見出し画像

【天才】写真家・森山大道に密着する映画。菅田将暉の声でカッコよく始まる「撮り続ける男」の生き様:『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』

完全版はこちらからご覧いただけます


「森山大道」という写真家は、何者か?

映画は、菅田将暉の声で始まる

聞いたことのある声で映画が始まって驚いた。自己紹介をしたのは、やはり思っていた通り菅田将暉。冒頭は、彼のナレーションで始まる。

何故か。

憧れの人物に、仕事で会う機会があったからだ。

菅田将暉は高校時代、クラスメートと森山大道の写真集を見ていたという。「かっけー」と感じたそうだ。「かっけー写真」だったことは、菅田将暉を惹きつけた大きな理由だろうが、もう1つ理由がある。

大阪府池田市。2人は同郷であり、菅田将暉は「地元のかっけー人」として森山大道を見ていたのだ。

菅田将暉はその後上京し、俳優としてがむしゃらに努力する。そしてその瞬間が訪れた。主演を務める映画『あゝ荒野』ののスチール撮影の日だ。

集合場所は新宿ゴールデン街。指定された店の中で待っていると、一人の男がカメラ片手にやってきた。しかし、照明も三脚もない。なんだ、スチール撮影を、そんなカメラだけでやるのか?

よろしく。森山です

相手がそう口にし、手を差し出した。

心臓が止まった。えっ、嘘だろ?

こうして菅田将暉は、高校時代からの憧れの存在と仕事をすることになった。そして、この映画のナレーションも。

菅田将暉がナレーションを務める冒頭部分は、5分程度だろうか。映画全体のボリュームからすれば大した尺ではない。しかし、この冒頭でグッと掴まれた感じがある。

なかなか良い始まり方だ。

映画の構成

ざっと、映画の構成に触れておこう。

基本的にこの映画は、「森山大道という写真家の日常」を切り取っている。ちっぽけなデジカメを片手に街をうろつき、なんでそんなものを? と感じるような対象に向けてシャッターを切る。いつでもどこでも、何か撮っている。その姿を、後ろから追いかける。

時にはイベントで話したり、映画製作者(監督?)の質問に答えたり、あるいは森山大道の過去の仕事や写真などが紹介されたりする。そういう、「写真家・森山大道の生き様」みたいなものが縦軸だ。

この映画には横軸がある。そしてこの横軸が、「人物を追いかけているドキュメンタリー映画」というだけではない緊迫感みたいなものを醸し出している。

森山大道が写真家として初めて発表した処女作『にっぽん劇場写真帖』。これを復活させようという企みが、編集者と造本家の間で持ち上がる。単なる復刊ではない。写真の配置などを再構成し、森山大道に撮影時の記憶を思い出してもらってキャプションを書き、森山大道の過去の膨大な仕事を参照しながら1枚の写真を再評価するという膨大な作業を行うのだ。50年前に発行された写真集を、新たな形で現代に蘇らせ、世界最大の写真展であるパリフォトで発売する、というプロジェクトが進行している。

これがなかなか壮大な計画だ。菅田将暉のナレーションが終わると、場面は北海道に飛ぶ。雪深い山奥で木を切っているのだ。木なんか何に使うのか。それは、「紙」のためである。造本家は、森山大道の写真集のためだけに、一から紙を作ろうとしているのだ。

こんな風に、時間変化をまるで感じさせずに常に一定の雰囲気を醸し出す「森山大道の日常」と、パリフォトまでに仕上げなければならないというタイムリミットのある「写真集の復活」が交錯することで、ゆったりした時間と緊迫した時間が入り混じった独特の雰囲気に仕上がっている。

森山大道が、処女作の復活計画にさほど関心を抱いていなさそうなのも興味深い。過去は過去として否定はしないが、森山大道の関心は常に「今何を撮るか」に集約されているのだろう、と感じた。

「中平卓馬との関係」と「『写りゃいいんだから』という発言」

映画の中で森山大道は、ほとんど語ることはない。質問を投げかけてもあまり返ってこなかったのか、映画製作側が敢えてあまり質問をしなかったのか、それは分からないが、自発的に語る場面も、問われて答える場面もかなり少ない。

そんな中で、森山大道が積極的に語りたがっていると感じたのが、中平卓馬という人物との思い出だ。森山大道にとっては盟友と呼んでいい間柄で、映画撮影中、「中平卓馬」という名前を100回は口にしているという。

20代の頃に逗子で出会った2人は、写真家としてはまったく無名の若者だった。彼らは、海岸から少し離れた岩場まで泳いで行き、そこで甲羅干しをしながら、当時評価されていた写真家をボロクソに貶したそうだ。彼らには、その当時正しいとされていたのとは違う写真の未来が見えており、2人で写真界に殴り込みを掛けていく。そして、「PROVOKE」という雑誌に関わり、多くの後進に多大な影響を与えることになる。

そんな盟友・中平卓馬は、3年前に亡くなった。その日彼は、ジャック・ケルアックの『路上』のTシャツを着て、青山へと写真を撮りに行った。『路上』は中平卓馬から勧められたものだ。読んで衝撃を受け、すぐさま旅に出た。そしてそこで撮った写真を写真集『狩人』として発表する。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

ここから先は

1,471字

¥ 100

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?