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ドイツで未経験からUXデザイナーとして就職するまで

はじめに

4年ほど前に留学でドイツに来て、現在はフルタイムのUX/UIデザイナーとしてベルリンのIT企業でWebやアプリのデザインをして働いています。

2年前までデザインの仕事をしたことは全くなく、UX/UIデザインはこちらに来てからオンラインのブートキャンプ(約半年から1年くらいのコース)で勉強しました。

プログラミングを勉強して海外就職というのは聞くことがありますが、未経験からデザイナーとして海外で就職するというのは少し稀かもしれません。ただ、UX/UIデザイン学習の難易度や給与、需要の大きさを勘案すると、海外での就職を考えている方は選択肢の一つとしても良いと思います。


実際にUX/UIデザイナーとしてドイツで働いてみた感想は以下の通りです。

1.  仕事がクリエイティブかつ多岐にわたるので面白い(サーベイ・インタビュー等のリサーチ、ステークホルダーへのプレゼンからUIデザインまで。コーディングは全くありません)

2. 労働環境が良い(フルリモートワーク可能、フレックス、勤務は週40時間で残業なし、最低年間25日の有給)

3. 給与も悪くない(UX/UIデザイナーの平均年収は€53K≒年収700万円くらい、税金は高いですがベルリンの物価は体感的に東京よりも2-3割ほど安いです)【追記:2024年2月現在、Product Designerの平均給与は€73,978で、約1,100万円です(levels.fyi)】

4. インターナショナルで面白い(今までこちらで働いた会社は全て英語が共通言語だったので、チーム内で出身国が被らないくらい国際色豊かでした)

ベルリンに来るまでは東京でそれなりに激務な環境で働いており、割と心が折れそうになっていたので、特にこちらの労働環境の良さにはとても感謝しています。毎日9時間眠れるのは嬉しいです。

ただ全てがパーフェクトかというとやはりそんなことはなく、特にフルタイムの仕事を得るまでは非常に大変でした。また、アメリカほどではないにしろクビになる可能性も高いです。フルタイムの契約の場合、試用期間が半年あり、この期間中の雇用主による解雇は容易です。以前働いていたスタートアップでは、この期間中に同僚が様々な事情で解雇されていくのを見ました...。

この記事では全くの未経験からフルタイムのUXデザイナー職をベルリンで得るまでを書いていこうと思います。



前職と留学について

東京で文系の大学院を卒業したのち、官庁に入って国会の対応等の仕事をしたり、外資系のコンサルティング会社でプロジェクトマネジメントの仕事をしたりしていました。

色々と面白いこともありましたが、結局自分が何がしたいのかをよくわかっておらず、とりあえずそれまでで稼いだお金を使って夢だった留学をすることにしました。

ヨーロッパで英語で学べて学費が安い大学院にいくつか出願していたのですが、ベルリンの大学院から合格通知が届いたのを幸いに、卒業後何をする見込みもないまま、完全に見切り発車で渡独しました。(ちなみに、ドイツの国立大学は半年の授業料が5万円くらいです)

ベルリンでの生活はとても楽しく、できればこちらで就職したいと思うようになりました。ただ、政治学専攻であることと、かつ私のドイツ語力(中級程度)ではこちらで就職先を見つけるのは難しいだろうことは予想はできていました。文系の仕事であればやはりドイツ語は上級(C1-2)レベルくらい必要だと思います。

ちなみに英語力は日本を出る前の時点でTOEICは945点、IELTSは7.0くらいでした。スピーキングとリスニングについてはこちらで働くようになってから改善できたと思います。

幸いにも、在学中にベルリン市内のITのスタートアップでビジネス・デベロップメントの仕事(使用言語は英語と日本語)をアルバイトとして得ることができたのですが、卒業後にフルタイムの仕事を探すには他に何かハードスキルが必要だと感じました。


UXデザインとの出会い

そんな折、アルバイトで働いていた会社でUXデザインチームと連携をする機会があり初めてUXデザインの存在を知ることになりました。

それまでデザインといえばグラフィックデザインやWebデザインについてしか知らず、大学や専門学校で教育を受けたデザイナーがビジュアルのみを作るものだと思っていました。ただ、UXデザインの場合はUIを作る過程でユーザーへのリサーチや物事をロジカルに考える力が必要だと知り、自分の経験が活かせるのではないかと感じたことがきっかけになりました。

実際これは本当で、UXデザイナーとしての仕事の中でユーザーやビジネスの問題を見つけそれをどう解決していくかを考える際には官僚やコンサルタントだったときの経験が生かされているように思います。同じようにステークホルダーへのプレゼンも多いです。


UXデザインブートキャンプ

UXデザイナーになることを決めた後は、ゼロから学べるオンラインでのブートキャンプを受講することにしました。

英語でのUXブートキャンプは、General Assembly、Spring Board、IronHackなどいくつかありますが、オンラインで学費が比較的安く、ベルリンが本拠地のためドイツでの就職実績が多いCareerFoundryのコースを選びました。費用は当時で5,000ユーロ未満くらいだったと思います。

(興味のある方は受講料が5%割引になるリファラルのリンクを貼っておくので、良かったらどうぞ。日本からでもオンラインで受講できます↓)

https://careerfoundry.com/en/referral_registrations/new?referral=KrDeYz0D

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CareerFoundryのUXデザインコースの良い点としては、以下の点があげられます。

1. オンラインなので自分のペースで学習できる。(私はアルバイトをしながらだったため、UXのコースと付属のUIコースを含めて約10ヶ月かけて終わらせました)

2. 受講する過程でポートフォリオを作成できる。(就職にはブートキャンプ修了書よりもポートフォリオの方が遥かに重要です)

3. チューターとメンターからアドバイスをもらえる。(チューターはそれぞれのタスクのフィードバックをメールでくれ、メンターとは好きなタイミングでコールすることができます。メンターには基本5年以上就業経験のあるデザイナーがそれぞれの受講者に割り当てられます)

4. Slackで他の受講生とコミュニケーションができる。(オンライン・オフライン含めて数人の友人を作ることができたのはモチベーションになりました)

5. キャリアアドバイスのコースが充実しており、CVやカバーレターの添削をしてもらえる。

6. UXコースの他に付属のコースを、UI、Voice UI、Frontend Developmentから選ぶことができる。


悪い点はそれほどなかったと思いますが、付属のUIコース(2-3ヶ月くらいの分量)ではUIデザインのツールの使い方などの説明が不十分だったので、大部分は自分で勉強せざるをえなかったです。

ただ、FigmaやSketch、AdobeXDといったUX/UIデザインのツールはPhotoshopやIllustratorといったツールより習得が容易かと思います。

一般にUXデザイナーとして募集されている仕事でも、ミドルサイズまでの会社ではUXとUIデザインの両方のスキルが求められていることが多いので、UXだけでなく、UIデザインも学んだ方が良いです。

私はそれまでデザインの仕事を全くしたことがなかったためこのような一貫して学べるブートキャンプを受講しましたが、すでにグラフィックデザインやWebデザイン等の仕事をされていてUXデザインへのシフトを考えている方は、より安価なオンラインのコースをとって独学することも可能だと思います。

特にCouseraでGoogleが監修しているUXデザインコースはおすすめです。

https://www.coursera.org/professional-certificates/google-ux-design


ポートフォリオ作成と就職活動

上記のコースを修了し、ポートフォリオ用のウェブサイトを作った後で就職活動を始めました。

ポートフォリオはAdobe Portfolioを使って、1ヶ月くらいかけて作りました。一般的にプロジェクトは3-4つくらい載せた方が良いようです。

結果から言うと、就職活動を始めて1.5ヶ月後にオンラインでの日本のフリーランスの仕事、その2ヶ月後にベルリン市内のスタートアップでのインターン、その3ヶ月後にフルタイムの仕事を得ました。現在は別のミドルサイズのベルリンのIT企業でProduct Designer(≒UX/UIデザイナー)のタイトルで働いています。

特にブートキャンプ修了からの2-3ヶ月の就職活動は、ちょうどコロナの影響が出始めた頃でもあり、非常に大変でした。

実績を作るため、まずは日本から短期のフリーランスの仕事を得ることにしました。東京のUXデザイン事務所に直接メールで応募し、運よく短期のプロジェクトに入れてもらえることになりました。

その仕事と並行しながらベルリン市内のUXデザイナーの求人(インターン、ジュニアレベル、ミドルレベルも一応)に応募しました。記録をつけていなかったので正確には覚えていませんが、40-50社くらいは応募したと思います。一応東京の会社にも応募し、何度かオンラインで面接もしました。

この時使っていたプラットフォームは、主にIndeedとLinkedInです。その他にスタートアップの求人が中心のAngelList等も使用しました。特にLinkedInは重要で、リクルーターからスカウトが来ることもあるため、毎日チェックしていました。

実際にインターンの仕事は、LinkedIn上でスタートアップのCEOに直接メッセージをしたことで面接に漕ぎ着けることができました。なお、今の仕事もLinkedInでリクルーターから声をかけてもらったことがきっかけです。そのため、LinkedInには常に最新の職歴を載せ、ポートフォリオのリンクを貼ることをお勧めします。


一般的なUXデザイナーの求人プロセスとしては、以下の通りです。

0. 書類面接(CV、カバーレター、ポートフォリオ)もしくはリクルーターからのアプローチ

1. HR面接(30分から1時間)

2. Head of Designもしくはスタートアップの場合CEOとの面接(1時間)

3. デザインチャレンジ(オンサイトのホワイトボードチャレンジもしくは宿題形式)もしくはポートフォリオのプレゼン

4. 最終面接(1時間)

もちろん会社によって変わってきますが、大体こんなところだと思います。デザインチャレンジはあるところとないところがあります。


就職活動をしていた2-3ヶ月のうち、少ない時は週に1-2回、多い時は毎日面接がありました。しかし、やはり実務経験がほぼないことことが大きなネックになり、ポートフォリオのスクリーニングやデザインチャレンジを突破したとしてもお祈りを受けることが多かったです。(ドイツにもお祈りはあります)

2ヶ月経ってもインターンすら決まらずもう日本に帰ろうかと思っていたところ、先述のスタートアップのCEOからLinkedInで返信があり、面接やデザインチャレンジを経てインターンとして受け入れてもらえることになりました。しかも、3ヶ月のインターン後はパフォーマンス次第でフルタイムとして働くことができるということだったので、喜んで契約を結びました。

この会社はアーリーステージのスタートアップだったため、インターン及びフルタイムの給与はかなりひどいものでしたが、この時は給料よりもフルタイムの契約とそれに付随する労働ビザを得ることが最重要課題だったので目をつぶりました。

ちなみに、ベルリンで労働ビザを得るのは容易で、年収約30Kユーロ以上の仕事の契約書があれば許可が降りるはずです。今はブルーカードという定住許可を2年半で取れる別のビザを保有していますが、この種類のビザを得るにはITやデザイン系の仕事であれば確か約43Kユーロ以上の年収が必要だったと思います。


おわりに

以上がドイツで未経験からフルタイムのUX/UIデザイナーの職を得るまでの体験談です。

他業種からの転職が比較的容易かつ給与が高水準というのもあり、ジュニアレベルのUXデザイナーの就職難易度は非常に高いです。私がインターンとして採用されたUX/UIデザイナーのポジションには、約250通の応募があったと後に聞かされました。ただ、一度インターンなりで経験を得ることができればその後のキャリアパスは悪くないのではないかと思っています。

少なくとも私は今のところとても楽しく仕事ができているので、今後もUX/UIデザイナーとしてのキャリアを積んでいきたいです。

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