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怪異 排管の中

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怪異 排管の中(6) 真相篇

怪異 排管の中(6) 真相篇

真相

 五月の後半。空は今日も黒く厚い雲に覆われて、今にも雨を降らさんとする様相を呈していた。湿り気を帯びた暑い空気が、昼過ぎの町に漂っている。メガネをかけた背の低い男が、一人、空を恨めしそうに見上げて立っていた。と、そこへ白塗りの病院らしき建物から出てきたグレーの背広を着た大柄な男が駆け寄ってくる。

「貞平さん、お待たせしました」

「おおっ、宅間、遅いじゃねぇか!」

 宅間と呼ばれた大柄

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怪異 排管の中(5) 真相篇

怪異 排管の中(5) 真相篇

長屋 治夫の独白

 俺の神経は活動を停止し、やがて、全ての細胞が活動を停止するだろう。その間に、一片の記憶だけが蘇ってきた。あの一月に失踪したという広岡 百合香という若い女についてだ。

 それは、心底、身も心も凍るような一月の寒い夜だった。煌々と満月の照る晩に、このアパート付近を彷徨っていたのが、この女だった。この周辺の複雑に入り組んだ迷路のように、同じような形状の建物が立ち並ぶ住宅街は、時に

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怪異 排管の中(4)

怪異 排管の中(4)

怪異

 静寂・・・。潜在意識の裏側から、徐々にぼんやりとした顕在意識へと意識が戻ってくる。雀の甲高い鳴き声が、だんだんと耳の奥を刺激する。まだ、肌寒い外の風が、窓の隙間から俺の肌を刺してくる。

 まぶたの裏側を通して見えるのは、薄いオレンジ色の光が揺らめく姿だ。また、裸電球が点けっぱなしなのだろう。俺は、反射的に目覚まし時計の方を向いて、うっすらと、まぶたを開けた。長針が八と九の間を指し、短針

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怪異 排管の中(3)

怪異 排管の中(3)

夢魔の刻

 混沌とした浅い眠り。食欲を満たし、酒の力を借りて、ゆっくりと潜在意識を通り越した未覚醒意識への探求だ。ぼんやりとした頭の中に、二か月前の事件が脳裏に浮かび上がってきた。

 あれは三月下旬の晴れた日の事だ。強く玄関のドアをノックする音で目が覚めた。誰が叩いているのか、オンボロな木製のドアがきしんで音を立てる。

「は~い・・・」

 俺が寝ぼけた調子で返事をすると、野太い声で”警察で

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怪異 排管の中(2)

怪異 排管の中(2)

怪音

  今日は日曜日だ。一般ピープルは、休日と呼ばれるようだが、俺は今日もバイトに明け暮れる。今日のバイト先は、俺の住む町から黄色の鈍行電車を乗り継いで約五十分ほどの都心に、ほど近い中規模な会場だった。今日は年に二度ある自動車の展示会イベント、モーターショーである。

 新型の自動車はもちろん、レトロな車や消防車や自衛隊の特殊車両なども展示してあり、当然、車好きだったり、車の試乗、購入目的の人

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怪異 排管の中(1)

怪異 排管の中(1)

アパートの一室

 どんよりと厚く黒い雲に覆われた早朝。まだ、夏には早いというのに、五月の冷たい冷気に混じり、湿った暖かい空気が混在して漂っている。ジメジメとした湿気が、畳の下から湧き上がり、部屋の空気を澱ませていく。薄暗い光が、窓越しに入っている。

「ふぁぁ~っ・・」

 大きなアクビをして、俺は目を覚ました。淡い光が、まぶたを通して、刺激を与えてきたからだ。うっすらと目を開けると、ぼんやりと

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