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頑張れペーペーズ!

まったくの素人アート・ディレクター

僕は28歳までバンドをやりながらバイトをして生きてました。
でも客商売のバイトではなかなか週末に休めないですよね。
その頃、自らが主宰する草サッカーチームを持っていたので、もっと日曜日にサッカーがしたいという理由から就活をして、縁あって出版社に出版や印刷のことを何も知らない状態で入社しました。

1990年のことです。
この業界の何もかもが初見・初体験でした。
ルーペで印刷物の4色の点々を見せてもらって、カラー印刷物の全てがこの4色の点々で出来てることにビックリしたくらいです。
それどころか、新聞でも雑誌でもそうですが、すべての印刷物の文字の内容も配置も、人の手によって生み出されていることに驚愕しましたよ。
考えれば当たり前のことなのに、そんなことを改めて思うことなんて一度もなかったくらいでしたから。

最初は編集者として入社していくつかの本作りや企画などに携わり、その後、営業を手伝いながら広報と編集もやってました。
その広報活動の中に、出版社宛に届いた愛読者カードの送り主を対象に、希望者には出版社の広報媒体を定期的に送るというのがあったのですが、その管理や広報物の制作を僕が任されてました。

広報リーフレットをGARP(Graphic+Art+Review+Preview)と名付け、僕がコンテンツを決め、アート・ディレクションをやって、相棒のようなデザイナーと一緒に制作し、愛読者に発送してたんですね。
出版社の出版物を宣伝するのがメインですが、無名のクリエイターの作品を表紙に使ったり、ギャラリーコーナーを作ったり、アートグッズの通販や展覧会の情報コーナーなども織り込んだスモールなアート&自社出版物の情報誌でした。


GARP

僕はそれまで「デザイナー」なんていうものは「ファッションデザイナー」しか知らないくらいに何にも知らない若者でした。
でも、このGARPの制作は、それは楽しいものでしたよ。
ネヴィル・ブロディなどのデザインに影響を受けて、様々なデザインを試してみました。
この時期、世界中の雑誌を見まくりましたからね。
僕はこのGARPを、そんな風に自由にやらせていただけたおかげで、デザインやディレクションやクリエイティブの練習をたっぷりさせてもらいましたし、デザインやディレクションの楽しさをしっかりと植えつけられたんですね。
で、やっぱり、自分で一冊丸ごと、書籍をデザインしたいなーという野望も生まれてきたんです。

初めてのブックデザイン

入社から6年ほど経った1996年頃には、編集部とデザイン部を束ねたクリエイティブ部門を設立されるのを機に、クリエイティブ部門の取締役統括部長という肩書きになりました。
つまり編集もデザインも最終決定権は僕にありますから、自らのクリエイティブは僕の意のまま、ということになりました。笑

広報物のデザインはやってましたから、それなりの引き出しはありましたが、デザインをちゃんと勉強もしていないし、そもそもデザインなんてものの存在に出会ってまだ5〜6年ほどのペーペーなわけです。
もちろん自らをデザイナーと名乗るわけもなく、ただのクリエイティブ・ディレクターでした。
だけど、自由に本を作れる立場になったのを利用しない手はないですよね。
しかもなぜかセンスあると思ってましたから。笑
そんなタイミングで、ビジュアルよもやま図鑑の話が来たので職権を発動して即挙手。
「僕がデザインやる!」
そして初めて手がけた本がこの『Flippers』です。


Flippers

クジラやイルカのすべてをビジュアルで解説するオールカラー200pの豪華本です。
クジラ・イルカの生態から種類解説、クジラ・イルカが登場する小説や映画などの紹介からクジラ・イルカ・グッズなどまでも網羅した、面白うんちくビジュアル本なんですね。

今思えば随分とやらかしています。w
そんなデザイン必要か?ということを欲望のままやっちゃってますからね。
まだ若く、デザイナーとしてのデザインとはなんたるかを知らないペーペーが自由にやったブックデザイン処女作なわけですから仕方ない。笑
でも、今眺めても、やらかしてる部分はあったとしても、なかなかいいセンスしてるんです。笑
本としても今までにはなかったタイプの本でしたし、売り上げ的にも好評で、3000円を越える価格だったにも関わらず2万部以上の大ヒットでしたから。

デザインを楽しむこと

それはもう楽しかったのを覚えています。笑
この仕事を皮切りに、ひっきりなしにデザインを始めてしまうんですね。
まるで猿のなんやらのように、もっともっととやっちゃうんです。笑
それくらいデザインって僕に向いていたのかも知れません。
デザインの脳内空間とミュージシャンでコンポーザーだった僕の脳内空間の使い方がとても似ていたのです。
 
そこは音楽脳とデザイン脳の同じキャンバスを使ってクリエイティブ作業を行なっていた感じです。
だからデザインという作業が僕にすぐにフィットしたのだと思います。
でも、僕のデザインに対して、つまらないディレクションや誰のためなんだよというようなデザイン潰しをする人が誰もいなかったのは大きかったと思います。
制約や忖度など必要ないんだよという世界に触れることからデザインの世界への門戸を叩いたものですから、「デザインって自由でいいんだ!」という教えが僕の入門書だったのはラッキーでした。
自信をつけることも、反省することも、すべて僕が制約・抑制なしにデザインした結果で得られたわけですから、その「引き出しになる度」は半端なく大きかったのですね。
そうして僕は、その後の僕のデザイナー人生の評価を決定的にしてくれた、自分が自由にデザインするビジュアル・インタビュー・マガジンの創刊に繋がっていったのです。

****
 
例え、多くのデザイナーとは異なる特殊ケースな経験ではあったとしても、デザイナーをこれから始めるペーペーズに言っておきたいことがあります。
 
今のペーペーズは、僕なんかのペーペー時代とは比べ物にならないくらいちゃんとしたスキルを持ってスタートしています。
ましてや10代や20代になりたてという若年で既に、「なりたい職業としてのデザイナー」を目指して勉強をして社会に出てきた人たちです。
尊敬しかありませんし、僕なんかよりも経験が浅いからと言って見下す要素は何一つありません。

それでも、「芸術家」ではなく、あくまでもクライアントの望むものを、自らのセンスと力量で、想像以上のものを叶えてあげる、という「商業デザイナー」という特殊な仕事の現実社会に繰り出す方々へのささやかなアドバイスをね。笑


デザイナーに成り立ての時期には
デザイナーの役割がなんだとか
デザイナーのオナニーがいけないだとか
クライアントの身になって考えろとか
この業界のトレンドはこうですよとか
そういうある意味「必要な本質」をデザイナー以外の誰かから兎角押しつけられます。
自分が思うデザインをやらせてもらえないことはきっとたくさんあると思います。
それで腐って卑下して、自分の才能やセンスの根幹を低く見誤ってしまうこともあるかもしれません。
でもね。
デザイナーの役割がなんだとか
デザイナーのオナニーがいけないだとか
クライアントの身になって考えろとか
この業界のトレンドはこうですよとか
そういうある意味「必要な本質」はこの際おいとけばいいと思うのです。
自分がいい!と思うデザインをやってみてください。
多分、却下されます。笑
それでも、自分がいい!と思うバージョンをやってみたかどうかは絶対に大きいと思うのです。
忖度の範疇でしかデザインを学べないとしたら、きっといいデザインが生まれる可能性が狭くなってしまうと思いますから。
どんどん、自分がいいと思うデザインをやって、デザインを楽しんで、自分がなりたいデザイナーになっていって欲しいと思います。
そうこうしてる内に、あなたの本当のセンスは、忖度に塗れたデザイン上にもちゃんと現れてきますから。
それが重なると、その部分を見てくれてる人が現れて、どんどん任されて頼られる仕事が増えてくると思いますから。

それでも、何も進まないし、ここにいたらこれ以上学べない!と思ったら環境を変えましょう!
そういう人はいつか絶対に、他人に認めてもらえる技量が身につきますから。

春ですから。
みんなで楽しげに頑張りましょう!!w


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