記者会見

首相記者会見を「茶番劇」にしないためには?

江川紹子氏の質問

フリージャーナリストの江川紹子氏による「新型コロナ対策・首相記者会見で私が聞きたかったこと~政府は国民への説明責任を果たせ」という記事を読んだ。

2月29日18時に始まった安倍晋三首相の記者会見は、19分にわたる首相のスピーチで始まり、続く質疑応答では、記者クラブ「内閣記者会」の幹事社である朝日新聞・テレビ朝日の記者から質問があり、その後、NHK・読売新聞・AP通信の3記者の質問が指名されて、たった36分で終わった。

そもそも首相サイドの定めた記者会見の予定が20分しかなかったというのだから、最初から質問に真摯に答えるつもりなどなかったことは明白である。

江川氏は「はい」と大きな声を上げながら何度も手を挙げたが、司会の長谷川栄一内閣広報官は「ただの一度も私の方に視線を向けなかった」という。首相が最後の回答を読んで会見が終わりかけたので、江川氏は慌てて「まだ質問があります」と2度言ったが、長谷川広報官は「予定の時間を過ぎておりますので」と受け付けなかった。

さらに江川氏は「最初の質問にも、まだちゃんと答えられていません」と言ったが、安倍首相はファイルを閉じて降壇し、部屋を出て行ってしまった。その後、首相は、そのまま私邸に帰ったことが判明している。さすがに首相の大好きな会食は控えたようだ。もし「おともだち」と会食していたら、国民よりも「おともだち」を選んだのかと大騒ぎになっていただろう(笑)。

仮に江川氏に質問のチャンスがあったら、首相に何を問い掛けたのかについては、上記の記事に詳細が記載されている。

「準備期間もほとんどないまま、休校に踏み切ることで、様々な弊害やリスクがある。そうした弊害やリスクと、休校を実施することによるメリットの兼ね合いを、誰とどのような形で検討し、それぞれの弊害やリスクについて、どのように調整、もしくは克服することにしたのか」

「全国一斉の長期の休校を実施することによって、期待される効果や獲得目標を具体的に示して欲しい」

「小学校を休校にして、学習塾も休業させるが、学童保育を開業、保育園も開園する。この判断は、どういう根拠や目的でなされたものか。学童保育の安全をどう担保するのか」など。

どれも、すばらしい質問である。しかし、そもそも江川氏が指名されて、首相が自分の言葉で答えるような「正常な質疑応答」がありえただろうか?

今回の「全国一斉休校」要請が、周到に準備されたものではなく、首相の思い付きにすぎないことは、ほぼ判明していたことである。だから彼は、細かい質問に答えられるはずがない。つまり、江川氏をはじめ、詳細な質問をしそうな記者が指名されないことは、十分予測できたことなのである。

おそらく安倍首相のブレーンは、「今日の記者会見では、すべて台本通りに進めてください。何があっても、総理ご自身の言葉で答えてはなりません。終わり次第、すぐに降壇してください」と釘を刺したはずである。

もし首相が思い付きで答えるとどうなるか? その発言に合わせて官僚の「忖度」が始まり、公文書改竄・捏造や、公文書紛失・破棄、そして多くの犠牲者が生じる光景を、すでに国民は飽きるほど繰り返し見てきたではずである。

どうすればよかったのか?

記者会見を見ていて連想したのは、小学校の教室である。「安倍」先生が用意してあった文章を朗読し、前列に座る「記者クラブ」の5人の優等生が事前に提出した予定通りに質問して、先生が台本通りに答える。他の子どもは完全に無視されるが、誰も怒らない。皆、あまりにも「物分かり」がよすぎるのではないか。

首相は、2つのプロンプターを見ながらスピーチを行い、会見台の上に広げられたファイルを読みあげている。このファイルは、佐伯耕三首相秘書官が事前質問に対して書いた答弁書を会見直前に持ち込んだものだという。

つまり、すべては台本通りに進む「茶番劇」であり、そうなることは開始前から予測できたはずである。したがって、心ある記者は「茶番劇」が行えないように対処すればよかったのである。具体的には、どうすればよかったのか?

これがハリウッド映画だったら、いたずらっ子が、①首相のスピーチの途中でプロンプターを故障させる、②会場の外で秘書官にぶつかって、黒いファイルの答弁書を漫画とすり替える、といった場面が目に浮かぶ(笑)。

冗談は別として、現実の記者にできたことは、江川氏と同じように大声を出すことだろう。それも「まだ質問があります」ばかりでなく、「なぜ答えないんですか」「たった36分で国民への説明責任を果たしたことになりますか」などと、複数の大声がほしかった。

それでも首相が無視して出て行こうとしたら、「大事な会見ですから続けてください」「最低でも2時間は必要だ」「答えられないんですか」「逃げるんですか」「国民に誠実に答えてください」などと大声で叫ぶべきだった。

あるいは、どうせ指名されない記者たちは、会場に行っても「意味がない」のだから、ボイコットしてはどうか。会見会場には、首相と事前質問の5人の記者しかいなかったら、それはそれで大きなニュースになっただろう。

いずれにしても、一国の首相と記者団が「正常な質疑応答」さえできない現状は、世界でも類を見ない異様な光景といえる。

首相とブレーンの「茶番劇」を批判する記事は多いが、結果的にこの種の「茶番劇」を何度も何度も見せつけられるのは国民である。首相サイドが方針を変えない以上、それを覆すことができるのは、心ある記者だけである。記者諸氏には、ぜひ何らかの対策を講じていただきたいものである。

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