Letter to ME

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7日間で世界を作ることはしないだろう

小説を書いている。すごく久しぶりだ。長い時間をかけて、なにを書こうか考えていて書き出したのは数か月前だったけれど、2,000字ほど書いてずっと手が止まっていた。あれこれしているうちにもう締め切りがすぐそこに迫っていて、それでも私はまだ内容をこねくり回して考えあぐねている。

書くことがすごく楽しかった何年か前に比べると、今はそれほどの楽しみも興奮もない。そもそも書く機会や書く時間が減っているのだか

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8

心の丁寧さ

夫が起き上る衣擦れの音で目が覚めた。外からは相変わらず雨の音がしていても、厚い雲の向こうではちゃんと太陽が出ているらしくほんのり明るい。朝だな、とだけ思ってまた瞼を閉じる。夫が階段を下りていく音がする。静かに、ゆっくり、少し湿った足の裏をそっと階段につける音。平日中々起きないのになぜか休日だけはさっと起きる彼は、私を無理に起こすことはしない。私も、小学生の頃は5時とか6時に目が覚めていたんだけどな

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7

さようならが言えなくて

先日実家に帰ったら、知り合いがくれたんだけど、と、まるまる太ったすいかが出てきた。実家には父母しかおらず、ひと玉食べることはできないからもらってほしいという。私も夫もすいかは好きではないが、季節のものとなると食べたくなるのが人間のさがとでも言うのだろうか。協議の末、半玉もらうことにした。大きなすいかは、半分に切られても重く、入れてもらったビニル袋の持ち手がだらしなく伸びていた。

のらりくらりと生

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4

窓越しに逝く春

今年は窓越しに春が終わっていく。社屋の裏には地元で桜が有名な公園がある。
晩冬から、桜はいつ咲くか、などと話していたのに、気づけばもうほとんど緑がかった木ばかりになっていた。いつもなら、家族と一緒に見ていたはずの桜だったが、今年は世の情勢とそれ以上に自分の心に余裕がないために、気づけなかった。毎夜、とぼとぼと公園を横切って駐車場へ行くまでの道すがら桜の木を認識していたはずだったが、夜桜とは言えない

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11

透明の光に包まれて

朝、遮光カーテンを引いていても明るくなる部屋で、私は目を覚まし直感的に「無理だな」と思い、まだいびきをかいて眠っている夫を頼りない声で起こした。
今日は仕事休みます。私のかすれた声をきいて、夫は静かに起き上がりこちらの顔をのぞきこんでわかったよ、とそれはそれは優しい声で言った。一日休むの?職場に電話しておこうか。私が言うよりも先に、彼は察するものがあったのか、願うとおりのことを言葉にしてくれたので

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11

報われない夜に

報われない、と、漠然となってしまう夜がある。
何がどう報われないのか、でも、私には説明ができない。なぜなら報われるような努力はしていない。していないけれど、報われたいと思うことはいろいろある。
人との関係、仕事での立ち居振る舞い、日々の生活。少し、私も、報われたなと思うことがあってもいいじゃないか、と。努力はしていない。努力することはないのかもしれない。そんなことで努力することはばかげている。だっ

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7

悲しみなんて自分ひとりで癒すものさ

友人の中でもわりかし親密な友人の誕生日があったことをうっかり忘れていて、急いでメッセージだけを送った。私はもうすでに三十路の洗礼を受けて身体がボロボロです、と文字を打って、なんだか本当にその通りすぎてちょっと悲しくなってしまったので送るのを少し思いとどまった。
最近は病院ばっかりかかっていて、毎朝昼晩と薬を飲んでいる。食前と食後。しかも塗り薬もあるし、歯科にもかかっているので今日は麻酔を打ったので

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7

理解の及ばぬ天啓

この時間になると決まって隣家が少し騒がしい。
ドアを開けたり閉めたり、家具を動かしたり、歩き回ってみたり。本当にそんなことをしているのかは知らないが、ドタドタ、ガタガタ、何かしら音を立てている。

何度か見かけた隣家も、私たちと同じような若いカップルだった。夫婦かもしれないが、特筆することのない二人だった。
その前の入居者は私たちよりも先に入居していて、夫婦と子供の3人ぐらいだったようだけど、冬の

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4

苦しみなんかどうでもいい

背中が痛い。夫が帰ってこない。疲れた。もうみんなうるさい。どうしたって報われない世界で、どうしてこんなに何かを求めたいと思っているのか、それすらも本当は嘘なのか自己暗示なのか、毎日迷子になって苦しんでいて、でも、そういうこともすぐ忘れる。だって背中が痛いし夫は帰ってこないし疲れているしみんなうるさいし。

世の中陰鬱でみんな晴れ晴れとしないで、晴れ晴れとしないということをまたみんなが言い募って、私

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9

ランクヘッドとわたし

中学生のころからずっと好きだったランクヘッドというバンドがいる。
初めて聞いたのは中学二年生のとき、スペースシャワーだかでたまたま「体温」が流れていた。ぞわっと鳥肌が立って、あ、これだ、と思った。

いつの時代もその流れに乗っていればそう思うのかもしれないけれど、私が中学二年のときは、いろんな邦楽ロックのバンドが出始めていた。BUMP OF CHIKENとかロードオブメジャーとかBaseBallB

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