断章

 メディアが撒いた物語たちの断片が僕の内側にたくさん突き刺さっていて、ことばが阻げられているような気がするんだよ。今起こっている全ての議論を収斂するとメディア論になるんだって話、したっけ。あなたを僕はここからこうして液晶で見据えているけど、だんだんとあなたの輪郭がぼやけてくる。あなただけじゃなく、風景も、空気も、ゆがんでくる。あなたは実は何を見ているのかわからない。僕はあなたを見ていると思っているけれど、あなたを感じられない。それは世界と人間の関係みたいに適当で淡泊なものなんだろうね。

 こんなに素敵な夜にはキスをしたいと思うよ。キスは生にまとわりつく一瞬の火花であり、確実な確認手段だと思うんだ。あなたは、ここにいる。ぼくは、あなたを思っている。夜更けに舞う白熱灯の光の粒みたいに、仄かに温度がある。かたや、画面越しの平面、それは可能性の放棄だと思うんだ。みんなでキスをして、それでさっさと死んでしまえばいいのさ。デラヴォーン・セローン。

 本当の話、最近はことばが枯れていくように、感じるんだ。音楽に心を犯され、メディアに何かの種を脳に埋め込まれているような気分なんだ。それはドクロマークの瓶みたいに、確実に有毒だってわかってるような恐ろしさがある。ぼくは、毒に侵されながら、確実なものを求めてる。たしかさしか愛せないようにしたこの世界が悪いとでも言うような、憎たらしい眼をしながら。