見出し画像

未知の鼓動 -日々是アート- 2023

それは視えてくるのです。
己が求めに導かれて顔を上げると、未知の鼓動は聞こえます。
あの時この時、あの場所この場所、鼓動の響きが聞こえてくる処へ、どうしても逢いに行きたくなったのです。

2022 MOMASコレクション 第3期@埼玉県立近代美術館 on Jan. 31st,2023

珍しく渡河のため、少し足を延ばしこれが2度目の同館へ。前回の彌生ちゃんからもう11年!
コレクションから、20点程の展示と「まるく/まわる」と題した展示。小規模でしたが幾つかの新たな出逢いが。
上田薫「ジェリーにスプーンC」は作品全体からの”弾ける躍動”でインパクト大!
キュビスム風の2点はやさしい色使い、少しカンディンスキーも思わせます。瑛九の名前、記憶に留めます。
三尾公三「蒼天の刻」はシーツに顔でシュールな世界、色使い含めこちらはマグリットを彷彿させます。
テーマ展示は「目は最初の円、視界が第2の円。自然の中にはその図形が果てしなく繰り返されている」とのメッセージに招かれます。プロダクト的だったり、破壊/浄化or死/再生などなど、捉え方と表現はやはり多様です。

名品展 国宝「紅白梅図屏風」/特集陳列 人間国宝・中野孝一 蒔絵展@MOA美術館 on Feb. 20th,2023

時間がとれたので少しだけ西へ足を延ばし初訪館。眼前に広がる海と空と雲は絶景!
久方ぶりの紅白梅、仄暗い室に金色の背景が映えます。両の梅と水流の配置はいつ観ても絶妙で、梅それ自体も花と蕾とをバランス良く描き分けられ、水紋や枝ぶりも見事です。
すぐ手前の室には”月下”と名付けられたモノクロ写真の同屏風があり、渋く静かにインパクトを放っています。
野々村仁清「色絵藤花文茶壺」は初見か? その端正さが魅力。
「花唐草七曜卍クルス文螺鈿箱」は朝鮮、切支丹の様式も合わさり、少しゴージャスでいて何やら触れてはならない秘匿な感じも…
今尾景年「松花孔雀」は豪華さに目を奪われた後、凛とした佇まいに惹きつけられます。
中野孝一の蒔絵の室では文字通り感嘆。出色の9点に思わず「美しすぎる」と口走る自身がいました。優劣はつけ難いですが、強いてあげれば「蒔絵梅花文箱」「蒔絵四方盆 洸」 また、漆額「創生」は240枚の様々な図案パネルでそれは圧巻でした。螺鈿蒔絵好きの自身には堪らない展示で幾度も巡りました。

パリに生きた画家たち マルケ、ユトリロ、佐伯祐三、荻須高徳が見た風景@ヤマザキマザック美術館 on Feb. 22th,2023

パリ、其処は素敵な場所です。そんな描かれた街角に囲まれる至福のひと時を過ごします。
企画展前室では同館の印象派コレクションが迎えてくれます。内装と相まって少しルーヴルを彷彿させる?
マルケはおそらく初見。暈した色合いでの筆致から静かなパリの雰囲気が伝わりますが、自身には地味と感じてしまいます。
ユトリロ、昔からその名は知るも…の作家。「ムーラン・ド・ラ・ガレット」は小品故の緻密な描写が気に入りました。「サン=ヴァンサン通りとサクレ=クール寺院」の白い塔、印象的です。
お待ちかねの佐伯祐三。やはり、主だった作品は東京sta.での回顧展に出向いているようで少し残念ですが、他作品とは違った荒々しさが魅力的な「オーヴェル風景」は、街角を描いた「プティ・レストラン」と共に特に心に残っています。
残念な気持ちは荻須高徳作品のお陰である程度カバーされました。「エドガー・キネ通りの市場」の秀逸な人、ポスター、建物の配置、「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」には暫し魅入り、「”リカール”の広告があるタバコ屋」の渋い佇まい、そして「運河の雪」の白は効果的に印象を残しています。
ガレの作品にも出逢いました。数種の中でも花器が、カーブが美しく艶めき、モチーフ含めたシックな色合いが艷やかで仄暗い室で映えていました。

コレクション展-大地をみる-/トポフィリア 山田沙奈恵展@富岡市立美術博物館 on Feb. 24th,2023

最初の中村節也「荒船山」、小品ながら同山のしっかりとしたどっしりさがくっきりと伝わります。日置宏輔「街(鹿児島)」は萌えるような桜島が印象的。今井行輝「葛西の干潟/新木場/濹東水郷」3品とも淡い色調で対象に在る雰囲気がよく出ています。仁木和夫「トレドⅨ」の繊細な線描を重ねて街を描く技法は足を停めますが、これは実物でないと分かりません、きっと。
トポフィリアは”場所への愛”だそう。あまり時間がとれませんでしたが、それぞれ、場所と人との情緒的つながりが垣間見えたような気がしています。

没後30年記念Ⅱ 福沢一郎 自然と人間を見つめて@福沢一郎記念美術館 on Feb. 24th,2023

4年前の春に竹橋で出逢って以来切望していた本籍館訪問。実現させました!
「菜と葱」近くの野菜と遠景の荷馬車の対比、魅せられます。
「雲」独特な構図に立ち停まってしまいます。
「海」深い緑と群青の色彩から大きな力強さが溢れてきます。
「復興/世相群像」1946年作。絶望と混乱を表現する中で何を見据えていたんでしょう。
「題不明」複数色の幾何の組合せ。不思議を感じました。
「ノアの方舟の出来事」静かな迫力。滅びではなく生き残り(復活)のはず…
「踊るニンフ/牧神とニンフ」背景(空/大地)は明るく開放的
「闘牛のための習作」敢えて?荒々しい筆致のデッサン風に取り込まれます。これ欲しい!
「闘牛(スペインの祭)」背景の赤が鮮やかで其処の雰囲気が伝わってきます。
今回の展示テーマ故か前回感じたようなシュールさはほぼなく、福沢さんの新たな面を知ることが出来ました。

コレクション展示@群馬県立近代美術館 on Feb. 24th,2023

豊田一男「妙義と梅」淡い色合いでの水墨画っぽさが存在感を示します。岡 鹿之介「花と廃墟/段丘」背景と花との遠近組合せが歩みを遅らせます。南城一夫「オルガン」は静物画のよう、何故かすごく気になってしまいます。「人間嫌い/嘘発見器/他人の恋」こちらの福沢一郎はシュール、流石の着想でやっぱり好みです。「わかれ道」ヴラマンクのパリは素直に素敵ですね。「世界の外のどこへでも」これがシャガール? 珍しい構図、面白い。「ポール・ヴィヤール博士の家族」デュフィの人物画も珍しい、初めてかも知れません。
ロベルト・マッタ・エチャウレンは初見、「眩暈の懐胎」には不思議な磁力?パワーが。河原 温「I GOT UP AT…」は絵葉書の連作、以前にも逢いましたがさて何処で… 「Pumpkins」「レペティティブ・ヴィジョン-ファルス・ボート」は多分初見、彌生ちゃんのインパクトはここでも。
マティス『ジャズ』が20点揃っていました。体力面からの切り絵制作だったそうですが、どれもいきいきと明るく楽しくそしてポップで観ている心も踊り出しそうです。
荒川修作の図式/図形と言葉で表されるものは、直感的に入ってきて右脳と左脳両方が動き知的に刺激を受けます。その後もずっと脳裏に残って…
上毛三山を描く、高橋常雄「故山春雪」素晴しい!「榛名山」雄壮! 川瀬巴水「前橋敷島河原」夕映え見事! 成田一方「妙義山秋色」美しい!

CALLE ONiRiA@駐日スペイン大使館 on Mar. 10th,2023

東京の人々を切り取ったモノクロの展示。静止していても其処には人々の息吹が感じられるよう。
この国は、こんな大都市でもまだまだ多様性があるとはお世辞にも言えませんが、自身が日頃目にしているよりも遥かに多様な姿が写っており、観る側のファインダー位置も重要なんだと気付かされました。
アートに出逢うことで大使館初入館が出来、スペイン、更に惚れました。

アール・ブリュット ゼン&ナウ Vol.2 Echo こだま返る風景@東京都渋谷公園通りギャラリー on Mar. 10th,2023

渋谷のそれも公園通り沿いで鑑賞できることに意味があります。
街の風景を独自の眼差しで再構築する6名。独自の世界観や視線で捉えられたものが、構図や描き方もこれまたユニークさ満載で表現されています。
磯野貴之「でんちゅうでんせん」その一途さがスゴい
辻勇二「心でのぞいた僕の街」超細密な描き込みは山口晃をも彷彿とさせる
後藤拓也「いえ」グニャッとした作品に和む、ステープラーが良いアクセント
佐藤慶吾「ホテル」カラフルでどれも屹立した建物達
横溝さやか どの都市も賑やかで楽しい、画の中の笑顔のように観ているこちらも笑顔に
古久保憲満 超細密、離れて眺めるとまるで中世の城塞都市のように観える不思議
観終わって、何故”アール・ブリュットというカテゴライズ”をするのかに疑問が。

ゲリラ・ガールズ展「F」ワードの再解釈:フェミニズム!@渋谷パルコ on Mar. 10th,2023

頭でっかちになりたくなくて行ってみました。広くはない展示スペースが当事者アピールで一杯!
「苦情処理部門を設置」と称して付箋での投稿を募集、来た人達のナマの声々を興味深く知ることが出来、自身も投稿してきました。此処でも”カテゴライズ”への疑問に直面…
行ってヨカッタ!

六本木クロッシング2022展:往来オーライ!@森美術館 on Mar. 13th,2023

現代美術は、当り前ですが”いま”を切り取ります。3.11/地球環境/ジェンダー等々 勿論コロナも。自身も同時代を生き解っているつもりでも、自己の枠外からの投げかけに少しガツンとやられる、そこが良いです。
青木千絵 磨き上げられた漆の美しさが素晴らしく少し変?体な作品を輝かせます
呉夏枝 染布を織り編んで映し出されるとまるで海原をゆく帆船のよう
やんツー 無人化された物流倉庫にはコロナのみならず色々と考えさせられます
SIDECORE「EVERYDAY HOLIDAY SQUAD」工事現場から街を俯瞰する新たな視点
併催の「MAM COLLECTION 016 自然を瞑想する」では、久門剛史「フォオンタイズ—チェンマイでの対話」が推し。静かに眼を閉じるだけで其処はジャングル、確かに”気配”を感じます。
モダンアートはテクノロジーの前線でもありますが、”human being 回帰”の場でもあります。

World Book Design 2021-22@印刷博物館 on Mar. 28th,2023

独仏墺蘭加中日の国内及び国際コンクールでの入賞作を一堂に展示。書物ですから見た目の派手さはないですが、其々のデザインのしっかりとした主張を感じずにはいられません。「面白そうなものだけ見れば」との当初の考えとは裏腹に、ついつい手を伸ばしては、都度、装丁に驚き仕掛け(構造)に唸り作品としての美しさに思わず声が出る自身が居ました。
様々なデザインを見ているうちに、知らずと、この世には色んな本が存在することに改めて気付かされました。

MOMATコレクション@東京国立近代美術館 on Mar. 28th,2023

同館のコレクション展は数度目ですが、所蔵数が半端ないので常に新たな出逢いがあり、また、これ迄幾度も逢った作品にも毎々素敵な気分を味あわせて貰えます。
太田聴雨「星をみる女性」和服と望遠鏡という興味深い取り合わせ
片岡球子「渇仰」画布一杯に2人の能楽師の迫力が
平福百穂「荒磯(ありそ)」四極一隻 ダイナミックな波濤に惹きつけられます
萬鉄五郎「太陽の麦畑」小品ですがその力強さはゴッホや太郎さんを彷彿
ヨハネス・イッテン「コンポジション」モノクロにどっしりとした力を感じます
カンディンスキー「全体」いつ見ても彩り鮮やか、楽しげそしてちょっとの浮遊感が
クレー「黄色の中の思考/山への衝動」小品とは違った惹き込まれ感に立ち止まります
靉光「眼のある風景」恐れ 鋭い 深遠 … 色々な想いに駆られますがいったい何なのか
長谷川利行「カフェ・パウリスタ」独特な少し荒い筆致 惹かれます
“マスターズ”室でのお歴々は個性が際立つ、現代美術からは”これ迄を超える 拡げる””今へのアンチテーゼ/課題にぶつかっていく”ことを感じられました。
そして、菊池芳文「小雨ふる吉野」跡見玉枝「桜花図屏風」船田玉樹「花の夕」(マゼンダ凄い!) 鈴木主子「和春」加山又造「春秋波濤」森田曠平「鐘巻」が仄暗い展示室にパノラマで一堂に! 見惚れる以外為す術がありません。

ダムタイプ| 2022:remap@アーティゾン美術館 on Mar. 31st,2023

ヴェネチア・ビエンナーレ出展作を再構成しての帰国展。
メイン展示の周囲にはグローバル都市でのフィールドレコーディングを音源としたターンテーブルからのサウンド。展示中央には暗闇に浮かび流れる赤と白のワード、幻想的な空間が醸し出されています。静かに眼を閉じれば不思議と心が落着き、何かにスッと引き込まれていくような感覚になります。
坂本龍一を新メンバーとして迎えて何を伝えようとしたのか。虚実内混ぜとなってしまった”今”のコミュニケーションとの向き合い方に一石を投じる作品なのでしょうか。
(2日後に”教授”の訃報 もうただただ哀しい、このタイミングで作品に出逢えたことに何か意味を想わずには…)
※Dec. 10th 追記:”教授”の著書(ぼくはあと何回、満月を見るだろう)を手にとる。「たびたびインスタレーション作品を発表するのは時間という規制から逃れたいという願いと深く関係している」と。そういうことなんか…

アートを楽しむ 見る、感じる、学ぶ@アーティゾン美術館 on Mar. 31st,2023

肖像画/風景画/印象派の日常空間 の3セクション構成で愉しみます。
マティス「画室の裸婦」カラフルな点描、所謂エロスを感じさせない
ピカソ「腕を組んですわるサルタンバンク」物憂げに何を想うのか
岸田劉生「街道(銀座風景)」20歳の時に風景画を、小品ならではの味わいが
梅原龍三郎「ノートルダム」蒼く寺院を描く独特のタッチ 好みです
アルフレッド・シスレー「サン=マメス六月の朝」河沿いの木立ちの美しい描写
カンディンスキー「3本の菩提樹」初見 色彩に溢れ風景画も見事です
モネ「黄昏、ヴェネツィア」淡く暈されることでしっとりと沁みます
併催の”石橋財団コレクション選”でも幾つか気になる作品が。
藤田嗣治「ドルドーニュの家」極力色が絞り込まれて”レオナール風”がより鮮明に
白髪一雄「観音普陀落浄土」個体としての絵具から迸るエネルギーには”破壊”を感じます
佐伯祐三「休息(鉄道工夫)」重厚で何やら訴えているような、独自性模索時期と判り納得
ルオー「裁判所のキリスト」いつもの表情なのにじっくり眺めると”哀しみ”が映ります

藝大コレクション展2023『買上展』@東京藝術大学大学美術館 on Apr. 7th,2023

本学には優秀な卒業/修了制作を買い上げる制度が… 厳選100件が並びます。
まずは巨匠たち
横山大観「村童観猿翁」素朴な描写、童たちの活き活きさが手に取るように伝わります
和田英作「波頭の夕暮」おおらかでゆったりとした趣き、住まう民の風情を感じます
西郷孤月「朝鮮風俗」山口蓬春「晩秋(深草)」ゆっくりと刻が流れる街角に想いを馳せて
高村光太郎「獅子吼」羽織のリアルな折れ/皺にも若き日の日蓮の強い意思が宿ります。
小林万吾「農夫晩婦」淡くて多彩が故に強くはなくも醸し出す日常に静かに惹き込まれます
各科選定作から
松本俊喬「群像」人の生きる力強さがその筆致と色使いで迫ります
河島淳司「超心理学」全体ダークサイドの独創的な構成、少しおどろしいけれど…
村岡貴美男「夢遊病」色使い/構図ともに神秘的な世界観を描ききっています
その他に彫刻/工芸/建築/デザイン等々でも秀逸なアイデアや技を数多く観ることができ、「さすがの東京藝大」訪れた甲斐がありました。

The Original @21_21 DESIGN SIGHT on Apr. 28th,2023

「確かな独創性と根源的な魅力、そして純粋さ、大胆さ、力強さをそなえたデザイン」と定義された品々、家具と道具を中心に日常生活の其処此処にあるもの達を見つめ直す企画。
照明に惹かれ、調度品に寛ぎ、曲木/鋼管椅子の由来を知り、スツールやカトラリーに見入り、既視感のある道具類を再認識し、果てはレゴブロックやカロリーメイトまで…
Alcove Workは本気で”ほしい”と思ってしまいました。
どのデザインからも感じられるのは、スッキリして柔らかで美しくそして気持ちいい。
進歩?混沌? 揺れ動く時代の只中で、しっかりとした”本物”の存在はけっこう大きいもののはず。それに気付けるとともに新たなヒントらしきものにも出逢え、館外は春の陽射しと深緑薫る午後。

佐伯祐三 自画像としての風景@大阪中之島美術館 on May 13th,2023

いつの頃からかその名と作品が気になり出しました。
帰阪に合わせての初訪館、収蔵数が多く本家とも思える同館での大回顧展です。
陽光の下、建物への道すがら否が応にも膨らむ期待、先の東京開催時ではなくこれ迄待った甲斐がありました。ヴラマンクから「このアカデミック!」と指摘されたという前後での画風の変化の大きさをストレートに実感出来ます。
「立てる自画像/夜のノートルダム」その変化が如実に表現されある意味衝撃的
「ガード風景」赤(レンガ )とグレー(石)の対比が飛び込んでくるパリ的?色彩
「肥後橋風景」他の汽船/滞船の画とは違う広角での構図に魅入ります
「テレピン油のある静物/ポスターとローソク立て」展示の静物画は全て、対象が絞られ間近から描かれており、思わず足を停めてしまう静かな力のようなものを感じます。中でもこの2作にイイね!
「人形」可憐。流れる視線の先は…
「パリ遠望」幾何や平面で表され淡い配色の水彩? 他とは違った趣きが引き留めます
「洗濯屋(オ・プティ・ソミュール)」暗い背景にみどりの壁、惹かれます
「アントレ ド リュー ド シャトー」色合いの違う3棟が集まる一角、タテ描きで際立ちます
「パストゥールのガード」パリのガードにも惹かれました
「工場」整然としておらず寄せ集めのような、しかしバランスと調和がとれている
「モラン風景」斜に構え?少し荒っぽい筆致、それもまた良し
「扉」幾何模様で描かれた堅牢な矩形の扉、強く印象的
こうしてみると惹かれた全てがヴラマンク後のもの。かつて自身を佐伯祐三に導いてくれた街角広告を描いた一連の作品、今回は何故かあまり強く惹かれることがなく、新たに出逢えた”他のヴラマンク後”にすっかり取り込まれてしまっていました。
満ち足りたひとときでしたが、惜しむらくは齢30での夭逝… 描き急いでしまったのか。

没後40年 朝井閑右衛門展@横須賀美術館 on May 23th,2023

初めての出逢いです。本展が開催中であることを知り興味を掻き立てられたのが数日前。生憎の雨模様の中、海沿いへ出かけましたが…
参りました。圧倒されます。何か落ち着きません。受け止めきれない。時間が足りない。纏まりません。
展示室のそこかしこから、多彩なテーマ、構図、描画方法で訴えかけて(迫って)くるのです。
「丘の上」集い奏で踊る姿は楽しげですが意味もなく少し不気味さも漂っているよう
「蘇州風景」前後の展示作品とは画風も違いオリエンタル?な雰囲気が感じられます
「水墨画13点」豪快で繊細な墨の世界が纏って観せられ圧巻。僅かな差し色が効果的
「肖像画5点」人物画に初めて魅了されました。構図/描き方/色合い 良いですねえ
「行進曲(鬼の念仏と鼻比べ)」強い筆圧です。面白く、カラフルに”楽しさ”を感じます
「人形使いの肖像」構図に惹かれ足を停めましたが、自身には背景色使いがどうも…
「薔薇(法華壺)」圧倒的華やかさ満開。未完/絶筆の薔薇2品も完成作を観てみたかった。
その他にも「水車のある風景/東京十二景の内/放浪者/於巴洋丸/田浦風景/夏画室/電線風景/過去現在因果経/人形」と個性的、印象的な作品の数々が。朝井閑右衛門 しかと記憶に留めます。

芸術家たちの南仏@DIC川村記念美術館 on May 26th,2023

ほぼ3年振り2度目の再訪。森と泉に臨むロケーションは勿論そのままです。
小旅行気分での遠出でしたが、その甲斐は大いにありました。
キスリング「風景、パリ-ニース間の汽車」白煙もくもくの構図は稚拙にも感じますが独特
ドラン「コリウール港の小舟」カラフルで明るく象徴的な南仏です
デュフィ「モーツァルト」キュビスム的描写、デュフィカラーで存在感が際立ちます
デュフィ「ヴァンスの眺め」珍しく抑えられた色調。だからこそじっくりと浸れます
ピカソ「リンゴとグラス、タバコの包み」小品ですが色合いの冴えがやっぱりピカソ
デュフィ「シャンデリアのあるアトリエ/花束」このアトリエに裸婦?、花束って?
エルンスト「ポーランドの騎士」キュビスムでシュールさもあり複雑な透かしの構図
ヴォルス「赤いザクロ」臓器のようで陰鬱な艶めかしさが強い印象を残します
ピカソ「陶器9点」花瓶/皿/水差 全て気に入りました。形状、絵柄ともso unique!
レジェ「コンパスのあるコンポジション」強く切っ先鋭いものたちが静かに其処に
シャガール「青い夜/天使の湾/青い花瓶/緑,赤,青の恋人たち(街の上で)」全てが楽しい嬉しい幸せな気分ずっと観ていたい。大きいのはいいですね
マティス「ミモザ」コラージュで躍動する青と黄がのびやかに絡まり合う
この地での多くの作家たちの交流が、これら素晴らしい作品群を創り出すことに繋がったのはおそらく間違いなさそうです。

横尾忠則 銀座番外地@ギンザ・グラフィック・ギャラリー on May 30th,2023

絵画ではない横尾作品、これ迄も幾度か出逢い記してきたが、今回は何やら”完成前の証拠物件”らしく、その真髄(真相?)に迫れることも期待しgggへと。
全館イラストレーター満載で新鮮! 手仕事の温もりが感じられつつ、さりげなくドギツいエロスも当時から健在。その凄さはキャラクター創造でも大いに発揮。
地上階は自然光と室内灯の下、特にポスターは切り取られた雰囲気がクール。
地下階と繋げるステップはテーマでもある”ブラックホール”を模し、降り立った展示室では暗い中に作品が光で浮き上がり、耳触り良く心地良い打鍵/テクノのBGMとも相まって、ある種、瞑想状態の没入感とともに作品群と相まみえる。
以前お目に掛かった記憶のある風神雷神が2点、片や”けっこう破茶滅茶”此方”しっかりカラフル”とその描き分けが楽しい。
上階では、約50年前のスケッチブック(数百ページ!)の全ページ映像で、横尾さんの発想の泉/創作(発創)のプロセスを垣間見ることに。
ここ数年、漲るエネルギーに後押しされたとしか思えない尋常じゃない創作数で、神戸の本家はもとより横尾忠則の企画展示が目白押し。
かつて横尾さんは言った。「何が描いてあるのか、何を言い表そうとしているのか、とすぐに頭や言葉で考えてしまいます。ちょっと待って、それがいけないのです。リンゴを味わうように絵を味わえばいいのです。感覚で感じることです。きれいだなあ、面白いなあ、それで充分です。好き、嫌いで判断してもいいのです。これなら私でも描ける。大変結構です」と。
この言葉を念頭に、次は、目下開催中の本家かはたまた秋の@トーハクか。

琳派のやきもの 響きあう陶画の美@出光美術館 on Jun. 23th,2023

六本木で尾形乾山に出逢い焼きものの良さに知り合えてからはや8年、生誕360年の今年、またじっくりと楽しめる機会が到来。此処では琳派として絵画との共鳴を企図しており、自身にはさてどう響くんだろうか。
乾山作にはやっぱり魅了される傑作が数多く、暗い展示室の彼方此方で灯りの下に其々が浮かび誘います。
「銹絵獅子香炉」珍しい立体の造形で鑑賞はあらゆる方向から。「銹絵竹図角皿」は乾山/光琳の合作、濃淡で描く竹の節が生々しい。「銹絵絵替扇面形皿」扇形の皿いとをかし。「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」本歌を思い起こさせる草花と鳥の取り合わせ見事。「銹絵染付金銀白彩松波文蓋物」器面はダイナミックな松樹、内面の波文は静か、地色の茶と良く合う。「銹絵染付白彩薄蝶文平鉢」こちらでも描かれた薄が地色の茶としっかりマッチ。「染付白彩流水文鉢」流水文様での造形がユニーク。「色絵芦雁文透彫反鉢」鮮やかな緑が映える。「色絵紅葉文壺」色鮮やかな紅葉文様が美しい。「色絵萩文角皿」左上の萩、右下の霞と絶妙なバランス。
「扇面散貼付屏風」は俵屋宗達、十数の扇が雅に宙を舞うようで豪奢。「筒井筒蒔絵硯箱」は伊勢物語から、繊細な意匠と技巧が味わい深い。「桜・楓図屏風」鈴木其一の興味深い構図、枠内外の使い方描き方に拘りが。「色絵芥子文茶壺」野々村仁清の名品は綺麗ではあるが…興味は今ひとつ。自身は大きな品より小ぶりの粋を求めているんだな。
題材が和歌や古典由来のもの多く、絵画もそうだが基本教養についての研鑽も大事。

木村英輝 EXHIBITION ― 大人のストリートアート ―@POLA MUSEUM ANNEX on Jun. 30th,2023

初見。偶さかの出逢い。
会場規模も作品数も少し控えめながら、其処はずっとウキウキとワクワクそしてイキイキを感じ続けるスペース。華がある。
入館すぐの天井から幟また幟、正面には渋い配色の「Carp is Dragon in Heaven」シリーズ、裏面には極彩色の「Be Rock〜」シリーズが迎える。予想外の嬉しいインパクトを全身で楽しみつつその先へ。
幟だけでなく、「Be Rock〜」で描かれる人鳥獣花は熱帯のエネルギーを感じさせるような配色の妙でそれを楽しがる気分が増幅され、かたや「Carp〜」は絞られた数色での渋さがちょっと墨絵をも彷彿させ、その色使いの斬新さと活き活き感は少し若冲のようにも。
「Lotus Revives」ここでも絞られた渋さが。装飾を排するも簡素ではなく、蓮それ自体の風情が味わえる。勿論、内田/樹木家の板戸でも。
「Live Painting Work」会期中に公開制作したそう。全面に空駆ける数十頭の象、何やら勝手にほくそ笑んでしまい仕方がない。「Smiling Elephant」も楽しそう。
「Open your mind」満開の孔雀、圧巻の色彩。
会場では沢山の色に出逢えるが、明るめの群青が特にキレイ。また、音量を抑えたBGMのロックがよく似合う。
全国各地に自由に鑑賞出来る作品がある著名な壁画絵師であることを知り、旅する機会には是非とも時間を取って一見したい。

ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会@森美術館 on Jul. 3rd,2023

開館20周年記念展のテーマは”学校で習う教科を現代アートの入口とし未知の世界に多様な観点から出会う試み”。アーティスト54組による150点、いっときに8教科受講はおそらく人生初で2時間ずっと知的刺激は続きっぱなし。けれど、いざnoteしようとするまさに今、脳内は錯綜し言葉になるまでいつもより時間が掛かっている。
(少し時をおく…)
「国語」言葉そのものの意味合いから何かを伝えるのみならず、文字の形や書き様、見せ方で関心を惹きつけ、背景との取り合わせでもメッセージを投げ掛けてくる。
「社会」ある意味最も感受性を挑発する科目かも。時代の趨勢と起こされた数々の出来事、巨きなうねりや未だ抱える矛盾が、背後にある過酷さや悲哀、苛立ちを直接感じさせずに引いた表現で迫る。例えば、ディン・Q・レはベトナム戦争での日々を綺麗で静かな水彩スケッチのスライドショーで、日常の悲しみが見えない故にその背景を想わずにはいられない。また、田村友一郎はプラザ合意後の経済変動を3名の黒衣(マルクス/アダムスミス/ケインズ)に語らせることで”現代の見えざる手”を問う。
「哲学」自己との対峙、洞察、観念的な対話。「算数」数列/幾何/ダイアグラム&パフォーマンスで示す。「理科」装置や素材、シュール絵画での表現。「総合」公共、ビジネスを対象に象徴的にインパクトあるアイデア。「音楽/体育」オト/カラダのパフォーマンスなどで。
場所柄かテーマによるのか国外からの来館者が多い。グローバルレベルで社会課題を想起させることに一定の役割を果たせていることは事実だが、届いていない人数の方が圧倒的に多い筈。自身も含めどう感じどう考えこの後どう動くか。

ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ@アーティゾン美術館 on Jul. 7th,2023

ベル・エポック、フォーヴィスムやキュビスムが芽吹き、抽象絵画の誕生。キュビスムを特に好む自身はこれまで作品そのものと対峙するばかりだったので、250点もの夥しい数でその流れを系統的にも感じ取ることが出来るうってつけの企画展。ありがたい。
セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」はじめ印象派と呼ばれる作家達の作品に抽象への源泉があったと。言われてよく観れば、納得。
フォーヴィスム&キュビスム、ヴラマンク/デュフィ/ミロ/ピカソ/ブラックとお気に入り達が目白押し。フアン・グリス/ジャン・メッツアンジェ/アルベール・グレーズはおそらく初見、明るめのキュビスムが新鮮。
その後抽象度が進む、変わる。近現代になるにつれ画へのテーマや想いの迸りが凄まじい。自身がよく見知っている中ではレジェ/カンディンスキー/クレー/リヒター/オキーフ/ポロック/ザオ・ウーキーが。ウンベルト・ボッチョーニ「カフェの男の習作」差し色の青がいい。オーギュスト・エルバン「コンポジション、抽象」画々しいしっかりした構図。リヒター「色のオーケストレーション」、オキーフ「オータム・リーフII」「抽象 第6番」も印象深い。ジョルジュ・マチュー「10番街」真紅の背景に黒と白が放たれぶつかり合い訴える何か。婁正綱「Untitled」相模灘の千変万化。国内では、古賀春江「無題」万華鏡ではないがじっと見つめてしまう不思議な空間。堂本尚郎「作品」エネルギーをぶつけ「集中する力」描きなぐりの混沌とした空間、渦。杉全直「袋を持った空間」青の躍動感。
まだまだ気になった作品は数多あり、其々に素晴らしい存在感が。
抽象の流れを知ってふと考えた。哲学は、第二次大戦期に米国に逃れた者が、苛立ちや葛藤はたまた新しい風の下で進化/開花した面もあるが、それは抽象画に於いても言えることなのだろうか。

蔡國強 宇宙遊〈原初火球〉から始まる@国立新美術館 on Jul. 28th,2023

蔡國強、初見での驚きと共にその名を記憶に刻んだのが丁度8年前の横浜。
この六本木ではその殆どが作家所蔵品。展示室の仕切りが取っ払われたことで、何処からでも全てを同時に視界に入れることが出来、作家の”宇宙(世界)”感を気持ち良く俯瞰可能な設え。先ずは、常とは違って全体を視野(意識)に留めつつ、回遊するが如く周囲をゆっくりと暫時そぞろ歩き。やがて、何か自身を捉えるかのような個々の作品へと。
その当初から、東洋と西洋との関係性思索や既に国境を超越する発想での制作が始まっており、爆発というエネルギーに魅了されての火薬ワークも行われていた。それが作家自身の”ビッグバン前夜”つまり原初火球だったよう。
その後、発想は地球規模に留まらず宇宙へと向かい、幾多の「外星人のためのプロジェクト」他で火薬を主材に、時には苦悩しつつも、華やかな「スカイラダー」はじめ数々の作品を世界的に展開。展示室最奥「《歴史の足跡》のためのドローイング」は縦4m横30m超の大作、テーマはもとよりその発想の雄大さに暫し感じ入ることに。
コロナ禍でのスケッチブックレビューを経てのリスタート。展示室中央手前の宇宙他を表現する幾つかの鏡面状の新タイプ、なかなか魅かれる。
「宇宙のなかに存在している人間性と人間のなかに存在する宇宙性は”合ニ為一”なのです。その真理を感じて自分のものにするとき、宇宙は人間のサイズにまで小さくなり、身近なものとなり、人間は広大無辺の宇宙と一体となるのです」とは最終章に掲げられた作家からのメッセージ、此処まで観てきたことで成程そう言う事かと合点。
室中央奥にはカラフルに明滅するインスタレーションが。鑑賞よりもっぱら撮影という多くの姿には言いたいこともあるが、これも”合ニ為一”なのかもと考え直してみる。

特別展「近代日本画の流れ―光ミュージアムコレクションより―」@奈良県立万葉文化館 on Aug. 29th,2023

帰阪の合間に明日香へ。近現代の日本画コレクションから当館所蔵作家達への軌跡を辿る。
先ずは雅邦/春草/観山/大観による一連の掛軸、確かに静かでキレイではあるが…あまり響いてはこない。
前田青邨「厳島」俯瞰視法で雲の合間からを描く、実に面白い。
鈴木松年「奥山渓谷寒山偲ぶ」金地に墨が映える。幾多の頂、峻烈極まる。
松園/清方/深水/立石春美/小早川清 美人画の競演、それぞれの”らしさ”が。松園の艶っぽさから小説「序の舞」を想い起こす。
高山辰雄「弭の音」少し離れて観る山々の連なりが見事。
手塚雄二「月読」続く波頭、手前の暗さが徐々に月光に照らされ… 上方遠く浮かぶ繊月 神秘的。
加山又造「夜桜」幾度目かの邂逅、桜と炎 その凄さはいや増すばかり。
他にも、奥田元宗「白雪紅燿」濱田昇児「月宵」久保嶺爾「飛騨真春/飛騨真秋」後藤純男「新雪大和」千住博「ウォーターフォール」に暫し時を留められた。
盛夏のひと時、日本画で一服の涼。明日香は、空の青と、緑と、雲もなんだか楽しそう。

2023年度 第2回コレクション展@京都国立近代美術館 on Aug. 30th,2023

今日は京都東山に。パンリアル〜フラジャイル〜染織前衛(ダンダラ/∞)〜新匠工芸会〜日本洋画前衛の小旅行。
山崎隆「象」動物のそれでなく抽象でシンプルな意匠、だからこそ印象に残る。
同「扇面ちらし」こちらは打って変わり、波間で競うかのような数多の扇と矢。
三上誠「無題(夜)」判別できない者(物?)に囲まれる二人が感じるのは、怯えか温もりか。
中野光雄「夜の遊園地にて」円形をベースの紋様、緻密なモチーフに文字通り釘づけ。
伊砂利彦「ドビュッシー前奏曲IIのイメージ 霧/枯葉)」白/グレー濃淡/黒のみのシック。
望月玉船「大空へ/樹響」漆で仕上げられた曲線でのカットが美しい器。
水内杏平「溪屏風」キュビスム調での屏風は初見。黒の艶きに惹かれる。

蓮の襖絵@青蓮院華頂殿 on Aug. 30th,2023

GINZA POLAで出逢ったKi-Yan(木村英輝)の作があると知り、東山で少し足を延ばす。
建物内で下足し、滴るものを拭う視線の先に幾つもの蓮が静かに華やかに咲きほこって…
襖で区切られた幾つかの部屋、方や開け放たれ此方閉め合わされ、様々な蓮の姿を楽しめる。
銀座での板戸、此の襖、和との相性はやはり抜群なり。

Stefan Sagmeister Now is Better@ギンザ・グラフィック・ギャラリー on Sep. 20th,2023

また新たな表現との出逢いが。
社会の実態を映し出す、気候変動/命/富,貧困/争い 等の統計データをレンチキュラー(レンズ)効果/古典油彩画に塗装木材埋込/衣類プリント/グラス手描きの4手法でヴィジュアライズした作品達。批評眼は勿論だが、ユーモア感も湛えるそれらは視覚にストレートに入ってくる。特にレンチキュラーは光源による鮮やかなカラーで表現がスマート。
「Artists,Lawyers and Doctors」米国では芸術家数>法律家,医師数 だそう
「Autocratic Hunger(独裁政権下の飢餓)」背景の肖像画はレーニン、印象的
「Unicorns」ユニコーンの半数は移民による起業
「Smarting up(より賢く)」科学技術論文出版数/100万人@日本は停滞…
「Murderous Coat(殺人コート)」表は総刃物柄!裏地にも刃で洒落たデザイン
災害や交通事故,殺人での死者、貧困率、労働時間など、気候変動を除き多くの数値は改善されてきたことが分かる。だから”Now is Better”なのだと。それは認めつつも釈然としないものが残る。悲観的ではなく。

細川護熙「京洛の四季」@POLA MUSEUM ANNEX on Sep. 20th,2023

以前よりその活動は知ってはいたものの作品を観るのは初めて。
まずは漆絵、草花と虫との取り合わせで描く13点。漆に金と錫で色は少なく、その筆致は生々しく活き活きと。
続く展示室では建仁寺奉納「四季山水図襖絵」24面が囲む。山水筆は優しく嫋やかで心が落ち着く。室の中央でぐるりを感じると、自身が京盆地から囲む山々を見渡す感に包まれる。
「知音」東山上方にかかる月光の下、夜桜は柔らかく峰々は白く灯り稜線の明暗朧げ
「渓聲」色は無くとも樹々の青々が感じられ、朝靄をかすめ飛翔する一羽は自由
「秋氣」山にまとわりつくような紅葉は真っ盛り少し前か。半球形の山、面白い
「聴雪」しんと静かな雪景色から降り積もる微音が聴こえそう。唯一街が描かれ、降る雪の動と積もった街の静が伝わる
所蔵先に場所をあらため、畳上に正座しじっくり臨んでみたくなった。

ディヴィッド・ホックニー展@東京都現代美術館 on Sep. 26th,2023

ホックニー、その画風の変わりように驚く。
‘60にテートで観たピカソに衝撃を受けた後の「三番目のラブ・ペインティング」「イリュージョニズム風のティー・ペインティング」「一度目の結婚」は、面白い着想、タブーへの斬り込みなど思考錯誤の試みが観てとれ、作品自体もどこか初々しい。
L.A.に移住してからは光/反射/水/キラメキ/透明感が溢れ、今に繋がる画風へと。「ビバリーヒルズのシャワーを浴びる男」はそのシュールタッチに惹かれる。
イラスト風の作品や肖像画も明るい青黄緑紅の配色、エッチング・リトグラフではまた違った(別人か?)画風、それらが融け合い「ホテル・アカトラン」連作に結実したのだろうか。
展示室の長辺側壁面全てを1点のみで占める圧倒的な存在「ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作」、ヨークシャーに息づく落ち着いた静けさとカラフルでのびやかな生命力が其処に在る。暫くは動けない。
iPadで描いたヨークシャー/ノルマンディーの風景は緑に包まれた連なりが当に美しく、自身が其処で観ているかのようにイキイキと感じられスゴい。

横尾忠則−水のように@東京都現代美術館 on Sep. 26th,2023

ホックニーと併催のMOTコレクションでの特集展示。
横尾さんはやっぱ観ていてドキドキする。全体がおもろく楽しい。テーマは勿論、ちょっと過激な色使いが堪らなく良い。展示の多くはよく知る作品だが、幾つかのおそらく初見に出逢えた。
不思議パワー炸裂「木花開耶媛の復活」。横尾流”受胎告知”「放たれた霊感」。笑顔がおかしい「霊妙な得」。

春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ@東京ステーションギャラリー on Oct. 4th,2023

同ギャラリーは初めて。館構造や螺旋場のレンガから往時が偲ばれる。
“各人主義”を旨とし第三勢力として出発したという春陽会、その成り立ちはまさに”それぞれの闘い”。惹かれ気になる作品、数多く。
小林徳三郎「鰯」籠の中に3尾、シンプルでヴィヴィッド
萬鐵五郎「郊外の道」水彩での風景、こんなのも描いてたのか
梅原龍三郎「カンヌ/裸婦図2点/榛名湖」良い雰囲気が醸され、緑と赤/茶のコントラストが美しい。「カンヌ」は再見、趣ある落ち着いた海辺
岸田劉生「林六先生閑居図/寒山拾得」いずれもユーモラスな墨画に和むが、他の油絵はどうも気分に合わず
中川一政「静物」なんということもない容器と果物だがその色合い、描き方が気になる
萬鐵五郎「魚を運ぶ人」木々の中、見落としそうな描かれた人が。自由自在な筆致の墨画
長谷川昇「裸婦」その眼差しに少しドキッとする
小林和作「薔薇咲くカプリ島」荒い構図が逆に花と緑の島を際立たせる
横堀角次郎「帝大構内」夜の静寂、仄かにさす灯りで樹々の路と分かる。惹かれる小品
小杉放菴「松下人」小気味よさも感じるコミカルな構図での勇壮な松枝ぶり。瞠目
木村荘八「戦争ヲ作ル」1938年作。国威高揚?の撮影風景、それへの批判なのか…
鳥海青児「信州の畠/水田/セリスト/高カラーの男」暗い色調を塗りたくり、肖像はともかく風景は何となくそれと感じられるだけ。独特
中谷泰「横向きの肖像」排された喜怒哀楽。顔は輪郭のみで造作は曖昧、暗い背景にしっかり描かれた赤いシャツ。観てしまう
加山四郎「室内」水谷清「絵を描く女」筆致は違うもまるで同一作家かと見紛う配色と鮮やかさ、同時期の渡仏経験むべなるかな
中川一政「駒ヶ岳/向日葵」荒々しい筆送り、外連味なさと対象を際立たせる迫力
「魚/窓/観測所/山麓/群落/段丘」トリは気に入りの岡鹿之介、その構図,色合い,筆運びからは去り難く。キュビスム的な「群落」が特に好み

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン@アーティゾン美術館 on Oct. 11th,2023

アーティゾンのセッション、今回は山口晃。その精緻さとの驚愕の出逢いから既に8年。サンサシオンとは”感覚”の意だそう、”やむに止まれぬ”とはイッタイ… いや増す楽しみ。
のっけからやられる!「汝、経験に依りて過つ」は重力にちょっと抗う体験インスタレーション、その後も暫くは三半規管が元に戻ろうと踠いている。今日は、最初に揺さ振られたこの状態で観続けるのが丁度いいのかも。
「ランドルト環」一見ドーナツ形のものにたなびく煙か雲か と観てしまったが、これは視力検査のあの輪っか。発想次第で何ものにも出来るしどう捉えるかは鑑賞者次第ということを実感納得
「アウトライン アナグラム」少し奥まった室を覗いた瞬間 “wow” それは当に”飛び出す山水"、面白すぎて楽しすぎて思わず知らず居合わせたお二方と言葉を交わす自身が。別場所にはその構想図と設計図もあり、懇切丁寧がありがたい
「テイル オブ トーキョー/日本橋南詰盛況乃圖/善光寺御開帳遠景圖」久々の細密立体地図、”洛中洛外図屏風”を想い起こし思わず間近で観てしまうそのスゴさ変わらず。比較するものでもないが、Google Earthなんか目やないとまで感じてしまう
「大屋圖」この細密が描く大集合住宅には時空を超えて人々が住まう、なんと楽しげ!
「馬からやヲ射る」原動機付き馬上から標的を狙うパラリンピアン、研ぎ澄ます集中と解き放つ躍動が目前に。その馬で描かれた淡い彩色の武者絵「巴」もイイ
関連展示の雪舟「四季山水図」は淡い光源を背に自身の影を重ねる設えが興味深い、観にくいと感じるかそれとも作品に入り込んだ不思議さと捉えるか。
その他にも連載コマ漫画含め作家自身を伝える多くの直筆画や想いの解説文、全てに目を通すことは叶わずとも更に山口晃に近づけたか。

創造の現場 映画と写真による芸術家の記録@アーティゾン美術館 on Oct. 11th,2023

併催の企画展示、記録対象の芸術家達の作品にも出逢えた。
梅原龍三郎「軽井沢秋景」秋はこんなにも華やかなのか。川合玉堂「彩雨」大ぶりの掛軸に郷の風情が香る。前田青邨「紅白梅」(手頃なサイズで)華やかさ此処に在り。川端龍子「竹夜」みみずくが静かに… 石井柏亭「ソレント」イタリア、静かな海崖。辻永「ハルピンの冬/宍道湖の秋/六月の高原」柔らかな目線、涼やかな3作。金山平三「港」引いた全景が静かに在る。堂本尚郎「集中する力」強いうねり、動揺/迷いをふっ切ろうとするかのよう。古賀春江「花のある静物」静物だが今にも動き出しそう、命を感じる。ロベール・ドローネー「街の窓」カンディンスキー「自らが輝く」モーリス・エステーヴ「ブーローニュ」キュビスム3作が素敵に並ぶ。そして今年再びの オキーフ「オータム・リーフII」深く秋を想わせる。

PICASSO Odes to Nature「ピカソ_いのちの讃歌」@ヨックモックミュージアム on Nov. 8th,2023

ピカソによるセラミックには5月のDIC川村記念訪館時に初めて出逢い、少数乍らそれら全てを気に入り。その後、此処ヨックモックに数多の作品が所蔵/定期展示されていることを知り漸く訪れることが。やはり素敵な数々が… まずはテーマ展示から。
「牡牛を槍で突く闘牛士」闘牛場を模した皿の周縁を観客が囲む絵柄
「闘牛の太陽」黒の背景に白と緑が映える「ピカドール」これも黒がイイ!
「青い鳩」外周の黒、中は青バックに白と緑そして鳩。平和/自由を感じる
「フクロウ6点」それ自体が実にユニーク、6通りの意匠で楽しませてくれ、面白く楽しく飽きない。中でも「梟」壺はすっくと立った姿が凛々しくユーモラス
「鳥と魚」大きな壺しかし可愛げなデザイン「ウニ」釉薬の照り/反射が曜変天目を少し想い起こさせる
「草上の昼食」ピカソ絵画的な焼き物、赤土線が印象的
「四角い顔/グリッドのある顔」大皿に描かれたロボットチックな顔、微笑ましいが幼い
「女性型の燭台/水差し」ヒト型故にユニークな形が面白い
「イーゼルの前のジャクリーヌ」キュビスム! 不思議な拘りに惹かれてしまう
その他、常設展示も楽しげで「Four Enlaced Profiles」廻るように描かれた4つの顔、色を変え他にも「Motifs no. 66」太陽のようなものが(赤は使わず)「Green Corrida」闘牛場、濃い色がイイ「Bull in the Arena」牛を真ん中に据え、静かな迫力。
セラミックだけでも三桁の未展示が! 旺盛だった創作意欲を改めて知ることに。

横尾忠則 寒山百得 展@東京国立博物館 on Nov. 17th,2023

2023横尾さん巡りのトリは同展、描きも描いたり102点! 既に各メディアからの情報はあれど、そこは”百聞は一感に如かず”の心持ちで、知らず湧き起こるワクワク。
まず一巡、いづれも横尾さん流での寒山と十得の2人をメインに描かれ、カテゴリー分けらしき表示が幾つか。ではあらためてじっくりと。
「掃除機とトイレットペーパー」忌野清志郎風の2人が楽しそう、”いいねそんな世界”と思ってしまうのは自身だけ? 便器やクイックル等の小物類がイイ、特にシルクハットが粋。
「マラソン」色んな人達、みんなイキイキが伝わる
「混然一体」2人と馬が細く流れる筆跡(フデアト)で描かれる。浮遊感?というか、いや本気で遊んでるなコレ
「赤絨毯」印度、マハラジャ、涅槃、果てはマネ「草上の昼食」まで赤絨毯に載せこちらを少し異世界に誘う。箒と掃除機はしっかりと在る
「箒にのる二人」箒を持たせるとやっぱり2人を飛ばせたくなる、良く分かる
「組体操」ユーモラスな連作、4人で卍? 人が木に
「FUSION」8連作、POPでグッド! 老•壮•青の2人組のYUGO
「二人が一人」「FUSION」の流れで一体化したのか?
「ゴール・イン」陸上競技ゴールへみんな駆け込み、アーティスティックスイミングは一糸乱れず
「PARADOX」寒山と十得が逆さまに、それでも楽しげ
「アルセーヌ・ルパン」ちょっとポップな怪盗風、やっぱりホウキとトイレットペーパーは在る。連作の内1点だけは殆ど黒塗り赤縁取りで趣違って惹かれる
「AI・ロボット」必ず描かれた”E=mc2(二乗)”、視線は宇宙か。連作の変わっていく構図から同テーマ21日間の思考の変遷が分かるようで面白い。擬人化された幾何模様が幾つか、何かいい。
「四睡図」横尾画っぽいぶっ飛びの構成にも逢える
「水墨山水」山水風で戻ってきた2人、此処でもやっぱり楽しげ。
「ランボー」ダジャレ含めての肖像の方々で構成。他にも、ロビンソン・クルーソー,ドン・キホーテ,アインシュタイン,E.A.ポー,乱歩も横尾さんに呼び出され、其々のキャンバス上に居場所が。
寒山と十得は”奇行,風狂の人”と言う。横尾さんも負けてはいない(?)、コロナ禍のアトリエで俗世を離れ縦横無尽に刻を超え己の赴くままにめっちゃ楽しい旅をされていたのか。その記憶としての102点、堪能しました。

パリ ポンピドゥセンター キュビスム展 美の革命@国立西洋美術館 on Dec. 6th,2023

2023年、魅了される多くの作品との出逢いがあったが、そのラストに選んだのは”キュビスム”。これまでにも”最も好き”と記してきたが、展示112品のうち実に99点がポンピドゥセンターからでその多くは初来日。10年前の本家訪問時はまだまだアートへの意識は低く、口惜しくも当時の記憶を遡る必要もないレベル。だからこそこの鑑賞は全てが新鮮、年代毎の展示にドップリと。
ルソー「熱帯風景、オレンジの森の猿たち」久々のルソー、熱帯と幻想的に取合わせた野生の視線が離れない
ピカソ「女性の胸像」その表情は物憂げで不鮮明、まだ模索時期か…
ブラック「レスタックの高架橋/道/テラス」セザンヌを彷彿。「楽器」まだ静物、これからキュビスムへと
ブラック「レスタックのリオ・ティントの工場/静物/円卓/ヴァイオリンのある静物/果物皿とトランプ/ギターを持つ女性,男性」表面上は落ち着いて鑑賞も内心の高揚感たるや(凄いよスゴい、全部ブラック!)、静かなトーンで唯一無二、対象者/物もしっかり分かる
フアン・グリス「ヴァイオリンとグラス」カラフルさがモチーフにマッチ
フェルナン・レジェ「婚礼」集う人々、祝祭の華やかさ。ロベール・ドローネー「パリ市」エッフェルと三美神 明るく華やか。アルベール・グレーズ「収穫物の脱穀」人々の生活を感じられる。これら大版3点が並ぶ圧巻の展示
ドローネー「都市no.2」尖塔,屋根の並びで表現、所々の茶/緑/橙の柄が効いている
ソニア・ドローネー「バル・ビュリエ」抱擁する人々、暖色系で幸せな雰囲気
マルセル・デュシャン「チェスをする人たち」中央の2人、対局の様子しっかりと
シャガール「ロシアとロバとその他のものに」久々の再見、夢心地/不気味/天真爛漫/不安…鑑賞時の心根が映し出される気が「婚礼」カラフルで幻想的、お伽話のワンシーンのよう「キュビスムの風景」シャガールらしいモチーフで
レオポルド・シュルヴァージュ「カップのある静物/エッティンゲン男爵夫人」セルジュ・フェラ「静物/グラス,パイプ,ボトル」初めての出逢い、配色の多さ/構成/まとめ方の新境地
ミハイル・ラリオーノフ「散歩:大通りのヴィーナス」その動き、荒々しさが気になる
ナターリヤ・ゴンチャローワ「帽子の婦人」配色と構図に独特な未来が「電気ランプ」大胆な構図
ピカソ「若い女性の肖像」緑バックが美しく印象的
グリス「朝の食卓/椅子の上の静物」ポスター風、カチッと切られた構図が気持ちイイ
そして最後はブラック「ギターと果物皿」年を経ても色使いはやはりブラック、しっとりと落ち着くキュビスム。
全展示を見終えた心持ちは当に”贅沢な醍醐味”
併催の常設展、これ迄も訪館時には必ず覗いているが幾つか足を留めたものが。
マックス・エルンスト「石化した森」生命を感じない伝わってこない、しかしその存在感が半端ない
エドヴァルド・ムンク「雪の中の労働者たち」個々の労働者の存在、息遣いを感じる
ブラマンク「町役場」らしい構図と色合い、落ち着き。以前にもお目にかかったか…

昭和の日本画と洋画 松岡翁晩年の眼力@松岡美術館 on Dec. 27th,2023

「キュビスムで今年は見納め」と考えていたが、恵比寿での映画鑑賞前にちょっと寄ってみたいところが。初訪、実業家 松岡清次郎のコレクション所蔵館での企画展、最晩年に選んだ30点。
大森運夫「伝承・浄夜・毛越寺」奉納舞、篝火に照らし出された演じ手の動きと観つめる民の表情が彫刻のような迫真の描写で
郷倉和子「霧の中から」切株,根,落葉は土の色、上に配置の冬鳥一羽。ただ静けさだけが…
山本眞也「枯野」晩秋の寂しげな林、手前の何かを啄む烏二羽を意識すると林も少し違って観えてくる
木村清敏「雪」雪景色の寺院が静かに佇む。”しーん”聞こえそう
角浩「ベネチヤ異変」暗い背景、方形広場上空の白いペガサスは後脚が幾羽もの鳥に。自らの作風を”ネオ・クラシカル・ロマンティシズム”と称しており言い得て妙
今井信吾「コンクリートボックス・内なる風景」大版、無機質な室/はためく旗/複数裸婦の取合わせを淡く少しカラフルで。シュールっぽい不思議さ
大國章夫「時化る」海崖沿い、何者も抗えそうにない厳しい自然のエネルギーを荒々しい筆致で
村田省蔵「ヴェネチヤの赤い館」赤の建屋を抑えたトーンで描き静かなヴェネチヤを感じられる
其々強いインパクトはなくとも”気持ち良い”絵画、未観の良作はまだまだ在ることを知れた白金台

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?