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【平易】一般相対性理論を簡単に知りたい方へ。ブラックホール・膨張宇宙・重力波と盛りだくさんの1冊:『ブラックホール・膨張宇宙・重力波』(真貝寿明)

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ブラックホール・膨張宇宙・重力波をざっくり知りたい

本書の構成とアインシュタインの失敗

本書はまさにタイトルの通り、「ブラックホール」「膨張宇宙」「重力波」について、現役の研究者がコンパクトに説明をまとめた作品だ。どれも単独で1冊の本になるぐらいのテーマであるが、本書では、科学的な基礎知識と歴史的な背景を上手く拾い上げて、読みやすく仕上げている。科学に関心のある中学生なら充分読めるだろうし、理科系の本にチャレンジする最初の1冊としてもかなりオススメだ。

本書の構成は以下のように明確になっている。

・アインシュタインの相対性理論の説明
・ブラックホールの説明
・膨張宇宙の説明
・重力波の説明

私は、科学系の本を結構読むので、正直なことを言えば、本書に書かれている内容はほぼ知っていた。つまり、一般的な科学書に書かれていることは大雑把に網羅されていると言っていいと思う。「ブラックホール」「膨張宇宙」「重力波」とまったく違う分野に見えるが、すべてアインシュタインの「相対性理論」と関係があるので、まとめて理解するのに適しているとも言える。

さて、そんなアインシュタインだが、実は本書で扱われる3つのテーマすべてについて「過ち」を犯している。そのことに触れた本書冒頭の文章を引用しよう。

ところが、その自信は災いし、数々の間違いを起こすことにもなる。
(中略)例えば、シュヴァルツシルトが導いた解(今ではブラックホールの解として知られるシュヴァルツシルト解)に対して、「計算は合っているが、物理的にあり得ないような簡単な状況を設定しているようだ」と評した。また、宇宙全体が膨張している解を示したルメートルに対して「あなたの計算は正しいが、こんな解を信じるなんて、あなたの物理的センスは言語道断だ」とまで糾弾している。重力波の存在も、自身で一度予言しながら10年後には考え直して「物理的には存在しない」という論文を書きかけたほどである。つまり、現在の研究の主流である3つのトピックについて、いずれも一度は拒否反応を示したことになる

どれもアインシュタインの「相対性理論」から導かれるにも関わらず、アインシュタインは3つすべてに少なくとも一度は拒絶反応を示したのである。どれも今では当たり前のように扱われているテーマだが、そのような発想が生まれた時点ではあまりに異端で、天才と言われたアインシュタインでさえ受け入れられなかったのだ。

そしてそれは、科学の歴史で繰り返されてきたことでもある。常に科学は、それまでの常識を覆しながら新しい知見を積み上げてきたのだ。

本書は、そんな歴史的背景についてもきちんと理解できるので、科学的知識に上手くついていけない箇所があっても、最後まで読み通せるだろう。

相対性理論(一般相対性理論)に対する著者の感想

先述した通り、本書の3つのテーマはすべて「相対性理論」から導かれる。「相対性理論」には「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」の2種類があり、「重力」の効果を考えていないのが前者、考えているのが後者である。

本書では「一般相対性理論」が関係する。一般相対性理論から導き出される方程式は「アインシュタイン方程式」と呼ばれることもあり、その方程式を解くことによって3つのテーマが現れてくるのだ。

ちなみに、「アインシュタイン方程式」というと、有名な「E=mc2」を想像するかもしれないが、そうではない。この記事で言及する「アインシュタイン方程式」がどんなものなのか知りたければ、以下のリンク先に飛んでほしい(私にはまったく意味不明な方程式である)。

この「アインシュタイン方程式」、解くのが非常に難しいという(確かに素人目には何が書いてあるかさっぱり分からないし難しそうに見えるが、それは科学者にとっても同じ)。普通に解くことはまず不可能だそうだ。最近は、コンピュータのシミュレーションを駆使することで「それらしい答え」を導き出すことはできるようになったが、それは方程式を解いて出てくる「厳密解」ではない。アインシュタイン方程式の厳密解を導き出すのは、相当の難問だそうだ。アインシュタイン自身も、

彼本人は、この方程式をきちんとすぐには解いてみようとしなかった

という。

アインシュタイン方程式の厳密解として有名なのは「シュヴァルツシルト解」だ。先ほど「アインシュタインの失敗」の引用の中でも出てきた、後にブラックホールと判明した解である。シュヴァルツシルトは、アインシュタイン方程式を最も簡単な設定で解き、この解を導き出した。アインシュタイン方程式の初めての厳密解としても知られている。

さてそれでは、一般相対性理論は何が凄かったのだろうか。それは「重力の捉え方」だ。

アインシュタインが一般相対性理論を発表する以前は、ニュートンの「万有引力の法則」が重力を説明する理論として絶大な影響力を持っていた。重力が関係する、ありとあらゆる状況を説明できる素晴らしい理論だったのだ。

しかし「万有引力の法則」は、適切な計算により結果を導き出すという意味では非常に便利だったが、「重力とは何か?」という問いには答えられなかった。「万有引力の法則」において「重力」というのは、「どういう原理で発生しているのか分からない、謎の遠隔作用」でしかなかったのだ。

そういう中でアインシュタインは、「重力とは何か?」という問いに答えることに成功したのである。

重力の正体は空間のゆがみだ、とする考えは、アインシュタイン以外には誰も思いつかなかった。幾何学という数学を、自然現象を説明する物理学に応用したのは、彼の努力と物理的なセンスの賜物である

ここでは詳しく説明しないが、「空間が歪んでいるからこそ重力という力が生まれる」とアインシュタインは見抜き、それを方程式に落とし込んだのが「アインシュタイン方程式」というわけだ。その驚きを、著者はこんな風にも書いている。

途中で登場するリーマン幾何学のテンソル計算は、実に地味で、私自身も計算しながら、「よくぞこんな計算が重力に関係していると看破できたものだ……」と今でも思う

そんな方程式が、本書の3つのテーマの背景にあるということになる(しかし本書には、数式を解くような難解な記述は出てこないので安心してほしい)。

さて本書には、歴史的な記述も多く含まれているのだが、中でもかなり興味深いと感じた話がある。「アインシュタイン方程式」をアインシュタインとほぼ同時期に発表した人物がいる、というものだ。しかも日付だけを見れば、アインシュタインよりも早く論文を提出しているという。

「アインシュタイン方程式」の導出は、本当にアインシュタインの功績なのだろうか? この話を少し詳しく見ていこう。

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