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あなたがいなくても社会は回るけど

夫と出会った25才の頃のわたしは廃人だった。電車に乗って、ふつうに生きてる人を見るだけで高熱を出した。

心因性発熱。適応障害。鬱病。

そんな羅列でカテゴライズしないでよっていう意地だけは残ってて、1回で病院へ行くことを辞めた。治したところで社会に不要であることは変わらない。

大学のほとんどの人達をブロックして、全てのSNSを消した。貯金がなくなったらこの世界から消えればいいと本気で思って、半年間一度も街から出なかった。

「合わないなら仕事なんて辞めればいいよ」
「大学の人たちなんてただの僻みだよ」
「君は何も悪くないよ」

夫はずっとそう言い続けた。絶対にわたしを否定しなかった。この人にいつか恩返しするんだという意思だけが、私の命をつないでくれた。

夫みたいな人になりたいと思った。人を否定しない。興味関心を持たない。話し掛けられたら笑顔で応える。そうすれば嫌われることも好かれることもなく、依存することなく生きていけると信じた。

だから夫の真似をして過ごした。素の自分は画面の中に留めた。びっくりするほど生きやすかった。コミュニケーションってこんなに簡単なんだって、わたしはどれだけ不器用だったんだって、思い知らされた。ときどきふと、誰もいない道で涙をこぼした。

31歳の今。電車に乗れるようになった。それなりに人と話せるようにもなった。老若男女問わず嫌われることも減った。

でもそれはわたしなのだろうか。わからない。わたしは今どこにいるのだろうか。わからない。わたしという存在はやっぱり25の時に死んだのではないだろうか。きっとそう。

みんなが優しくしてくれるのは夫の真似をしてる私。わたしじゃないのだ。

酔った勢いで友だちにそう言った。口にした後に後悔した。引かれてしまったのではないかと。でも違った。

「それはちゃんと君自身だよ。言葉や行動にする前に、頭で考えた言葉は君のものだもの。君が良い方向に変わったんだよ」

そう言った後に平野啓一郎の分人を勧められた。ビアードパパのシュークリームと共に。

あなたがいなくても社会は回るけど、あなたがいなくなっても社会は止まらないけど、あなたがいることでいつか誰かに影響を与えるんだよって、あの日のわたしと同じような人がいたら伝えたい。

4月は嫌いだった。だけど今年は。
少しずつだけど前進してる気がする。
出会えた人たちのおかげで。

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