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作詩-言葉たち-

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言葉を紡ぎ 詩を編む。 電子の海に浮かぶ一遍の詩集をどうぞご賞味くださいませ。
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2014年10月の記事一覧

優雅な幸福

少女であった頃
私の背にも
翼はあったのかしら

すきなものをすきと云える
嫌いなものは放り投げて
世界すべてが砂糖菓子
甘すぎて苦くすらあった
セピアよりも鮮やかな時

瞬きの今を
何より大切にしていられた
私はいつから少女でなくなったのか

天鵞絨の温室で
涙を流す暇もない幸福を
お茶に流して味わう私は幸せね

時だけが流れゆくこの場所で
あなたに語り掛ける

ああ わたし
優雅に生きていまし

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真夜中のメリーゴーランド

夜の遊園地に訪れるお客さま
月も届かぬ都会のまん中で
心ゆくまでお楽しみを

人形みたいな小人が
妖精の翅で舞う木馬を乗り回すと
煌めく粒子が舞い上がる

空のお星さまでも落っこちてきたの?
けど それもいいわ
お空じゃ一緒に遊べないもの

静かで賑やかな祝祭
誰もしらないお祭り
人がけして招かれぬ妖精の遊技

けれど終わりはやってくる
夜が暁を迎え
空に光が滲み出す

さあさみんな おうちへ帰ろ

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カタリ。

ああ涙ひとつ
ゆるせない

骸になりそうな心臓に
無理やり心を当て嵌めて
ヒトという形を取らせようと

歪な自分を歪で埋めて
腐蝕の侵食をゆるしてく

わたしが望むのは
肉体の死による開錠でなく
魂の咽び泣きを許すこと

生まれながらにすべてを憎む
許すことができない
自分自身も
産み落とした存在さえも
はじめっから厭で
憎んでいたわ

だから無関心を纏って
突き放すしかなかったの
触れるものすべ

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生ける者の忘れ形見

陽の光も削られる森の奥
木々に覆われる硝子の棺に
眠る 少女

荊が茂ることなく
城にも守られぬ
真白の少女こそ
生ける誰かの忘れ形見

生きてゆく
成長する
道の途中に
捨てたことすら知らぬ間に捨てられた
少女の魂

何人触れえぬ
玻璃の棺に納められ
誰を待つのか

還れず
帰れず
仮死状態の心臓も
いずれ刻を止める

それでも時折
森を踏みしめる音がする
忘れかけたあの子を
思い出した貴女が

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愛と真

黄金の蝶
その翅の行方に
彼の魔女は居るのか

微笑みに兆すは慈悲か
それとも残酷な嘲笑か

赤色に隠された
魔女の真実をさがしてごらん

それはけして事実ではない
真実はひとつではない
けれど確かに在るのだから

繰り返される宴は
悲しい物語を綴るけれど
「愛がなければ視えない」

だからどうか気づいて
繰り返される過ちも
哀しみの連鎖も
嘘に隠されたモノも
綴られた虚構と捨ててしまわないで

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華の宴

蘇芳の色に薫る
革張りのソファに凭れ
燻らす煙管
漂う煙の先
興ずるマスカレイド

一夜の夢は
千夜一夜より深いのに
淡く儚い正夢になるわ

花のドレスは貴方のためよ
華やぐ夜会も宴さえ
貴方にお会いする
口実でしかないの

昼の世界とひとときの別れ
王妃の位も 母の貌も
仮面の下に隠してしまえば
わたくし ひたすら貴方のものに

どうぞ愛を囁いて
ここは夜の夢だから
暁が訪えば みな夜露
わたく

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天への逢瀬

いつもの空にあなたがいない

天は気まぐれ
雲の天蓋で覆って
遠い彼方にいる貴女を
もっと遠くに感じさせてしまうの

いつも其処にいてくれる
感じることはできるけれど
やっぱり逢いたいのです

地上の人口灯
天上の夜空を掻き消さんと
光を放つけど
でもそれはどこか空虚で
淋しい光

命燃やす星灯りよ
昼を水面に湛える月よ
また明日に逢おう
繭の中がうつろになる前に
僕の裡をみたしておくれ

だから

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月下美人

時間が止まる
森の奥
あらゆる時が止まる

水は巡りを止め
風も葉音ひとつ揺らさない

木々が落とす露が
葉先に留まり
瞬間を待ちわびる

月下美人
太陽と月が照らす
神の花

陽の光が彫る真白
真昼の月に薫る清廉

古に夜に咲き
清かに月と語らう花
焦がれし太陽が夜を覗き
垣間見た奇跡

刹那 昼と月が 交る

緑の鮮やか
息を吹き返す
時がまた呼吸を始める
夜が終わり
逢瀬もまた明け
後朝の歌

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毒の徒花

女はワルツ
踊り立ち回る
戦場こそ天上
華麗なる
高貴なるお血筋の褥

淑女の悪女
闇を粧い
輝石に照らされ
今宵も一輪
ガス燈まみれに華と咲く

毒し毒され
望みはなあに?

もちろん夢よ
明日とも知らぬ我が身の夢よ
盛りの内に散るが華

花の世の移りにけりなど無粋もの
夢に咲くがわたしと花よ

眺めているならお摘みなさい
一夜の薫りを魅せてあげてよ

闇夜の薔薇は名も無き花よ
宴もたけなわ

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老人と月

満月を燭台に掲げて
闇いろの夜に捧げる祈りよ

月の満ち欠けと共に
背負い続けた背は
過ぎゆく時を沈黙に語る

語り部には重すぎて
葬るには罪深い
悔いよりも重い十字が
祈りの月に照らされる

救いすら求めず
祈るその背に
与えられるものはない

老いた細腕に嵌め込まれた時計は
あの日から動かない

その身隠れたとて
錆びさせた時は動かない

罪を抱えたまま
炎に消えてしまうから。

©2014 

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わだつみの哀

母なる海よ

太古の歴史 見守る貴女は
涙色を湛えて我らを包む

天と地の狭間
訪うものの哀しみを
塗り潰すことなく
ただ其処に在るを示す
その潮騒に幾度 救われたろうか

時に大いなる禍と為りて
命を闇に曳き込み
悲しみを齎す貴女は
すべての命の始まり 還る場処

それは貴女の寂しさなのでしょうか

哀しみを預け 委ねすぎた
貴女の哀しみも いとしすぎる愛も
知ろうとしなかった
貴女の切なる叫び

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ゆめの記憶

それはまるで細胞分裂
蠢く原始の欠片
鮮やかを鮮やかに
静謐なる胎動へ

そして
光の花
咲いては死んでゆく
そして
また新しい命咲かせてゆく

光の営みが
身体の底 眠る記憶と呼応する
知らされずとも
知っている
聖なる
母なる

心より
記憶より
本能より
もっと奥にある
命あるモノが等しく抱える
おもひでを

光の花にそっと喩えて
闇の天井に垣間見る

ああ 万華鏡

©2014  緋月 燈

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ただ、ソレダケ

刻々と 不変なく
変わりゆくこの空に
それでもあの日の色が隠れている気がするのは
空が繋がっているから?

地球は丸くて
どこにいたって
どこかに繋がっているように
海を 山を 空を通して
君と共にいる

宝探し
青い鳥ではないけれど
君と見つけたブルー・フラワー
空に閉じ込めた青の匂い
君も憶えている?

ああでも
それよりも
僕は君に逢いたいんだ

©2014  緋月 燈

AmijakanW

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花迷宮

あれは 夢?

必死ではためかせていたのは
蝶の翅
舞と呼ぶには悪足掻きな
飛翔を優雅と
誰が呼ぼうか

それでもわたしは蝶らしく
花を求めて彷徨うの

花は万華鏡の星屑のように
鮮やかな色色を鏤めて
哀れな蝶を惹き籠める

鮮やかすぎる花の迷宮は
わたしを捉えて離してくれない
手招く蜜は甘い毒
渇いた喉を癒せないのに
もっともっと欲しくなるの

眩しい迷路の果てには ああ
渇き切った蝶が
大地を

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