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【諦め】「人間が創作すること」に意味はあるか?AI社会で問われる、「創作の悩み」以前の問題:『電気じかけのクジラは歌う』(逸木裕)

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AIが「創作」を行う世界で、人間が「創作」する価値はどこにあるか?

AIと著作権法

まず基本的な知識を確認しておこう。

現在、「AIが創作したものに著作権が発生するか」が議論されている。創作物には著作権が発生するのではないか? と感じるだろう。しかし、著作権法では、このように定められている。

著作物=「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/naruhodo/outline/4.1.html

ここで重要なのは、「思想または感情」という部分だ。AIに思想や感情はあるだろうか? 一般的には、無いと考えられているだろう。すると、AIが生み出したものは「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、必然的には著作物ではない、ということになるだろう。しかし、創作されたものであるのは間違いないのだから、著作権が発生しないのはおかしいのではないか。このような議論がなされている。

しかしそういった議論がある一方で、既にAIによる創作物は様々に存在している。程度はともかくとして、絵・音楽・小説をAIで生み出そうという試みは様々に行われており、過去の偉大な芸術家風の絵を描くAIや、それぞれのアーティストっぽい曲を生み出すAIなどが登場している。

本書では、「Jing」という自動作曲AIが世界中に広まっている世界が描かれている。我々が住む世界はまだそこまで到達していないが、そう遠くない未来だと感じられるだろう。

そうした世界において、「人間が創作すること」に意味があるのかどうかが本書では問われている。

自動作曲AIが広まった世界で作曲するということ

まずは「Jing」についてざっと説明しよう。自分が気に入った曲をいくつか入力するだけで、それらの曲の構造を解析し、すぐさま複数曲作曲してくれる。そして、その中から気に入った曲を選ぶ、という操作を繰り返すことで、自分の好みの曲により近づけることができる。このようなアプリだ。

この「Jing」について登場人物の一人は、

普通の作曲家が普通に作れる曲は、もう「Jing」で再現することができる。

と考えている。

ここから、人間の葛藤が始まるのだ。

あなたが作曲家だとして、「Jing」の存在する世界でどんな曲を作るだろうか? なかなか難しいだろう。先の人物も、まずそこで悩む。

となると、作曲家はふたつの選択肢しかない。「Jing」で再現できることを承知で普通の曲を作るか、それを徹底的に避けるかだ。だがそれをやると、前者は聴かれず、後者は多少聴かれるかもしれないが鍋を叩くような珍曲になってしまう。

確かにその通りだろう。人間の作曲家に頼まなくても、“私にぴったりな曲”を誰でもいつでも簡単に手に入れることができる。そんな時代に、作曲家に一体何ができるだろうか? 「そんなのAIが作ってくれるよ」という評価に甘んじるか、「そんな曲作って意味あるの?」という評価を受け入れるか。ほとんどの人間が取れる選択肢はどちらかになってしまうだろう。

恐ろしい世界だ。

その限界を超えられるのは、名塚のような天才だけだ。まだ世界になく、それでいて普遍性も伴った楽曲。ごくごく限られた天才ならば、こんな環境でも作曲家でいられる。

「誰かに聴いてもらう」ことを前提に考える場合、驚異的な才能を持つ天才しか生き残れない。そんな世界になるだろう。

そもそも「創作」とはどういう行為か?

しかし、果たしてそれが結論でいいのだろうか? というのも、「誰かに聴いてもらうこと」が「作曲の目的」なのか、という疑問が生まれうるからだ。

作曲家って、表現したいものがあるから表現するんですよね? それなのに「Jing」ができない曲をやろうとするなんて、本末転倒じゃないですか

この指摘には、ハッとさせられるだろう。確かに言われてみればその通りだ。

私自身は、「創作」的なものとはあまり縁のない人生を送ってきたのではっきりとは分からないが、「創作」というのは、「日々生活していくための糧」「承認欲求」「衝動」のどれかであることがほとんどだろう。「日々生活していくための糧」と「承認欲求」の場合は、「誰かに聴いてもらうこと」を目的とするしかなく、だとすると「Jing」のある世界で成り立たせるのは難しい。

しかし、「衝動」による「創作」であるならば、「Jing」のあるなしなど関係ないのではないか?

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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