ライフシフト大学学長 藤田英樹

パナソニック、電機・電子・情報通信産業経営者連盟、などを経て、2022年7月 ライフシ…

ライフシフト大学学長 藤田英樹

パナソニック、電機・電子・情報通信産業経営者連盟、などを経て、2022年7月 ライフシフト大学学長に就任。 自らの経験と研究に基づく現場発のグローバル人材育成、組織開発、リベラルアーツ教育(特に日本の文化の源流、歴史、宗教、哲学等)を専門とする。

最近の記事

No.22 リベラル・アーツ 2024年 6月

「思索、美、倫理の尊厳は、永遠の理想の価値である」 ベネデット・クローチェ(イタリアの哲学者・歴史学者 1866~1952  「利己的な理由ではない愛を存分に注いだので、まだ私には愛の光が見える」 ジョン・ラスキン(英国の社会思想家・美術評論家 1819~1900)リベラルアーツの本質は、「美」であり、「利他の心」であると私は考えています。リベラル・アーツを学ぶことに魅かれる最大の理由は、そこに「愛の光」を見出し続けることができるからです。  私は、ライフシフト大学の講義や

    • No.21 運 2024年 5月藤田英樹

      「時(とき)は今 天(あめ)が下知る 五月かな」明智光秀 古今東西の歴史研究に興味が尽きないこの私が、5月を迎えるといつも思い出す句です。 天正10年(1582年)、本能寺の変(6月2日)の起きる約一週間前の5月24日に京都の愛宕神社で開催された連歌会に、居城の丹波亀山城から出かけた光秀が詠んだ句です。 この「時(とき)」が、明智光秀の本姓である「土岐」と掛けられ、「時は今、土岐氏である私が天下を治める五月であることよ」という隠れた思いを表した句だったのではないか、と言われて

      • No.20 直(すなお)2024年 4月藤田英樹

        「春は花 夏はほととぎす 秋は月 冬雪さえて冷(すず)しかりけり」 道元禅師 この言葉は曹洞宗開祖の道元が永平寺の夜空を眺めていて詠われた伝えられます。日本の四季、自然の美をありのまま、素直に賞でる気持ちがそのまま仏のこころに通じることを表して、その言葉自体が禅を説いています。 禅ではこれを「見性成仏(けんしょうじょうぶつ)」と言い、客体(見る対象)を通して、自分の身に備わっている「仏」としての真の性質を悟ることと解きます。 私はもっとシンプルに考えて、「今を生きる」ことを大

        • No.19 粋(いき)2024年 3月 藤田 英樹

          「梅は匂(にほ)いよ 木立(こだち)はいらぬ 人はこころよ 姿はいらぬ」 隆達小唄 (高三隆達(たかさぶ りゅうたつ)堺の僧 小唄・隆達節の創始者 1527~1611) 「花」と言えば、古来、中国では「桃」、日本では中世までは「花」と言えば「梅」、近世以降には「桜」と変遷してきた歴史があります。 どちらかと言えば、雅で高貴な風情のある桃や梅が、宮廷政治、王朝時代には似合っていましたが、武士の時代、とりわけ江戸期になると、咲いては 直ぐに散る桜が、「現世に執着せず、義のため

        No.22 リベラル・アーツ 2024年 6月

          No.18 風 2024年 2月 藤田 英樹

          「ひとつぶの砂に ひとつの世界を見、一輪の野の花に ひとつの天国を見、てのひらに無限を載せ、ひとときのうちに永遠を感じる」 ウィリアム・ブレイク(英国の詩人 1757~1827) 映画「博士の愛した数式」の最後にも登場する「無垢の予兆」と題した詩の一節です。 仏教で言う 「一即一切 一切一即(いっそくいっさい いっさいいっそく)」(華厳五教章) どちらも、「個と世界」、「一瞬と永遠」はひとつであり、つながっている、一如である と唱えます。 直観的にはなんとなく分かるこ

          No.18 風 2024年 2月 藤田 英樹

          No.17 波 2024年1月

          「春の海 ひねもすのたりのたりかな」 与謝蕪村  誰もが知る蕪村の代表句。本当は春の句ですが、私は冬の海をじっと眺めていてこの句が心に思い浮かんだのです。 正月休みに久しぶりに育った街 鎌倉を訪ね、稲村ケ崎から七里ガ浜をのんびり歩き、茫洋とした海と、寄せては返す波を眺めつつ、来し方行く末に思いを馳せ、たゆたう時間。 真なるものからの問いかけに耳をすます そんな心境です。  昨秋にふと訪れた京都で西本願寺を訪ね、その堂に掲げられた扁額に書かれていた「見真」の二文字が爾来ずっ

          No.16 星 2023年12月

          「冬の夜の 星君なりき 一つをば 云うにはあらず ことごとく皆」与謝野晶子(1878-1942) なんともはや浪漫と抒情に溢れる歌です。「亡くなったいとしのあなたは一つの星に留まらず満天の星々すべてがあなたなのです」男たるもの愛する女性からこのように謳われてみたいものですが、当の与謝野鉄幹はこの詩集「白桜集」が発表される7年前にこの世を去っているので、果たしてこの晶子の熱き大きな思いを面映ゆく感じているやもしれません。この「満天の星」全てに姿を変えるという考えは、私的には、死

          No.15 山 2023年11月

          「山のあなたの空遠く 『幸い』住むと人のいふ。 噫(ああ)、われひとと尋(と)めゆきて、涙さしぐみ、かへりきぬ。 山のあなたになほ遠く 『幸い』住むと人のいふ」 ドイツの詩人カール・ブッセの詩、上田敏の名訳(1905年 海潮音に掲載)です。「山の遠くの彼方に行けば幸福が住むと聞き、大切な人と一緒に幸福を探しに行ってみたが、どうしても見つからず、涙を浮かべて帰ってきた。求める幸福は山のもっと遠い向こうにあると人は言うのだ」これに対し、「幸福はどこにあるのか」を問う同じ欧州の童話

          No.14 塔 2023年10月

          「ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なるひとひらの雲」 中学時代から毎年のように奈良に通い続けてきた私の好きな歌、明治の歌人佐々木信綱の代表作でもあります。ここに歌われた塔は、奈良・西の京の薬師寺の伽藍の中に聳える東塔です。西塔は1528年戦火により焼失し1981年(昭和56年)に再建されましたが、東塔は、創建時から唯一残る建物で、730年(天平2年)の建立ゆえ、実に1300年の歴史をその姿に刻んでいるのです。 実は三重の塔にも関わらず、間に裳階(もこし)が入り優美な五重の塔に

          No.13 雲 2023年9月

          「白雲に心を乗せてゆくらくら秋の海原思ひわたらむ」怪談・奇談小説『 雨月物語』 の著者として有名な上田秋成(1734 18091809)が詠んだ歌です。江戸中期の歌とはとても思えないような、秋の澄み渡る情景と、作者の心象風景が見事にマッチした歌だと思いませんか?「ゆくらくら」とは、「ゆっくりゆっくり」の意です。日本人にとって「秋」の季節から連想する一番の光景と言えば、やはり青く広い空と、そこに浮かぶ白い雲ではないでしょうか?澄み渡る透徹さこそ、秋の新骨頂であり、それに繋がる様

          No12輪廻転生 2023年8月

          私の好きなユーミンのアルバムに“リインカネーション”があります。 まさに「輪廻転生」に触発されて創った14番目のアルバムで、そこに入っている珠玉の曲は、名曲「星空の誘惑」などいずれも甲乙つけがたいのですが、私は「ずっとそばに」が好きです。『たなびく夕映えの雲 私に涙あふれさせてくれた代わりに そっと呼んで 辛いならば 時をかけて行くわ。君らしいフォームでゆっくりと泳いで ふりそそぐ8月の雨 私をはだしで笑わせてくれた』 この歌詞、この曲を昔、ユーミンの8月恒例 逗子マリーナ

          No11 灯 (ともしび) 2023年7月 

          “ともし火に我もむかはず ともし火も我にむかはず 己(おの)がまにまに”光厳院 北朝最初の帝である光厳天皇が、乱世に翻弄された晩年、上皇になってから詠んだ歌です。 この歌に昔初めて出会った時、天皇の歌とは思わず、作風と思惟の方向から当然近代短歌と思ったのですが、実に14世紀の半ばに作られた連作の一首なのです。光厳院が灯の中に何を見たのか、灯とあえて向き合わない自分、灯も自分を照らしているようでいて、照らしていない自分がいる姿。両者は自在であります。 普通に考えれば戦乱や権

          No11 灯 (ともしび) 2023年7月 

          No10 Heart Soul 2023年6月

          “heart”と soul ”って、何が違うの と言う野暮な質問は脇に置いて、まずは「心のままに」、「一心不乱」にそして「全身全霊」で夢中になること、それが“heart & soul ”の境地です。そのフレーズは、music の世界では象徴的に使われており、私の感覚では、「一体感」や「ノリ」を表すgroove とも重なりますし、“ soul music の原点である“ gospel & blues ”の spiritful な叫びやうねりを貫くものです。 私が最初に“ hea

          No.9 学ぶ 2023年5月

          “少年易老学難成(少年老い易く 学成り難し)一寸光陰不可軽(一寸の光陰 軽んず可からず)”宋の儒学者 朱熹(朱子)が書いた漢詩の一節が由来とされてきましたが、近年では、室町時代の禅僧惟肖得巌 (いしょうとくがん の漢詩が原典とされています。 私は最近痛切に思うのは、学びに費やす時間、自己投資の時間の貴重さです。そして、年を重ねるに連れて学びへの飢餓感が増して来るのと同時に、その発露「Output 」の大切さを実感します。 Input と Output の両方を実現しようと思っ

          No.8 暦(こよみ) 2023年4月

          ライフシフト大学では意気軒高な8期生を迎えて新たなプログラムをスタートしました! “世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし” 在原業平(古今和歌集) 季節に結びついた日本人らしい心を詠んだ歌です。日本では4 月は官公庁や企業の新年度がスタート、学校も新学期が始まり、新入社員や新入生が溢れ、異動や転勤に伴う引越しも多く、期待と慌ただしさと一抹の不安が漂う季節です。しかし、この心持ちは日本特有の姿でもあります。 桜の咲かない多くの国や、会計年度が1 ~12月の中国

          No.8 暦(こよみ) 2023年4月

          No.7 まれびと 2023年3月

          “桜の花 ちりぢりにしも わかれ行く 遠きひとりと 君もなりなむ” 釈迢空 (しゃく ちょうくう)卒業、そして桜の季節になると私の頭をよぎる歌のひとつです。この歌を聞いて皆さんはどのように感じますか? 私も以前は、「舞い散る桜の花びらのように、皆別れ別れになっていく。 君も遠い存在になってしまうのだろう。」と額面通りに感傷的にとらえていたのですが、いまこうして人生を歩んできてシニアになってみると、この歌は愛惜の歌というより、むしろこれからの人生への賛歌であり、また邂逅を期して