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No.14 塔 2023年10月

「ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なるひとひらの雲」 中学時代から毎年のように奈良に通い続けてきた私の好きな歌、明治の歌人佐々木信綱の代表作でもあります。ここに歌われた塔は、奈良・西の京の薬師寺の伽藍の中に聳える東塔です。西塔は1528年戦火により焼失し1981年(昭和56年)に再建されましたが、東塔は、創建時から唯一残る建物で、730年(天平2年)の建立ゆえ、実に1300年の歴史をその姿に刻んでいるのです。 実は三重の塔にも関わらず、間に裳階(もこし)が入り優美な五重の塔に見える特徴があります。寺の塔は、元来人々から仏舎利(お釈迦様の遺骨)を安置するお墓として崇められてきましたが、現代人は、空を切り裂き高く聳え立つ塔に純粋に憧憬や畏敬の念を持つのではないでしょうか。

私も塔が好きです。 それは、五重塔・三重塔のみならず、城の天守閣はもちろん、東京タワーやスカイツリーなどの現代建築の塔、海外でしたら、エンパイアステートビルに代表されるNYやシカゴの摩天楼、パリのエッフェル塔、フィレンツエのジョットの鐘楼、ドバイのブルジュハリファ、クアラルンプールのムルデカ118など昇ったことがある建物、一度は昇ってみたい建物がたくさんあります。 私は二十歳を超えた頃から、自分を「突端探検者」と勝手に名付けています。 塔を見つけると、垂直的(vertical)な突端を目指したくなり、岬や海峡・地峡等 水平的(horizontal)な地の果てに出会うと、その先端に行ってみたくなるのです。 だから日本ならば宗谷岬・納沙布岬・竜飛岬・樫野崎・佐田岬・佐多岬のような岬に、アメリカでしたら50州最南端のハワイ島のサウスポイント(カラエ岬)やミシガン湖に突き出たウィスコンシン州のドアカウンティ等に吸い寄せられ訪ね歩いて来ました。塔や突端が、バベルの塔、襟裳岬、足摺岬、フロリダのキーウェストの如く物語や音楽の舞台になるのは、人間がそこにロマンやミステリーを感じるからでしょう。突端を訪れると、人は現実を脱し、自分のちっぽけさを認識し、眼前に拡がる光景に重ねて未知の世界や未来に思いを廻らせます。
皆さんもそれぞれの突端を探しに行きませんか? 

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