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最新刊『新書100冊』発売開始のお知らせ!

最新刊『新書100冊』(光文社新書)が発売開始になっています!

本書は、2019年7月〜2023年7月に刊行された約5000冊の新書の中から、私が責任を持って選び抜いた「新書100冊」を紹介します。また、本書掲載のコラム「『新書大賞』について」では、小集団の偏向審査に基づく「新書大賞」の「廃止」を提言しています。

本書の100冊の書評は、絶対に「その著者だけ」にしか書けない新書、一流の科学者が最先端の研究成果をわかりやすく解説してくれる秀逸な新書、日本の抱える諸問題に本質的に斬り込む斬新な新書ばかりを集めてあります。多種多彩な「知的刺激」が凝縮された100冊の書評をまとめて見ると「壮観」です。本書が何よりも読者の「視野を広げる読書」のお役に立てば幸いです。

はじめに――視野を広げる新書の世界

 現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえる。
 本書では、二〇一九年七月〜二〇二三年七月に刊行された約五〇〇〇冊の新書の中から、私が責任を持って選び抜いた「新書一〇〇冊」を紹介する。本文は、二〇二〇年一〇月〜二〇二三年七月に光文社新書note「新書こそが教養!」に連載した書評に、加筆修正を施した内容になっている。
 書評対象とする新書の選択に当たっては、まず著者がその分野で信頼に値する専門家であることを調査した。次に新書を熟読して、(一)記述に誤りはないか、(二)文章の構成は論理的か、(三)先行・関連研究との比較は十分か、(四)議論に主観的な偏りはないか、(五)新規の内容の提示はあるか、(六)客観的な評価を下しているか、(七)オリジナルな発想は含まれているか、(八)幅広い読者を想定したわかりやすい表現か、(九)全体像としての論旨は明確かについて、私にできる範囲で確認した。何よりも重視したのは、「その著者だけにしか書けない新書」か、というポイントである。
 残念ながら、膨大な数の「玉石混淆」の新書の中には、つまらないものも多い。新聞・雑誌記事からの流用や、ウィキペディアなどネット情報の無断転載をまとめただけのような、その場しのぎの「いい加減な新書」がある。他者のアイディアや研究成果について、明確に表示することなく、あたかも自分の文章であるかのように言い回しを変えながら適当に書き換えた「盗用に満ちた新書」もある。さらに、政治的に極端に偏った主張や、非科学的・疑似科学的な見解、あるいは他者を誹謗中傷するヘイトスピーチそのもののような「ダメな新書」もある。しかし、少なくとも本書が紹介する「新書一〇〇冊」には、そのような心配のある新書は一冊もないはずなので、安心して読み進めていただきたい。
 本書の書評は、世間に普及する一般的な書評のように、単純に新書の中身を紹介するだけではなく、世間話のようなエッセイから始まって、いつの間にか新書の重要な情報とその意義に迫り、最後に「本書のハイライト」で著者自身の言葉を引用して終わる形式になっている。その余韻の中で、読者には、その先に何が見えてくるのか、じっくり考えていただくという趣向である。
 連載にあたっては、どの新書をどの順番で掲載するか、類似した内容の新書が並ばないように、考え抜いて選択してきた。読者が「視野を広げる読書」ができるように、「多様性」を重視してきたからである。本書の掲載順も連載時と同じなので、読者には、ランダムに気が向いたページから眺めていただきたい。そして、ついでに隣のページを読み進んでみると、まったく新たな分野に視野が広がるはずである。
 本書は、ふとしたときにすぐに手に取れる場所、たとえばベッドサイドやリビング、待合室、あるいは化粧室に常備していただけるとありがたい。いつでも、気軽に、お楽しみいただけたら幸いである。

高橋昌一郎『新書100冊』光文社新書、pp. 3-5.

おわりに

 改めて本書の一〇〇冊の書評をまとめて見ると「壮観」である。読者には、その「多様性」を存分に味わっていただけただろうか。何よりも、本書が読者の「視野を広げる読書」のお役に立つことを心から期待している。
 ここで、珠玉の一〇〇冊を世に送り出してくださった著者の皆様に、深く感謝したい。同時に、すばらしい著者を見出して執筆を依頼し、共に編集作業を行い、最終的に出版にまでこぎつけてくださった編集者の皆様にも厚くお礼を申し上げたい。
 絶対に「その著者だけにしか書けない新書」として、とくに印象に残っている新書がある。
 縄文式小屋に暮らし、古代人の道具と材料だけで「丸木舟」を作った雨宮国広氏の『ぼくは縄文大工』、カラスを騙す多彩な方法を研究し、カラス食を推奨する塚原直樹氏の『カラスをだます』、「中絶によって振り回されてきた自分の生涯」を突き詰めて、性と生殖問題の専門研究者となった塚原久美氏の『日本の中絶』、歴史学者として生きてきた自らの半生を曝け出し、今後の日本の歴史学に警鐘を鳴らす本郷和人氏の『歴史学者という病』、「なぜ高山植物は美しいのか」を解明するために日本中の山を歩き回り、「高山植物」に研究人生を捧げた工藤岳氏の『日本の高山植物』……。
 一流の科学者が、最先端の研究成果をわかりやすく解説してくれる秀逸な新書もある。
 衝撃的なタコの能力を解説する池田譲氏の『タコの知性』、熱帯魚が鏡像自己認知テストに合格することを発見した幸田正典氏の『魚にも自分がわかる』、世界で最高の超高圧実験に成功した廣瀬敬氏の『地球の中身』、古代DNA解析から人類の発祥に迫る篠田謙一氏の『人類の起源』、「マルチバース理論」の科学的な反証可能性を解説する野村泰紀氏の『なぜ宇宙は存在するのか』、人間の脳が積極的に記憶を消す理由を解き明かす岩立康男氏の『忘れる脳力』……。
 日本の抱える諸問題に本質的に斬り込む斬新な新書もある。
 宇野重規氏の『民主主義とは何か』、室月淳氏の『出生前診断の現場から』、神内聡氏の『学校弁護士』、瀬木比呂志氏の『檻の中の裁判官』、青木栄一氏の『文部科学省』、添田孝史氏の『東電原発事故』、古賀茂明氏の『官邸の暴走』、志賀賢治氏の『広島平和記念資料館は問いかける』、鈴木宣弘氏の『農業消滅』、濱島淑惠氏の『子ども介護者』、坂倉昇平氏の『大人のいじめ』、斉加尚代氏の『何が記者を殺すのか』、志水宏吉氏の『ペアレントクラシー』、久保田潤一氏の『絶滅危惧種はそこにいる』、田中圭太郎氏の『ルポ 大学崩壊』、高橋祐貴氏の『追跡 税金のゆくえ』、櫻井義秀氏の『統一教会』……。
 こうして改めて挙げていくとキリがないので止めるが、いかに新書が「知的刺激の宝庫」であるか、この短い紹介だけでも感じていただけると思う。とくに学生諸君には、SNSで動画を眺めている時間があったら、その半分の時間でも構わないので、ぜひ興味のある新書を手に取ってほしいと思う。最近の図書館は、数多くの電子書籍の新書も提供している。
 最後になったが、本書出版の機会を与えてくださった光文社新書編集長の小松現氏と書籍化を担当してくださった光文社新書編集部の江口裕太氏に深く感謝したい。
 新書出版各社が競合している中で、光文社が、他社の新書を取り上げる書評を堂々と私に連載させているという事実は、他に類を見ない「学問・表現の自由」の追求であり、すばらしい試みだと思う。信じ難いほど「太っ腹」な精神で新書出版業界を活気付けようとする光文社の姿勢に、感じ入るばかりである。
 國學院大學の同僚諸兄、ゼミの学生諸君、情報文化研究所のメンバー諸氏には、さまざまな視点からヒントや激励をいただいた。それに、家族と友人のサポートがなければ、本書は完成しなかった。助けてくださった皆様に、心からお礼を申し上げたい。

高橋昌一郎『新書100冊』光文社新書、pp. 441-444.

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Thank you very much for your understanding and cooperation !!!