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【衝撃】「きのくに子どもの村学園」に密着する映画『夢見る小学校』は、「義務教育」の概念を破壊する。映画『夢見る公立校長先生』の話も

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衝撃的な教育を行う私立小学校「きのくに子どもの村学園」を描く映画『夢見る小学校』、そして様々な公立校の奮闘を描く映画『夢見る公立校長先生』

この記事では、『夢見る小学校』『夢見る公立校長先生』という2作品を取り上げる。映画『夢見る公立校長先生』は映画『夢見る小学校』の続編的な作品ではあるが、どちらから先に観ても問題ないだろう。

どちらも物凄く興味深い作品だった。映画『夢見る小学校』では、先進的・革新的な教育を行う「きのくに子どもの村学園」という私立小学校に密着しているのだが、ここで行われている教育は非常に面白い。「教育というのは本来こうあるべきだよなぁ」と感じさせられたし、「もし子どもの頃の自分がここに通っていたらどうだっただろうか」とも考えさせられた。

さて恐らく、映画を観ながら多くの人が、「私立小学校だからこういう取り組みが出来るんだろう」と感じるのではないかと思う。だからだろう、映画『夢見る小学校』では後半に少し、「チャレンジングなことをしている公立校」も扱われている。そして、「そのような公立校の校長先生」をメインで取り上げたのが、続編の映画『夢見る公立校長先生』なのだ。

実は、「公教育の枠組み」の範囲内でも、かなり自由なことが出来る。例えば、この2作品を観て初めて知ったが、「通知表」「時間割」「宿題」などはすべて、「法律等で定められているもの」ではないそうだ。学校が「自主的」に行っているものであり、本来的には無くても問題ないのだ。そして本作では、そのような「公教育の枠組み」を正しく理解している校長先生が、ルールの範囲内で行っている革新的な取り組みを取り上げているというわけだだ。

だから本作は、「公立校に子どもを通わせている人」も含めた、「既に親である、あるいはこれから親になるつもりがあるすべての人」が観るべき作品だと思う。私は別に、親でもないし親になるつもりもないのだが、確かにそんな私にも「知識」としてとても興味深い作品だった。しかし、私が「親に観てほしい」と考えるのには、もっと実際的な理由がある。

というのも、「親が文句を言いさえしなければ、公立校は何だって出来る」からだ。この「文句を言う」というのは、実際に言うかどうかは関係ない。何故なら、学校側が「こんなことをしたら保護者から文句が出るかもしれない」と考えた時点で、先進的・革新的な取り組みは行われなくなってしまうからだ。

だから大事なのは、「文句を言うつもりはない」と明確な意思表示をすることだろう。映画を観れば、その必要性がとても強く理解できるはずだ。そんなわけで私は、「既に親である、あるいはこれから親になるつもりがある人」は全員観るべきだと思う。

それではまず、私が以前読んだ本の話をしながら、「環境の重要さ」について触れていくことにしよう。

「世界一の技術を持つ中小企業」と「東大生に勝った女子高生アイドル」はいかにして生まれたのか?

私は以前、『先着順採用、会議自由参加で「世界一の小企業」をつくった』(松浦元男/講談社)という本を読んだことがある。愛知県の樹研工業という中小企業を取り上げた作品だ。極小精密部品の製造では国内トップメーカーであり、世界的に見ても「この会社でしか作れないもの」があるくらい技術レベルの高さで知られているという。
 
さて、そのような会社なのだから、「凄腕の技術者を中途で採用する」など、技術者の確保に力を入れていると考えるのが普通だろう。しかしなんとこの会社の採用は、「面接に来た順」だという。性別、学歴、年齢、能力、人種など一切関係なく、「応募があった順に人を採用していく」という、普通では考えられないようなやり方をしているのである。
 
しかしそんなやり方だと、入社時の能力にはかなりバラツキがあるはずで、だとすれば、その後の業務に支障を来たしてもおかしくないと感じるだろう。しかしまったくそんなことはないそうだ。例えば、高校時代にまったく数学が出来なかった女性は、入社から数年後には独学で大学受験レベルの問題が解けるようになったという。中卒の工場長は「歯車理論」について独学し、海外の世界的権威から大学院卒だと思われていたというレベルにまでなった。入社時にまったく英語を喋れなかった者も、いつの間にか英語で外国人と交渉するようになっていたのだそうだ。
 
そんな凄まじい変化をもたらしている要因は、間違いなく社長のモットーにあるだろう。「チャンスとモチベーションを与えること」を明確に意識しているのだそうだ。それによって社員は独自に成長し、会社は結果として世界に類を見ない技術を持つ企業へと成長した。まさに「環境が人を成長させた事例」と言っていいと思う。
 
さて、もう1冊紹介しよう。『女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?』という本で、私は観たことはないが、NHKの「すイエんサー」という番組のプロデューサーが書いている。タイトルから想像出来る通りの内容で、「女子高生アイドルが、東大生とガチの知力バトルをして勝ってしまった」というその凄まじい軌跡が描かれている作品だ。
 
本書の冒頭には、実際に東大生と勝負をして勝利した対決の模様が描かれている。与えられたお題は「ペーパーブリッジ」。ルールは簡単で、「A4の紙15枚だけを使用して『橋状の構造物』を作成し、より強い荷重に耐えられた方が勝ち」というものだ。バリバリの知力バトルである。集められた「すイエんサーガールズ」は、お世辞にも勉強が出来るとは言えない女子高生アイドルであり、普通に考えて彼女たちに勝ち目があるとは思えない。
 
しかしなんと「すイエんサーガールズ」はこの勝負に圧勝したのである。東大生が作った構造物よりも3倍の荷重に耐えたのだ。この結果には番組スタッフも驚愕したという。そして、この勝利が「まぐれ」ではないことを確かめるべく、京都大学・東北大学・北海道大学など様々な大学生と対決を行い、最終的に5勝4敗と勝ち越す結果で終わった。ちょっと驚くべき結果と言えるだろう。
 
しかし何故彼女たちは大学生に勝つことが出来たのか。その背景には、「すイエんサー」という番組内で行っていることが関係していると言えるだろう。彼女たちはいつも、何も知らされずに集められ、そして唐突に訳の分からないお題が与えられる。例えば、「パスタを食べるときにソースの飛び跳ねをなくしたい!」「バースデーケーキのロウソクの火を一息だけで消したい!」「スイカの種がまったく入らないようにカットしたい!」と言ったような感じだ。そして「正解に辿り着くまで収録が終わらない」という地獄のような状態に放り込まれるのである。
 
彼女たちには途中で、「意味不明」としか言いようがない「謎のヒント」が与えられる。そして、それ以外には何の情報もない。その状況下で、訳の分からないお題の「正解」を導き出さなければならないのだ。
 
そのためにはとにかく考えるしかない。番組プロデューサーはこれを「グルグル思考」と呼んでおり、「この『グルグル思考』を日頃からやり続けたお陰で、東大生に勝つような発想を身につけることが出来たのだろう」と書いていた。
 
さて、この2つのエピソードから私が主張したいのは次のようなことだ。

大人でも、制約のない環境が与えられれば、その能力は飛躍的に開花する。であれば、子どもだったら余計そうなるはずだ。

そしてまさに、そのような考え方をベースに教育を行っているのが、映画『夢見る小学校』で扱われる「きのくに子どもの村学園」なのである。

「きのくに子どもの村学園」という凄まじい衝撃

「きのくに子どもの村学園」は全国に5校、山梨・福井・和歌山・福岡・長崎にあるのだが、映画の中で主に映し出されるのは山梨にある学校である。

本当に、凄まじく衝撃的だった。

壁に貼られている時間割を見る限り、この学校には「英語」以外の授業らしい授業は存在しない。国語・算数・理科・社会を教えるための時間など無いのだ。では児童たちは一日の大半を何に費やしているのか。それが「プロジェクト」と呼ばれるもので、いわゆる「体験学習」である。

児童たちは、「料理」「大工」「工作」「演劇」「伝統から学ぶ」の5つの中から、自らの意思で何か1つのクラスを選ぶ。この学校では、この「クラス」単位ですべての行動が決まるため、学年ごとに区分けされるのではなく、1年生から6年生までが「同じクラス」に所属するという構成になっている。

では、それぞれのクラスでどのようなことが行われているのだろうか。

例えば「料理」なら、まず1年間のテーマを決めるところから始まる。もちろん決めるのは児童たちだ。大人(先生)は口を出さない。そして、そのテーマが「麺」に決まれば、「そばの実を育てる」ことからプロジェクトが始まるのである。もちろんその計画を主導するのも子どもたちだ。1週間の時間割の中で、どの時間に種まきし、どの時期に収穫するのかというスケジュールを決めるのである。決定はすべて投票によって行われ、大人にも投票権があるのだが、それは児童たちと同じ1票だ。完全に民主的なプロセスで決められるのである。その後子どもたちは、採取したそばの実を使って蕎麦づくりを始めるのだが、どうも上手くいかない。そこで子どもたちは、自ら県内の蕎麦店に連絡をし、蕎麦打ちやつゆの作り方などを取材に行くというわけだ。

「大工」の場合にはなんと、学校の渡り廊下の屋根やテラスなどを児童自ら作る。もちろん、「作るもの」や「設計」も子どもたちの主導であり、大人が口を出すことはない。作業ももちろん子どもたちが行い、のこぎりで木を切り、電動ドライバーでネジを入れ、高いところに登って屋根に板を貼っていくのである。

これを小学生がやっている光景は、本当にちょっと衝撃的だった。本作では、ナレーションを務めている吉岡秀隆が「日本一楽しい学校」と紹介している。確かにその通りだろう。こんな楽しい学校はなかなかないと思う。

例えばこの学校には、「椅子に座る」みたいな規則はない。だから子どもたちは、話し合いをしている時に思い思いの状態でいる。廊下に寝転んでいたり、机に突っ伏していたり、大人におんぶしてもらったりもするのだ。とにかくすべてが、本人の自主性に任されているのである。

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