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浪人・留年の全パターンを解説する

 日本の新卒就活で重要なのは学歴と並んで年齢だ。浪人・留年を経験した学生はどのようの扱いになるのだろうか。日本の就活はかなり年齢に大してシビアであるため、1歳2歳の差が命取りになることもあるだろう。今回は大学時代の同級生や会社の人間などを見た感想としての社会に出た時の過年度生の扱いを考えてみよう。

ストレート

 現役で大学に入り、浪人も留年もしないという場合だ。社会では大半がこのパターンだ。特に最近は大学受験の浪人が減っているため、ストレートが増えている可能性が高い。

 上位の大学の場合、ストレートはそれほど多くない。東大法学部の同級生を見ていると半分くらいだろうか。会社の人を見ても同じくらいである。理系の場合は何らかの挫折をしたケースか、専門に全く興味を持てなかったケースが多い。就職先はあまり良くないように見える。

 個人的にストレートのメリットはあまりないと思う。というより、明確なデメリットがある。一度もコースから外れたことがないので、価値観が硬直的になりがちだ。それに、コースから外れることへの恐怖から可能性を狭めてしまっている場合もある。一年浪人して上の大学に行ったり、大学院で可能性を模索した人間のほうが、トータルだと豊かな可能性が高い。

プラス1:一浪

 プラス1の場合、原則としてパターンは2通りだ。1つ目は大学受験の浪人、もう1つは大学時代の留年だ。

 まずは浪人の方を見てみよう。大学受験の一浪はした方がいい。積極的にしろという意味ではないが、あまり恐れないほうが良いと思う。

 まず大学受験の一浪が何かの障壁になることは全く無い、という事実がある。現役と完全に同じ扱いだ。学歴にこだわる人間の間であっても、一浪したからといって下に扱われることはないし、大学受験の一浪がコンプレックスという人物をほぼ人生で見たことがない。あるとすれば、東大に大量に進学する進学校で1つ上に同級生がたくさんいるというケースだが、それすらも有名進学校の場合は浪人に寛容なので、気にする人はまずいない。

また、統計上は大学受験の一浪は学力を向上させる効果がある。現役で無理して進むよりも、一浪して行きたい大学に行った場合の方が人生ハッピーだろう。また、一浪を許容することで無理して行きたい大学への出願を取り下げるというケースも無くなる。例えば、東大文一志望だったが、センター試験に失敗したので東大文三に「下げる」という人がいた。私もセンター試験はボロボロだったのだが、落ちたら最初から浪人するつもりだったので、迷わず文一に出願した。浪人OKの場合はリスク許容度が上がるので、より大きな獲物を狙うことができる。
 
 現役で進学するメリットは1つだけだ。林修曰く「いざとなったときに留年しやすくなる」ということだ。

 なお、ネタかもしれないが、早慶の場合は一浪の方が現役よりも頭がいいと言われる事がある。というのも、一浪で早慶に入る人間は東大に落ちたケースがかなり多いからだ。残りも一般入試を頑張ったケースがほとんどだ。現役の場合は推薦やAOが多く、学力的に疑問符が付けられる時がある。

プラス1:一留

 もう一つのケースが大学時代の一留である。これには色々なパターンがある。海外に留学するというケースはむしろプラスになることが多い。問題は単位を落とす、進路に迷う、就職に失敗する、というパターンだ。この3つはそれも性質が異なっている。

 単位を落とすというパターンではその後の進路は二極化する。バンドにハマったり、体育会系にのめり込んだりいった理由の「明るい留年」は予後が良い。日本の新卒就活では不真面目な学生にかなり寛容だし、若い頃の一年をバンド等に捧げる人は真面目一辺倒の人間よりも印象がいいケースがある。超優秀層とは行かないかもしれないが、特段のハンデは無いだろう。そもそも超優秀層はガツガツしていて留年などしないので、疑似相関だと思う。要するに、明るい留年のハンデは殆どない。

 問題は「暗い留年」だ。メンタルを病んだり、地方から出てきて孤立したり、純粋に単位を落とすというパターンだ。このケースの場合は問題が起きることが多い。なるべく早期に耐性を立て直し、遅れを取り戻す必要があるだろう。

 進路に迷うというケースもある。特に東大の学生はこのパターンがかなり多い。法学部の場合は大学四年で留年する事がほとんどだ。進振りのハードな理科一類や理科二類の場合は大学二年が多い。要するに、進路変更や再挑戦のために一年プラスするのである。この場合もまた、企業からネガティブに見られることは少ない。少し意外だったが、大学受験の浪人に準ずる扱いのようだ。筆者はこれである。

 ただ、東大以外の大学で進路に迷って留年した人物を私はあまり知らない。どうにも東大特有のカルチャーなのかもしれない。東大は内部競争が激しく、普通程度に優秀な人でも進路に困ることがあるとも言えるし、一留しても東大ブランドのお陰で助かっているとも言える。多分前者が理由だと思う。慶応や一橋といった大学の出身者は留学以外のパターンを見たことがない。

 3つ目のパターンは就職浪人だ。この場合の予後はあまり良くない。これはある種の逆生存バイアスだ。就活に弱い人間が選択的に残っているからだ。


プラス2:二浪

 プラス2になるといろいろなケースが出てくる。この辺りから後が無くなってくることが多い。

 まず、日本の新卒就活においてはプラス2までは現役扱いであることが多い。決定的に不利になることはないが、崖っぷちの就活である。

 二浪の場合だが、一浪と違ってややデメリットが目立ってくる。二浪だからといって決定的に不利になることはないのだが、二浪の人間は現役と比べると学力的に劣ることがある。この場合、決定的ではないが、学内でも優秀層に入ることは難しくなる。また、二浪の場合は学力上昇効果は頭打ちになることが多く、精神的ストレスも大きい。従って、どうしても行きたい大学がある場合を除くとそこまでオススメできる選択肢ではない。

 最も、二浪の人はコースから外れているので、マイペースであることが多い。現役の優秀層のようなガツガツしたタイプは見たことがない。東大の場合は、色々と魅力的な大学であるため、二浪してでも入る価値があると思う。普通のJTCであれば「二浪しちゃいましたワハハ」で済むし、官僚機構においてもネックになっているのは見たことがない。ただ、普通の私立大学の場合は二浪はかなり目立つ。東大と違って「ワケアリ」とみなされるリスクもある。東大の二浪は全員が成功した浪人生だが、他の大学の場合は失敗したパターンもあり、学歴コンプが強烈な事がある。

プラス2:一浪一留

 このパターンは結構多い。プラス2で一番多いタイプだと思う。大学受験で浪人を経験しているので、留年への抵抗が無かったケースだ。東大法学部時代の友人にもかなり多かった。総じて大学受験で浪人を経験した人は留年への抵抗が薄い。

 一浪一留がどう扱われるかと言うと、意外にダメージは少ない。トップランクの就職をする人間はあまり見なかったが、これも逆生存バイアスだと思う。プラス2であっても日本企業や公務員の就職に不利になることは少ない。現役一留の場合は引け目でうつ状態になるリスクがあるが、一浪一留の人々は大体がのほほんとしていた。「明るい留年」のケースが多い。単位を落とした場合は受験勉強で燃え尽きたケースが多い。

 私の観測範囲内ではあるが、浪人して入学した人が留学で一年を使って一浪一留になったというケースはあまり知らない。心理的にやや抵抗があるのかもしれない。一浪一留の人間にガツガツした人間はまず見かけず、大抵が寛大で面白い。

プラス2:二留

 現役二留の人もいる。この場合は大抵が何かにのめり込んでいる場合だ。メンタルを崩しているケースもあるだろうが、私の周囲では見ない。不可視化されているのかもしれない。少なくとも、単位を落としているケースはほとんど知らない。起業にのめり込んだり、朝から晩までバンドをやっているという場合がほとんどだ。

 以前の東大法学部にはこのパターンは結構多かった。司法試験や上位の官公庁を目指している場合だ。大学受験の二浪に感覚としては近い。

 理系の場合は二留しているケースはあまり見ない。この場合、やや問題を抱えると思う。というのも、理系は大学院にいってナンボだからだ。学部の段階で二留している場合は、学業面での困難を抱えている可能性が高いだろう。

プラス2:院卒

 忘れてはいけないのがこのパターンだ。このケースは理系と文系で異なる。理系就職する場合は理系院卒は必須で、留学以上にポジティブなプラス2と考えて良い。理系院卒から文系就職した場合もかなりのプレミア価値を持つので、ストレートよりも価値が高いことが多い。外資系企業などは学位を重んじるので、理系院卒を文系よりも好むことが多い。JTCの場合はそこまで意味はないのだが、就職にはやや強い。唯一の難点は年下が先輩になってしまうことだ。

 問題は文系院卒だ。文系院卒はキャリア形成という点で役に立たないので、二浪と同じ扱いになる。ただし、それ自体がネガティブに扱われることは少ない。どちらかと言うと環境の問題だと思う。文系大学院に進む人間は2つのパターンがある。1つ目は学究心の強いケースだ。この場合、修士一年の夏から就活を始めるとは思えないし、そもそも一般企業への関心が強い人は行かないだろう。彼らは学部4年で就職する人間ほど強くないが、理由は大学院それ自体がマイナスというよりも、本人のチョイスの問題だと思われる。

 もう一つのパターンとして、就職浪人をごまかすため、というケースがある。東大法学部の場合は上位官庁に再挑戦するために公共政策大学院に進む者が多かった。この場合も就職面のマイナスは存在しないと思う。ただし、就職にものすごく強い人やミーハーな人は進まないので、「就職偏差値」という観点では少し落ちるかもしれない。

 総じて理系院卒以外のプラス2はメリットになることはないが、ハンデが存在しても僅かであり、優秀層に食い込もうと思わない限りは順調に就職することができる。

プラス3:三浪

 一般的な常識として、新卒就職のプラスは2年までというものがある。誰が決めたのかは分からないが、そういう事になっている。プラス3辺りからデメリットが表面化することが増えてくる。この場合、優秀層に食い込むことよりも、下位層に落ちないことの方が先決となる。

 三浪の人間は東大であってもレアだ。ほぼ存在しないと思っていいだろう。理由は先程述べた年齢制限の問題もあるが、そもそも受からないのかもしれない。いたとしても、どこかで仮面浪人をしているだろう。

 三浪の場合は学歴にこだわる人間であり、かつ大学受験で強烈な挫折をしているケースが多い。医学部の場合は問題ないのだが、東大の場合はそこまでして入る価値はあまりない。

プラス3:一浪二留、または二浪一留

 私の観測範囲内では殆どがこのパターンである。やや過年度生になることがクセになっているケースがある。のんびりしている上に、ややレールに乗るという意識が低いことが多い。ストレートとは気質が真逆だと思う。

 この場合はエントリーシートで撥ねられるケースが露骨に現れてくる。特に古くて堅い会社において顕著だ。保守的なJTCの場合はうるさい可能性がある。ただし、東大生が大挙して行きがちな就職先は、意外とどうにかなることもある。メディア系のように元からあまり堅くない業界の場合もプラス3を許してくれることが多い。

 ただし、私の観測範囲内でこのパターンの人物は全て東大か京大の出身だ。早慶や一橋で一浪二留、または二浪一留という人物は見かけない。一流企業に入る場合はそれなりのブランド大学でないと厳しい可能性がある。

プラス3:一浪院卒または一留院卒

 この場合は現役院卒の場合に準じる。一浪理系院卒の場合はハンデは全く無い。一浪で就職する人間と同じだ。ある意味で、全く就職にハンデを負わない過年度生の最大値が一浪理系院卒かもしれない。一留理系院卒もまた、ハンデは存在しないだろう。金融機関の就職においては強い。

 問題となるのは一浪文系院卒と一留文系院卒の場合だ。先程述べた通り、文系大学院はマイナスにこそならないが、プラス効果が弱い。従って、一浪文系院卒の場合はハンデとなるケースがある。二浪一留などと近い扱いの可能性も高い。必ずしも詰む訳では無いが、資格の取得などでリカバリーを考えた方がいい。

 因みに社会に出ると、このパターンの人間は意外に多い。プラス3まではぶっちゃけ社会でもギリどうにかなることが多い。問題はここからだ。

プラス4

 ここからデスゾーンに入ってくる。同級生でもプラス4は殆ど見ないし、社会でもあまり見ない。新卒就活で致命傷となる可能性が高い。頭が堅い会社に入るには極めて困難だ。

 プラス4の場合、大学入試で4浪した人は今まで1人も見たことがない。大抵が各ステップで少しずつプラスしていったパターンだ。一浪一留で大学院に進んだケースが挙げられる。二浪院卒というケースもある。法科大学院などで紆余曲折を経ているケースもある。

 プラス4の場合、大学を二回出ているのと同じ計算になり、周回遅れの人生となる。こうなると、最大で三歳年下が「先輩」となるだろう。日本の年功序列社会でもここまで来ると許容されないケースが多い。かなりレールから外れた人生になる可能性が高いだろう。

 基本的に上位層はもちろん、中間層に食い込むのも難しいが、それでも何とか同級生と似たような水準の会社に潜り込めるケースもある。だが、そうでないケースの場合は不可視化されている可能性もある。なお、基本的にまんべんなくプラスした方がダメージは少ないと思う。少なくとも大学院を出ていることは必須だろう。

プラス5

 このケースの場合は一大パターンがある。それは大学院博士課程である。彼らの就職の厳しさは良く知られている通りだ。理系の場合は修士に行くか博士に行くかで人生の分かれ目となるケースが多い。最近は人手不足からか博士でも就職できるケースがあるが、多くはテーマが専門的すぎて三浪扱いになってしまう。基本的に大学院博士課程の出身の場合は文系総合職は不可能と思って良い。ただし、理系就職の場合はどうにかなることもある。博士課程の場合も元から企業で働く気の乏しい人物が進学しているという可能性があるだろう。

 文系となると、もはや学者の道を歩む以外に活路は無くなってしまう。分野と関連のある業界に就職することは可能かもしれない。基本的にエリサラへの道は捨てたものと考えて良い。

 博士課程以外でプラス5の人間は人生でほぼ見たことがない。何らかの事情があるケースがほとんどだ。一流企業に就職している人間は皆無だと思う。

既卒

 プラス1であってもやってはいけないのが大学を卒業してしまうことだ。日本の新卒就活の奇妙なカルチャーである。理由は分からない。単なる慣行だと思う。1つ目は所属組織の無い人間は信用されないということだ。人間は空白期間が開くとダメになると思われているのである。もう1つの理由は「既卒になるような人」と扱われることだ。要するに、既卒が不利になることをわかっていながら既卒になる人間は、情報収集ができないか慣習に従えない人という風に判断されてしまうのである。

 既卒の就職力は弱い。概ねプラス4相当だと思う。明確な理由が存在しない限り、一流企業の就職は難しい。資格業や公務員を狙ったほうが吉である。あるいは何とか転職で逆転するかだ。

まとめ

 大学進学に年齢制限はない。何歳であっても大学への門は開かれている。しかし、就職は違う。大学受験は二浪までという日本のカルチャーを作っているのは大学ではなく、企業だ。日本の就職において、学歴と同等か、下手するとそれ以上の参入障壁となるのが年齢だ。正直なところ、若さは最大の武器だと行っても過言ではない。東大から一流企業に進み、部長職を経験した人物と、Fラン大卒業見込みの人物、どちらが価値があるかと言うと、後者である。年齢が増すほど自分の専門分野以外では価値が認められなくなる傾向が強いので、一年一年に人生の椅子取りゲームがかかっていると考えて良い。

 ただし、それを加味しても企業の年齢信仰は強い。年功序列文化が原因だろう。婚活においては年齢が重要とはいえ、原則として5年〜10年くらいの幅は許容される。新卒就職の場合は原則2年だ。人生100年時代を考えるとなんともシビアである。

 最も、企業の年齢判断がシビアである理由の1つは「レールに乗る能力」を見ている可能性もある。みんながやっている慣行に1人だけ従わない人間は使いにくいと思われているのだ。転職に関しても同様のことが言える。今までは転職が一般的でなかったので、中途で入ってくる人間はワケアリだと思われていた。最近は優秀な人も転職するケースが増えてきたので、寛容になり始めている。

 一方で、進学に関してはむしろストレート志向が強まっている。大学受験の浪人は激減している。この動きが強まると、大学受験で浪人という選択肢を取ることが「変わった人」「学歴に拘る人」「体調が悪い人」と思われるかもしれない。

 過年度生に関しては、プラス1はノーカウントだ。プラス2はやや理由を聞かれることが増えるが、一流大の場合はどうにかなるケースが多い。プラス3となると、大学院の進学が原因のケースが多い。文系の場合はこのあたりから厳しくなってくるが、自由な社風の会社なら寛容であることが多い。プラス4からはアウトローへの道を歩むことになる。プラス5以上は何らかの専門性がないと厳しいだろう。

 なお、プラス2まではほぼ問題にされないので、気軽に捉えた方がいい。というより、ここで悩む人間は落ちこぼれていく。二浪だと友達ができないという噂があるが、どう見ても間違っているし、そう思っている人間は浮きやすいと思う。

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