彼女)がこの広大な銀河帝国の皇帝の位に就くまでとその治世、さらに未知なる銀河の征服を目指し無限のパワーを持つと言われる神秘の「Force」なるものを手に入れようとした一連の物語を描いている。

 MIMMI皇帝の本当の姿は曖昧模糊として依然未知の霧がかかっているが、皇帝の出身地近くと噂される地球星泉南地方で百歳過ぎの認知症と診断された老人たちと、先にあげた”坂”系集団から漏れ伝わる挿話からある程度復元できるのである。


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