フォローしませんか?
シェア
I et.al.
2020年12月25日 03:27
たくさんの眠りたちの 泥のように重たい霧を 切り裂いて 自動車は進む かれらの無数の夢を蹂躙しながら 深く 遠い部屋をめざして。運転手はタバコに火をつけ 前を向いているけれど何も見ていない 彼は。夜の眠りの霧の中を ぼうっとした灯りだけが静かによぎってゆくその あとから 刹那にクラクションの大音量がうち響いてくる 確実に、しずかに。
2020年12月23日 01:25
いっぽんの麦を摘むそこに意味はあるかかぼそいその命は意味を持って生まれてきたのか憂いや 義務や 運命や 未来やそういったつまらないものをすべて越えてただいっぽんの麦は屹立するしずかに風に応え 穂をそよがせながらただその乾いた茎のうちに螺旋のように萌えつきる焔を事実としながら。
2020年12月18日 22:43
黒ずんだ泥濘のなかから 一人の死者が咲いた花のようにあでやかに それは見事に死んでいた教会堂の石櫃のごと それはうららかなる明度「花」か「死体」か ラヴェルは迷いそして壜には 「花火」とつけた
2020年12月14日 00:28
白熱電球の微光が、夜の霧を貫いています。ここはひどく寒い。雪にとざされたローカル線末端の駅の待合は、まるで暗闇の大洋に浮かぶ一艘の帆船です。排気ガスを吸い込んだ雪のような、わたしの制帽の下のくすんで醜いグレーの髪がガラス窓に映って、悲しみでもなく、達成感でもないうつろな感情が、しずかに立ちあがってくるようです。待合の石油ストーブの上にかけた薬缶のお湯が、少しずつ気体となって、わたしにわたしが生き
2020年12月6日 03:59
コインランドリーの大きな洗濯機の窓たち。柔軟剤の香り。流れてゆく時間。LED電球の過剰な明るさ。待合椅子。洗濯機の規則的な駆動音は輪唱となって、しずかに空気を揺らす。人々の暮らしは、色とりどりの渦のなか。洗濯機の円い窓の奥のほうに、わずかな暗がりがあり、そこにはほのかに悲しみが淀んでる。夜に浮かぶ小さな小舟の中で、動力部のように、それはまわっている。まわってゆく。 生活はまわる。きょうも。き