聴くことは、私にできることなのかもしれない。
「莉朱ちゃんと話してると話すつもりのないことを話してしまうし、すごい考えさせられる」「話の聞き方がすごいんだろうね」「ひとことがすごい刺さる」と、最近私のことを褒めてくれる人がいる。
言われる度、「そ?」と軽く返すのだけれど、内心にやにやしてとてもとても喜んでいる。
彼と私は、友人でもなんでもない。ただ同じシェアハウスに住んでいるだけだ。ひょんなことから彼の悩みを聞いたことがきっかけで、話すようになった。
彼の褒め言葉を聞いて、私が思い起こしたのはおこがましくも『モモ(著:ミヒャエル・エンデ)』だった。言わずと知れた、カウンセラーにとっての聖書である。
ある日突然、どこからともなくその町に現れたモモと名乗る少女。やがて人々は何か悩みができると「モモのところに行ってごらん!」と言うようになる。ではモモがなにをするのか? モモがなんでも知っていてすぐに答えをあげられたわけではない。占いができたわけでもない。モモはただ、とてもとても人の話を聞くことに長けていたのだ。
小さなモモにできたこと、それはほかでもありません、あいての話を聞くことでした。なあんだ、そんなこと、とみなさんは言うでしょうね。話を聞くなんて、だれにだってできるじゃないかって。
でもそれはまちがいです。ほんとうに聞くことのできる人は、めったにいないものです。そしてこのてんでモモは、それこそほかにはれいのないすばらしい才能をもっていたのです。
モモに話を聞いてもらっていると、ばかな人にもきゅうにまともな考えがうかんできます。モモがそういう考えをひきだすようなことを言ったり質問したりした、というわけではないのです。ただじっとすわって、注意ぶかく聞いているだけです。その大きな黒い目は、あいてをじっと見つめています。するとあいてには、じぶんのどこにそんなものがひそんでいたかとおどろくような考えが、すうっとうかびあがってくるのです。
モモに話を聞いてもらっていると、どうしてよいかわからずに思いまよっていた人は、きゅうにじぶんの意志がはっきりしてきます。ひっこみじあんの人には、きゅうに目のまえがひらけ、勇気が出てきます。不幸な人、なやみのある人には、希望とあかるさがわいてきます。たとえば、こう考えている人がいたとします。おれの人生は失敗で、なんの意味もない、おれはなん千万もの人間のなかのケチなひとりで、死んだところでこわれたつぼとおんなじだ、べつのつぼがすぐにおれの場所をふさぐだけさ、生きていようと死んでしまおうと、どうってちがいはありゃしない。この人がモモのところに出かけていって、その考えをうちあけたとします。するとしゃべっているうちに、ふしぎなことにじぶんがまちがっていたことがわかってくるのです。いや、おれはおれなんだ、世界じゅうの人間のなかで、おれという人間はひとりしかいない、だからおれはおれなりに、この世のなかでたいせつな者なんだ。
こういうふうにモモは人の話が聞けたのです!
まさにカウンセラーの鑑。もっとも私は、こんな風に話を聞けるわけではない。ただ、気を付けていることがいくつかある。
・口を挟まず聞くことに徹する。
・相手が言葉を求めたときは、相手が言ったことを別の言葉で言うか、話題になっている行動の前後に存在する心理に言及する。
・否定せず決めつけない。
・適度な共感と客観性(どっちもやりすぎない)
・わかったつもりにならない。
私の本能的なものでもあるけれど、これらはカウンセリングを学んだことにも由来する。カタルシスとクライエントセンタードだ。
ただまあ、基本的には感性と感覚と直感で動く人間なので、すべてがケースバイケースなのも否めない。上記はあくまで基本スタンス。
「話聞くとき、何考えてるん?」と訊かれた。
「何も考えてない」と私は答えた。
事実である。人の話を聴くとき、私は凪になる。ただ自分が何を感じるか、何が言葉として浮かんでくるか、すべてなるように任せるのみ。そこに能動はないようにしている。
届いてくれと、祈る言葉も大切だ。けれどその取り扱いは慎重を極めるから、私にとっては最後の手段。
「人の話を聞いて、本音を引き出す仕事をした方がいいんじゃない?」「すごい才能だと思うよ、ほんとに」「尊敬する」
もらえた言葉が、純粋に嬉しい。それは私のなりたい私であるし、たぶん、私の特性のひとつだから。
カウンセラーになりたかった私はカウンセラー以外のものになったけれど、どうやら学びは生きて私の一部になったようだ。
モモのようになるのは難しい。けれど『聴く』ことは『私にできること』なのかもしれない。その私はもしかしたら、過去に想定したような形ではなく、きちんと人の力になることもできるのかもしれない。
そうやって私を認めてくれる人に、感謝を。
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