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【実話】実在の人物(?)をモデルに、あの世界的超巨大自動車企業の”内実”を暴く超絶面白い小説:『小説・巨大自動車企業トヨトミの野望』(梶山三郎)

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誰もが知る世界的自動車会社をモデルにした、「えっ!?こんなこと書いちゃっていいの!?」と驚かされっぱなしの『小説・巨大自動車企業トヨトミの野望』

もの凄く面白い作品だった。

本書は、「トヨトミ自動車」という名前から容易に想像出来る通り、あの世界的大企業をモデルにした小説だ。もちろん、本書の記述のどこまでが事実でどこまでが創作なのかは分からない。ただ、いくら「ただモデルにしただけですよ」と主張したところで、「『間違った記述』や『悪意のある創作』が企業イメージを低下させる」となれば、そりゃあその大企業も何らかの措置を講じてくるだろう。そして、普通に考えて、著者も出版社もそんなリスクを犯すはずがない。

だから本書は、「『出来事』は概ね事実であり、その『見せ方』や『演出』には創作もあり得る」と考えるのが妥当ではないかと思う。まったく事実として存在しない出来事・人物を登場させるのはあまりにもリスキーだろうからだ。

そんなわけで私は、「本書にかかれているのとほぼ同じようなことが実際に起こった」と捉えている。そして、そう思いながら読むと、圧倒されるだろう。もちろん、「書かれていることはすべて創作で、この小説は完全にフィクション」なのだとしても十分に面白い。ただ、それが「事実」だとしたら、より衝撃を受けるというわけだ。

まあ、どのみち真相を確かめることなど出来ないのだから、「事実」だと思って読んでみる方が面白いだろう。

「ビジネスは戦争だ」と主張し続ける武田剛平とは、一体何者なのか?

本書の主人公は武田剛平だ。もちろん、仮名である。調べれば分かることなので書くが、武田剛平のモデルは、28年ぶりに豊田家以外から社長に抜擢された奥田碩氏だそうである。この「豊田家以外から」というのが奥田氏の特異さであり、そしてそれは、彼をモデルにした武田剛平が暴れまわる本書『小説・巨大自動車企業トヨトミの野望』の特異さでもある。

本書の中で武田剛平は、「ビジネスは戦争だ」という趣旨の発言を繰り返す。いくつか抜き出してみよう。

ビジネスは戦争なんだ。そして社長は最高指揮官だ。食うか食われるかだ。アメリカ政府が本気で攻撃に出たら日本のメーカーなどひとたまりもない。手前味噌だが、おれはアメリカの怖さがわかっていたからニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルスに凄腕のロビイストを配置して可能な限りに対米戦略を講じてきた。米国政財界の重鎮を取り込み、大統領の地元に工場とサプライヤーのセットで進出した。ロビイストたちの根回し、懐柔が効いたからこそ、いくら儲けようがどこからも文句は出なかった。これは一朝一夕でどうなるものでもない。

ビジネスは戦争だ。労組の諸君の要求を丸呑みすればうちは世界のライバル社に負ける。いまの水準の給料はとうてい払えない。おれたち幹部は寝ても覚めても経営のことを死に物狂いで考え、汗水を垂らして行動し、トヨトミを発展させなくてはならない。牙を剝いて襲いかかる他メーカーを蹴散らし、トヨトミはもちろん、子会社、サプライヤーの社員とその家族の生活を守らねばならんのだ。戦争は負けたら終わりだ。なにも残らない。焼け野原だけだ。

ビジネスは戦争です。社長はその最高指揮官です。最高指揮官の仕事は会社が進むべき方向を社員に示すことに尽きます。方向を誤ってしまえば会社は破綻し、社員とその家族は路頭に迷います。どうか怯むことなく、臆することなく、全世界三十万人の社員に正しい針路を示していただきたい。我らがトヨトミ自動車がさらなる五十年、百年を生き抜くために。

なかなか熱い男である。熱いだけではなく、トヨトミ自動車の社長として辣腕を振るった。しかしその経歴は、「社長」というイメージからかけ離れた常軌を逸したものである。

豊臣家とはなんの関係もないサラリーマン社長。しかも本流の自工ではなく、傍流の自販出身。加えて経理部に十七年も塩漬けにされたうえ、マニラに左遷された厄介者。そのマイナスだらけのドン底から這い上がり、トヨトミ自動車のトップに昇りつめた奇跡の男。そのすべてが常識外れだ。

繰り返すが、私は本書の記述を「基本的に事実をベースにしている」と捉えている。つまり、武田剛平のこの経歴も、先に紹介した奥田氏が辿ったものであるはずだ。本書には武田剛平以外にも、マンガみたいなキャラがゴロゴロ出てくる。マンガみたいなキャラが、マンガみたいな物語を展開する、とても「実話」をベースにしているとは信じがたい小説なのだ。

武田剛平の凄まじい手腕と、社内での「冷遇」っぷり

まずは、こんな文章を引用してみよう。

トヨトミ自動車内で進む露骨な武田剛平の“抹殺”。「創立八十周年記念映像特集」と銘打たれた二時間近い会社紹介ビデオに、武田が登場するシーンはたったワンカット。それも、解任に等しい社長退任会見の模様をほんの五秒程度。

あの偉大なる救世主、今日の隆盛の土台を築いた剛腕武田が、たったのワンカットじゃあおかしいでしょう。おれは納得できませんね。社史も、トヨトミ自動車公認のヨイショ本も、武田剛平を抹殺しつつある。

つまり武田剛平は、凄まじい功績を残しながら、トヨトミ自動車の中では恐ろしく「冷遇」されているのである。どうしてそんなことになっているのか。それは、次の一文で理解できるだろう。

豊臣家は血の繋がり以外、信用していません。

とにかく、創業家に連なっているか否かがすべてを決するというわけだ。これで、「トヨトミ家以外からの初の社長」という武田剛平の特異さが物語に大きく関わることが理解できるだろう。

本書の冒頭は、かなりインパクトがある。なんと武田剛平がヤクザの事務所に乗り込むのだ。

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