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#散文詩

断章

 メディアが撒いた物語たちの断片が僕の内側にたくさん突き刺さっていて、ことばが阻げられているような気がするんだよ。今起こっている全ての議論を収斂するとメディア論になるんだって話、したっけ。あなたを僕はここからこうして液晶で見据えているけど、だんだんとあなたの輪郭がぼやけてくる。あなただけじゃなく、風景も、空気も、ゆがんでくる。あなたは実は何を見ているのかわからない。僕はあなたを見ていると思っている

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最上階の風

最上階の風

ここはとても高いところであり、あなたに最も近いところだろうと直感しながら、一歩一歩と風をあずかりながら右足を、そして左足を前へと進め、ひんやりとした銀の手すりに触れる。ここにはいつも同じ風が吹いています、と呟きたくなる。同じ風です。ここに来るまでは、それはあなたの不在の絶対性を画定させ、鈍色の寂寥をはこんでくる、絶望的な風だとおもっていました。けれどなんでしょう、この風はあなたのように優しく、包む

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Dead "in" Alive

Dead "in" Alive

 死と生の間にはじつは境界なんて存在しなくて、それは陸続きの、明るい昼の散歩のような強度で入ってゆける。思い出のグラデーション、極彩色の陥穽のトンネルを抜けると、そこは黒い白の世界で、まさに、白が黒いこと以外はこの世と変わらないんだ。風は黒、雲は黒、傷口は白、花々は黒、脳漿は白、燻っている肉体の白―。唯一色彩を持っているのは、くちびる。無声映画の鮮烈な白と黒のほとばしりの中に、ひとすじの紅が咲く。

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#48 JAZZ

 

ピアノが一音ずつ繊細に、けれども確実に響いていって、ドラムはそれに合わせて、しかし前に出過ぎない。サックスがその音楽に声をもたらすまで。だからぼくは”それ”が嫌いだ。音楽は絶望なのに、”それ”は何かを笑い飛ばそうとする。前に進もうとする。ストレートノートの整然を突き崩すスウィング。でも悪びれずに、あくまで笑っている。”それ”に触れてから、心臓の鼓動もスウィングの中にあって、ぼくの四肢は、指は

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#46 リングワ・フランカ

#46 リングワ・フランカ

 夜には言葉が浮かんでいる。愛情、社会、本棚、楽しい歌、教授、先端恐怖症、性交、最新、幻想。それらは全てくだらないジャンクだ。しかし脳はそのガラクタの浮遊体たちから夢のロジックを組み立てる。簒奪されたすべての物たちが、夢から漏れ出る。その白い光の瞬きは、さながら夜に散る白梅。だから、夜にほの明るい残光が散っていたら、それは誰かの夢の欠片だ。継ぎ接ぎにされた主題たちの、真昼へ向けた一つの挽歌だ。夢は

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