#48 JAZZ

 

ピアノが一音ずつ繊細に、けれども確実に響いていって、ドラムはそれに合わせて、しかし前に出過ぎない。サックスがその音楽に声をもたらすまで。だからぼくは”それ”が嫌いだ。音楽は絶望なのに、”それ”は何かを笑い飛ばそうとする。前に進もうとする。ストレートノートの整然を突き崩すスウィング。でも悪びれずに、あくまで笑っている。”それ”に触れてから、心臓の鼓動もスウィングの中にあって、ぼくの四肢は、指は躍り上がってそれを求めた。いまから100年も前の、歌わなければ、ぼろのアップライトを叩いて鳴らさなければやりきれなかった黒人たちの汗のしたたり、労働と祈り。モノクロームなトーキーが鳴る。文化の混じり合う場所には、ピアノとサックスと、ドラム。ドラッグとセックスと、とびきりの熱気。そういったものをぼくは嫌悪する。けれども血はリズムを乱してそれを迎え入れ、ぼくの内部に高らかに響かせた。

”JAZZ”、と。