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私は、イエナ書店で何を見ていたか?

 かつて銀座5丁目にイエナ書店という洋書店があった。
 近藤書店という書店の、そのまた上の3階。
 2002年1月に閉店となった。
 私がそこで見ていたのは、タイポグラフィの本だった。

 タイポグラフィとは、文章を読みやすく見せるデザインの手法と、文字で1つのデザインを作る手法の2つの意味合いを持っていて、当時の私には新鮮だった。

 80年代終わりにヨーロッパを旅したくて、毎日、アルバイトに励む美大生だった私には、高額な洋書など到底買えない。
 食い入るように何冊も、次から次へと洋書を見て帰るのだ。
 手に入れられるのは、『i-D』(UK)という薄い雑誌くらいだったけれど、これは宝物だった。
 イギリスを代表するアート、デザイン、カルチャー雑誌で、元VOGUEのアートディレクター、テリー・ジョーンズによって創刊されたものだ。

 
 新卒で入社した会社では、思いがけずパッケージデザインの部署に配属になったので(広告宣伝が希望だったのに)、小さいお菓子の中に、それこそ「文字そのもの」をデザインとして落とし込む作業もあった。
 タイポグラフィには、無限の可能性があると思っていた。
 
 
 ということを思い出したのは、いつもとても綺麗な誌面を作られるALOHADESIGNさんの記事に、ネヴィル・ブロディの名前を発見したからだった。
 いつも楽しみなALOHADESIGNさんの記事。
 (ALOHADESIGNさん、勝手にご紹介お許しください!)
 

 ネヴィル・ブロディとジョナサン・ボロフスキーの図録を、
 毎日のように飽きずに眺めていた頃を、久しぶりに思い出した。
 ALOHADESIGNさん、ありがとうございます。

 白かった紙が茶色に変色している。
 それでも、捨てられない。
 今でも好きなのだ。

 音楽と絵やデザインは、繋がっている。
 そして、私の好きなテイストは変わらないのだろう。


 まだまだ現役でロックバンドでギターを弾きながら、カメラマンを生業としている当時の友達と食事をする機会があった。
 彼は夢であった音楽雑誌の表紙の撮影や、音楽イベントでアーティストの撮影をしている。
 「俺さ。息子に音楽とかデザインとか、そっちにすすめば?楽しいぜ!って言ってみたんだよね。でも、やらないって。断られた〜!」
 真面目な息子さんは、理系の道へ。
 しかし、そもそも彼自身は教師をされていた両親の元で育っている。
 お兄さんは小笠原諸島で暮らし、碧い海でダイビングに関することをされていたり、また、以前フジロックで鯖サンドのお店を出したり、自由で楽しそう。
 
 隔世遺伝で繋がっていくのか?ストレートに血を引くのか?
 なんていう話を笑いながらした。

 そして私も同様に、2人の子供に勧めたてみたが、どちらも音楽もやらないし、絵も描かない。
 息子には、本気でジャズピアニストになってほしかったのに。
 親を見ていて、大丈夫か?と心配になった可能性は否めないね、と話を締めくくった。
 でも、きっと遺伝子には組み込まれているのだろう。
 音楽も絵画も、人生を豊かにしてくれる。

 そうは言うものの、私自身は今、音楽や絵の世界から離れてしまっている。
 生き生きしていない自分を感じる時が、頻繁にある。
 「大人でいることが大切な時期」があって、引き続きそれが続いている格好だ。
 しかし、わけ知り顔の大人にはなりたくない。
 中身は変わっていないからだと思う。
 大人だとか、親であるとか、役割を離れた時にある自分を、いつも探しているのだ。

 一生、イエナ書店で『発光』していたころのようなエネルギーを持っていたい。
 いつかまた、方向転換するのかしら?
 今のところ、そのタイミングは私自身にもわからないけれど。
 
 noteを書き始めた頃に書いたボロフスキーの夢日記の話があった。
 夢日記を再び、書いてみようか。

 夢は、現実よりも先にくるのだって!
 


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