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【現実】我々が食べてる魚は奴隷船が獲ったもの?映画『ゴースト・フリート』が描く驚くべき漁業の問題

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映画『ゴースト・フリート』で描かれる問題は私たちにも関係する。我々が食べている魚は”違法”に獲られたものかもしれないのだ

予告で本作の存在を知った時から、「絶対に観よう」と決めていた。予告の中で明かされる情報だけでも、ちょっと衝撃的すぎる現実が扱われる作品だと理解できたからだ。

そして実際に映画を観て、描かれている問題が私たちにも関係するものだと知った。何故なら、映画の最後に次のような字幕が表示されるからだ。

今も、世界中の大手食品会社やスーパーマーケットで、奴隷労働によって漁獲された魚が流通している。

映画で描かれているのは、「多くの人が奴隷船で働かされている」という衝撃の現実だ。映画の舞台はタイなのだが、タイではなんと、「数年から数十年単位で遠洋船に隔離され続けている『奴隷』」が数多く存在しているというのだ。そして、そんな”違法”な労働によって獲られた海産物が、私たちの食卓に並んでいるのだという。公式HPによれば、日本が世界中から輸入した天然水産物の24~36%(1,800~2,700億円)は、「違法または無報告漁業」によるものと推定されているようだ。また、日本で流通するキャットフードの約半分はタイ産なのだという。実は知らないところで、身近に迫っている問題というわけだ。

本作は、この問題に取り組むパティマ・タンプチャヤクルという女性を中心に描かれる。既に5000人以上の「奴隷」を救出してきたそうだが、実際には数万人単位で「奴隷」が存在すると考えられており、解決への道のりがあまりに遠い問題だと言えるだろう。しかし彼女は、今も歩みを止めずに「奴隷」の救出に奮闘している。また、本作で映し出される「海の奴隷」は決してタイだけの問題ではなく、アメリカやイギリスでも同様のケースが知られているそうだ。本作を観るまで私はまったく知らなかったが、実は全世界的な問題なのである。

私たちに出来ることは多くはないかもしれないが、少なくとも「このような現実があるのだ」と知っておくべきだとは思う。

タイのシーフード産業の現状と、パティマらの活動について

それではまず、何故タイで違法な漁業が横行しているのかについて触れていこう。

タイのシーフード産業は世界最大級と言われており、年間約90億ドル規模に達するそうだ。しかしその内実は酷いものだった。昔から違法操業や無規律乱獲が繰り返されてきたのだ。日本で行われているような「一定期間の禁漁」などの仕組みがまったく存在しなかったこともあり、結果として、タイ近海では魚がまったく獲れなくなるという事態に陥ってしまった。まさに自業自得である。

さてそうなると、遠洋に出て魚を獲る以外に方法はない。しかし地元の漁師は、長期間遠洋に出っぱなしで漁をするのを嫌がった。当然のことながら、そもそも船員がいなければ獲れる魚も獲れやしない。そこで漁業会社は、違法なやり方で船員を確保することにした。タイ人を拉致し、無理やり遠洋船に乗せ、そのまま海上に”隔離”して漁をさせ続けたのだ。このような犯罪的なやり方で遠洋船に従事させられている者がタイには数多く存在し、中には数十年間も船の上という者さえいるという。まさしく「奴隷」である。

タイという国家は、長いことこのような悪行によってシーフード産業を成り立たせてきたというわけだ。

そしてこの問題に取り組んでいるのが、本作の主人公パティマ・タンプチャヤクルである。彼女は夫と共に「労働権利推進ネットワーク(LPN)」を立ち上げ、「奴隷」の解放に全力を尽くしているのだ。その活動は高く評価されており、2017年にはノーベル平和賞にノミネートされたほどである。

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