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初夏ものがたり

『人は暗いところでは天使に会わない』
 山尾悠子「アンヌンツィアツィオーネ」より
 
 山尾悠子著「初夏ものがたり」を読む。特に第一話「オリーブ・トーマス」が好みである。イラストも題名にふさわしく素晴らしい。
 
 これは彼女の初期作品で、みずみずしく爽やかな小作品である。と同時に、現在の作品につながる特徴が既に多くあらわれている。
 近年の作品のような難解めいた文体ではなく、そのためか却って第一話から深読みしすぎていた。率直に愉しめばいいのだ、と第三話あたりから気づいた。

 この作品のあらすじや概要は、ネタバレになるので一切言及しないが、解説によればコバルト文庫に連載されたようで、納得できる作品である。

 わたしが幻想小説家山尾悠子を知ったのは、知人から教えてもらった近年のことで、それ以前はまったく知らなかった。知っていてしかるべき小説家なのだが、わたしが文芸作品にまったく関心が失せていた一時期と、彼女の休筆期間が合致したのも一因かもしれないが、それにしても”発見”するのが遅すぎる手落ちだ。

 彼女は大学時代の1970年代末から活躍し、休筆期間が長くあった。彼女のデビュー期は「SFマガジン」に連載され、SFの一種と理解されていたが、これは当時幻想小説の専門誌がなかったからだ、と知人が説明してくれた。
 彼女の作品は数少ないから、全作品を読むのは難しくないだろう。しかし、国書刊行会から出版されている本は、総じて高額であるのが唯一の難点か。