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【幻想】日本での子育ては無理ゲーだ。現実解としての「夜間保育園」の実状と親の想いを描く映画:『夜間もやってる保育園』

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日本で子どもを育てることはとても難しい。その困難さを「保育園」を通じて可視化させる映画

この映画では、新宿・北海道・沖縄・新潟など、都市部からそうではない地域まで様々な場所に存在する、「夜間保育も担う保育園」を取り上げている。『夜間保育園』で描かれる現実はまさに、「日本の子育ての難しさ」を如実に示しているのだろうし、こんな社会の中で誰が子どもを育てたいと思うだろうとさえ感じさせられた。

私自身は、結婚もしていないし、子どももいない。「子育て」にどんな形であれ関わったことはないので、この記事の中には、私自身の実感はほとんどないと言っていい。この映画を含め、見聞きしたことを元にあれこれ書いているにすぎないというわけだ。

そんな人間の意見が参考になるかどうかは分からないが、客観的な立場にいるからこそ見えることもあるだろうとは思っている。

日本には子どもを育てにくい「空気」がある

子育てとは少し違うが、以前大学時代の友人から聞いて驚いた話があるので、まずそれを紹介したい。

この話を聞いたのはもう10年以上前なので、現在はどうか分からないが、その時彼女は「日本では無痛分娩があまり浸透していない」という話をしていた。海外では無痛分娩が主流だとも言っていたと思う。私は、日本で広まらない理由が気になって聞いてみたのだが、その答えがなかなか衝撃的だったことを覚えている。彼女曰く、「『子どもはお腹を痛めて産むべき』という幻想が強いから」とのことだった。

その友人の話が事実なのかどうか、私は知らない。しかしそれを聞いて私は、驚いたのと同時に納得してしまった。なるほど、日本ならそういうこともあり得そうだな、と。

この映画にも、「保育園に子どもを預けること」に関して、近い感覚の発言がいくつか出てきた。

生まれたばっかりですぐに子どもを預けてしまうのは、罪悪感がありました。

やっぱり結構言われましたよ。子どもと一緒にいる時間が少なくなるのは可哀想だって、周りの人に。

無痛分娩の話と似ていると思わないだろうか。ここには、「子どものことを愛しているならずっと一緒にいたいと思うはず」「子どもは親の愛情を一身に受けて育たなければ可哀想」という価値観が見え隠れするだろう。誰かにそのような価値観を強要されているのだ。

あまりにもくだらない。そのような価値観を抱くのは勝手だが、それを他人に押し付けて何になるのだろう。このような価値観が当然と考える人は、自分の発言にまったく疑問を感じないのだろうか。

だとしたら、私には信じがたい。

子育てに関する価値観の強制が、個人間のやり取りに留まるのであれば、まだマシと言えるかもしれない。しかし、問題の根はより深い。政治家も同じように考えているというのだ。本当かどうかは分からないが、日本の高齢男性は特に、自分が子育てを積極的にしたわけでもないだろうに「子どもは家庭で育てるべき」という価値観を強く持っているらしい。だから子育て全般に対する支援に積極的ではない、という話を聞いたことがある。

もし本当にそうなら、そんな政治家にはご退場願いたい。あんたらの幻想を守るために政治が存在するわけじゃない、と言ってやりたくなってしまう。

「子どもが好きじゃないから保育園に預ける」みたいな親も多少はいるかもしれないが、普通は「どうしても保育園に預けざるを得ない現実」が存在するはずだ。この映画を観ていると、社会の歪みが弱い立場の人間を直撃している様が理解できるだろう。多くの親が、相当厳しい環境での子育てを強いられている。

苦労して子どもを育てているのだから、せめて気持ちよく保育園に預けられる「空気」にならないものかと、私は感じてしまうのだ。

「空気」という意味で言えばもう1つ、印象的な指摘があった。それは、この映画に登場する内閣官房統括官の、

子どもを育てるということへの敬意が薄くなっているように感じることがあります。

という発言に集約されるだろう。本当にそうだよなぁ、と感じる。

私は、子どもを見て可愛いと思うことがないし、自分の子どもがほしいと思ったこともない。ただ、子育てしている人は凄いと思うし、頑張ってほしいと応援している。だから、子どもやその親がなにか”やってしまった”としてもイライラすることはほとんどない。たまに、あまりに常識がなさすぎると感じる親に出くわすことがあり、その際に少しムカッとするぐらいだ。

しかし世の中には、「電車にベビーカーで来るな」「泣いてる子どもがうるさい」という主張や視線が多く存在する。子どもを育てることへの敬意があれば、こんなギスギスした雰囲気にはならないはずだ。

じゃあ今より一昔前の方が良かったのかと言えばもちろんそんなことはないだろう。日本に限らず「子どもは労働力」と考えられてきた時代が長かったわけで、現在の方がきっと、子どもにとって安全・安心な世の中に変わっているはずだ。

しかしだとしても、「子どもを育てている人」に対する社会の目が、ちょっと優しくないと感じてしまうことは多い。本当に大変な世の中だと感じる。

「ベビーホテル(無認可保育園)」と「認可保育園」

この映画では「認可保育園」に対して、無認可で子どもを預かる場所は「ベビーホテル」と呼ばれる。この映画で示されていたデータによれば(確か2016年のものだったと思う)、「ベビーホテル」は全国に1749ヶ所あるのに対し、「認可夜間保育園」は全国にたった80ヶ所しか存在しないという。

明らかに「夜間保育を行う認可保育園」の数が足りないと分かるだろう。

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