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世界はここにある⑬  三佳篇㈥

「ロイ王子はサラ妃と一緒にインタビュー冒頭にお会いになられます」
ポールの悠々たる態度から発せられたその一言にもサツキと目撃した事実が変わるものではない。幕間にすっかり変わってしまったストーリーを誰が理解できるだろう、三佳はそう思った。

「私は息子さん…… 王子がいきなり刺されるのを見ているんです。この目で間違いなく。もし、明日、その王子に私がお目通りがかなうのであれば、すぐに本当の王子かどうかはわかります。それぐらい鮮烈にあの出来事は焼き付いてる」
三佳は出来るだけ自身が興奮しないようポールに伝える。

「いいでしょう、あなたが何を思うのかはあなた自身の問題です。そして何を主張なされようと。いずれにせよそのことについてあなたは責任と、それについての代償を払うことになる。それを理解したうえで明日のインタビューに臨まれると宜しい。我が国の皇太子に」
ポールは最後通牒のごとくそう言い席を立つ。

「待って、私達をどうするの」

「どうもしませんよ。車でお送りしますからお帰りください。この国にいる限りあなた方はゲストとして歓待されなければならない。我々は日本人と同じく礼節を重んじる。あなた方がこの国を出るまでは安全を保障します」

 ポールは三佳にまた少し笑みをこぼしてそう言った。

 ポールは扉をノックして開けるよう合図する。外に控えていたであろう男に荷物を返して三佳たちを送るように指示した。

 サツキは安堵の表情で三佳を見る。 
しかし三佳の疑念は益々大きくなる。ポールの含みのある言葉にここへ連れ来られた時以上に恐怖は増していたが、それをサツキに悟られないよう自分もサツキに笑顔で返した。

「ああ、一つお聞きしてもいいですか、ミカさん」
去ろうとしたポールが振り返る。

「なんでしょう」
「失礼だが先ほどお預かりしたバックの中にはあなたのスマートフォンがなかったようですが、どうされました?」
「スマホ? なかったですか?」
「ミス・ドウヤマはお持ちだったようだが、あなたのものはなかった」

「それは困ります。もし本当にないのならあの池のどこかで落としたのかもしれない。探しに行かないと」
三佳は池を強調しすぎないように注意して言った。

「それには及びませんよ。部下に池の周りを探させて明日までにはお届けできるように手配します。ご安心を」
ポールはそう言って今度こそ部屋を出ていった。

 三佳は背中に冷たい汗が伝うのを感じていた。

 暫くたってバックとカメラを返された二人は、また護衛らしき男達に連れられ駐車場に用意された車へ案内された。ポールが車の扉を開けて二人を待っていた。
「会えてよかったですよ。またお会いする機会があればいいですね」
ポールは握手を求めてきたが、二人は軽く会釈だけをして車に乗り込んだ。また誰かが横に乗り込むかと思ったが今度は二人だけだった。
「明日、私は同席しませんが良いインタビューがなされることを期待してますよ」
そう言ってポールはウインクをしたあと車の扉を閉めた。車はすぐに発進する。
三佳はリアウインドウ越しにポールを見る。
軽く手をあげるポールが見て取れた。

「必ず探し出せ。できなければ彼女のスマートフォンのデータを全て洗い出せ。そして削除しろ」
ポールはそう傍らの男に指示をする。

「いい子でいてくれよ、ミス・タチバナ。それでなくともラッキーなんだ君たちは。そうですよねぇ?ドクター」

ポールは駐車場の扉の内側に立つ男に向かいそう言った。


 
 車中でも運転手の目と耳がある。カメラやマイクなど当たり前だろう。日本語の会話だから安心などと子供の判断はできない。だがやらなければならないことがある。
「サツキ、スマホ貸して」
「チーフに連絡するんですか」
「そうね」
サツキが差し出したスマホで自分の会社用のクラウドの自身のアカウントにログインする。アップロードした画像データはまだ残っていた。三佳はそれをメールで東京で留守番中のスタッフの一人に暗号化して送り、サツキのスマホにもダウンロードした後クラウドデータを削除した。そしてチーフに電話をする。

「サツキか? 宮根」
「チーフ、立花です」
「あ? 三佳か? なんでサツキの携帯なんだ」
「ちょっとスマホ失くしたみたいで、仕事用の方、すぐにロックかけて欲しいんですけど」
「はあ? 何やってるんだよ全く…… わかった。今どこだよ」
「ホテルへ帰るとこです」
三佳は運転手の様子と周りの風景を伺いながら言った。
「写真はイイの撮れたか」
「まあまあ良いのが撮れたとは思うんですけど。帰ったら確認してください」
「向こうさんは確認してくれてOKはでているんだろうな」
「その筈です」
「その筈ってなんだよ」
「いえ、確認してもらってます」
「おい、大丈夫なんだろうな? あとで問題になると大変だぞ」

 三佳はすでに大問題は起きてしまっていると思うも、今は何事もないように答えた。
「何も問題はありません」

 サツキは心配そうに三佳を見た。
三佳は電話を切るとダウンロードした写真を確認する。

 そこには二人が見たものが紛れもなくあった。



『三佳』篇㈦に続く

★この作品はフィクションであり登場する人物、団体、国家は実在のものと  一切関係がありません。

エンディング曲
On&On  Erykah Badu
Erykah Badu Official


世界はここにある①    世界はここにある⑪
世界はここにある②    世界はここにある⑫
世界はここにある③
世界はここにある④
世界はここにある⑤
世界はここにある⑥
世界はここにある⑦ 
世界はここにある⑧
世界はここにある➈
世界はここにある⑩

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